地方創生フォーラムでAirbnb ジャパン社長の「新しい旅」の話を聞いた

 

シンポジウム風景

 

地方創生の視点から捉える「民泊の新たな可能性」と題するフォーラムが2月12日、日経ホールで開かれた。田舎に実家を抱えており、民泊に活用する可能性も考えていたので何かヒントはないかと聞きに行った。

プログラムは村田茂樹観光庁観光地域振興部長が「観光先進国に向けた民泊の活用」と題して最初の基調講演を行った。民泊を取り巻く状況を説明し、2019年の訪日外国人旅行者数が前年比2.2%増の3188万人と過去最高を記録したことなどを示した。

ただ韓国からの旅行者数が8月以降、日韓関係悪化を受け半減する状況が続いた半面、ラグビーW杯2019日本大会開催を契機に欧州各国からの旅行者数拡大が全体を下支え、過去最高だった。しかしここへきて中国・武漢を発祥元とする新型コロナウィルスによる肺炎の感染拡大がはっきりしてきており、東京五輪も開催が予定されているものの、2020年の目標4000万人達成も厳しい状況になりつつある。

村田部長は住宅宿泊事業法(民泊新法)が18年6月15日に施行され、年間180日を超えない民泊サービスは可能であると述べた。利用者の4分の3は外国人で、利用者の行動はまだ都市部が中心で、地方への普及が今後の課題であると語った。

また次いで元シンクロナイズド・スイミング選手の田中ウルヴェ京(みやこ)氏が登壇し、「Airbnbとオリンピアン~元選手として、メンタルトレーナーとして、国際オリンピック委員会(IOC)マーケティング委員としての立場から~」と題して講演した。

田中氏は1988年ソウル五輪シンクロ・デュエット(2人)銅メダリスト。米国でスポーツ心理の修士号を取得し、日本スポーツ心理学認定メンタルトレーニング上級指導士、国際オリンピック委員会(IOC)マーケテイング委員に就任。IOC認定アスリートキャリアトレーナー。なでしこジャパンなどのメンタルトレーナーを務める一方、報道番組のコメンテーターも勤めている。夫はフランス人で一男一女の母でもある。

田中氏の話の中で興味深かったのは「選手時代、どういう方法でやる気を維持していたのか」と質問された際、「やる気があるときも、ないときも、練習に行くのが自分の仕事」「やる気のない自分とも話をする」と答えたことを覚えていると語った。やる気があるときも、ないときも同じように練習することが重要なのかもしれない。

「いつもやる気を持続するのは難しい。やる気がなくなるときも確かにある。それでも練習には行って、やる気のない自分とそれについて話をすることが大切だ」ということだと思う。

また「こうでなければならないと考えるのは難しい。メンタルがしなやかなことが試合に勝つ方法だ」と語ったことも印象深かった。運動神経が抜群に強い選手は多いものの、メンタルに弱い人も多いのが現実だからだ。

一番楽しみにしていたのはAirbnb Japan の田辺泰之社長の話だった。テーマは「Airbnbが提供する新しい旅の面白さ」。Airbnb(本社:米カリフォルニア州サンフランシスコ)。日本語名ではエアビーアンドビー。日本では「エアビー」の愛称もある。

最初に話したのは社名の由来についてだった。創業者の2人(ブライアン・チェスキーとジョー・ゲビア)はサンフランシスコのアパートの家賃が払えなくなるところから着想。SFでイベントがあるので簡易的なブログを立ち上げて提供するとお金が入るのではないかと考えてスタートした。押し入れに入っていたエアマットレスを3つ膨らませてロフトに3人泊まれるよと案内したところ、インドから1人、米国内から2人の申し込みがあった。エアマットレスを膨らませて提供したというところから「Airbnb」という名前になった。

粗末な宿泊所だったので罪滅ぼしもあって自分たちの地元をできるだけ紹介してあげようとした。地元民に地元を案内してもらうと「こういうSFがあるのか」「地元の人はこういう形でスーパーに行って買い物をするんだ」と地元の暮らしが垣間見れるということでゲストも大喜びだったし、ホストも今までなら会えないような人たちと交流することで楽しい思いができた。宿泊場所を提供したけれども、提供する体験が面白いということでスタートしたビジネスだという。

ビジネスは大きく分けて①宿泊場所を提供するサービス②宿泊場所は提供できないが、体験だけを提供するーの2つ。220以上の国で宿泊サービスを展開中で、物件数でいえば770万件以上。累計のゲスト数は5億人を超えた。1日当たり約200万人以上が宿泊している。

世界中で予約可能な体験数は世界で4万件、可能な都市は1000都市以上になっている。

日本では2014年5月に日本法人が設立され、18年6月15日に民泊新法が施行され、加速している。9万室以上の物件をホームページ上で提供。家を模様替えしなくてはならないなど気合いを入れなくても、普段の生活を垣間見ることだけで客は非常に喜ぶ。普段の生活をそのままお見せするだけで喜んでいただける。

いろんなところで話をして、こすりすぎているが、どうしても言いたいのは「ただでコーヒーが飲めるよ」と言って連れて行ったところがカルディの試飲だった。ただで試飲できたことだけでも喜んでもらえた。おもてなしをしないといけないとかしこまっている必要はなく、普段の生活をお見せするだけで喜んでもらえる。こういう活動をしているホストが日本中にいる。

地域でニーズが異なるので地域に合わせた取り組みをしている。われわれはプラットフォームなので日本の企業と一緒にさまざまな取り組みを提供している。最初の取り組みとしてAirbnbキャラバンが北海道、大阪、島根を回って意見を聞いた。

Airbnbはあくまでプラットフォーム。お皿みたいなものだ。コンテンツは地元の方々が提供する宿泊場所だったり体験だったりする。どのくらいの数を乗せたいのか、どのくらいのペースなのかは自治体・企業と地元ホスト次第。これらの成長をサポートしながらともに連係していきたい。

2020年東京五輪グローバルパートナーとして動き始めている。オリンピックアスリートの知見に触れられる体験を増やしていきたい。

東京五輪は一生に一度の貴重な体験かもしれない。世界中の方々が訪日するときに新しい参加方法を提供するのも面白い。空いている部屋や家を貸し出すお手伝いをしたい。マーケティングなくして191カ国に広まったのは観光はもちろん、観光の先にあるコト消費、体験をしたいのに加えて、誰かにそれを伝えたいと思っている。伝播力が強かった。マーケティングを全くしないで伝播力だけでAirbnbのコンセプトを広めた。

現在、東京五輪に世界中から人が来る際に同じような効果を生むような仕組み作りができるように考えている。

「イベントホームステイ」という新しい取り組みもある。宿泊を通した旅行者と地域住民との交流を促進するものだ。五輪期間中だけだが、その期間中にホームステイもできる。海外から来る人たちと交流ができる仕組みだ。まず千葉市と連係し、イベントホームステイを活用したホームシェアを実施する。国際交流をサポートする仕組みだ。

千葉市意外にも、射撃競技の開催場所となる埼玉県和光市などともAirbnbが東京五輪期間中の「イベントホームステイ」での連係を公表しており、今後続々と発表される見通しだ。

観光して何かを見ただけではなく、地元を知ることでもう一度来たくなる。再訪を期待できる。口コミ効果もあって新しい客の到来も期待できる。

もちろん大きな経済効果も期待できる。2018年冬期平昌五輪の利用ゲスト数は約1万5000人、ホストの収入は2億3000万円に上った。ラグビーWC杯時の全国宿泊数は前年同期比1.5倍の65万人。いままで人が行かなかったところに人が行くことによって様々な周辺ビジネスが生まれる。食事も必要だし、宿泊時のクリーニングやリネン交換などの効果も出てくる。

初期投資を低くして始められるのが特徴だ。自分のペースで参加できるフレキシブルであることが魅力的だ。

日本とホームシェアリングは相性が良い。どこに行っても違う文化があるし、美味しい食事も異なる。体験型の旅も欧米からスタートしているが、日本でもコト消費が増えている。日本のさまざまな伝統文化も国内を旅することによって継承できる。インバウンド客だけではなく、日本の人たちも国内旅行を楽しんでいただいて日本のすばらしさを体験をしてもらいたい。Airbnbはそのお手伝いをしていきたい。

「自分でコツコツ作っていくものが旅」だと思っていたら、時代はそんなに悠長ではない。むしろ「あれしろ、これしろ」と追い立ててくる。それもビジネスとしてせかさせる。田辺氏の話を聞きながら「忙しい時代になったものだ」と毒づくのは私1人だけかもしれない。

 

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