分裂を回避し大国としての地位を回復したプーチン・ロシア大統領の業績
ゲスト:畔蒜泰助(あびる・たいすけ)笹川平和財団シニア・リサーチ・フェロー
テーマ:プーチンのロシア
2020年2月19日@日本記者クラブ
ロシアのプーチン大統領は2000年3月の大統領就任から20年間、ロシアのトップを務めている。2017年から19年9月まで国際協力銀行(JBIC)モスクワ駐在員事務所の上席駐在員を務めた畔蒜泰助氏がプーチン氏がもたらした変化や今後のロシアについてほぼ以下のように話した。
・プーチンは1999年12月30日付独立新聞に『千年紀の移行期のロシア』と題する論文を発表した。この中で、ロシアの伝統的な価値観として愛国主義、大国主義、国家主義を挙げた。このうち大国主義について日本人は感覚的になかなか理解できないが、ロシアは大国でなければいけないのはロシアの地政学的、文化的なアイデンティティーだ。米国や英国など市民社会が社会を変えていく伝統ではなくて国家が先頭に立って社会を変えていく推進力になっていく。こういう伝統を踏まえた上で改革をやっていかなければならないという考え方だ。
・強い国家も重要だ。機能する国家をもう一度取り戻す。新興財閥が自分たちの利益のために国家を指導する状態が長く続いたが、これを改め、政府機構や運営の合理化・公務員の質の向上、汚職との闘い、優秀な専門家を集めるための政府の人材登用を改革していく。
・効率的な経済も必要である。長期戦略の必要性、経済・社会分野の国家規制システムの構築、ロシアの条件に合った改革戦略への移行などがそれだ。
・プーチンは最後に「ロシアは数世紀にわたる歴史において最も困難な時期の只中にいる。おそらくこの200~300年で初めて世界の二流国家、いや三流国家に成り下がってしまう現実的な危機に瀕している。このようなことが現実化しないようにするには、ロシアのあらゆる知的、肉体的、道徳的な力を傾注する必要がある。足並みの揃った創造的な作業が必要である。我々以外にこれをやる人々はいない。全ては我々のみに掛かっている。危機のレベルを理解し、力を結集し、激しく長い作業へと気持ちを向かわせる我々の能力に掛かっている」と危機感を表明した。
・この当時のプーチンにとってロシアは大国であり、一流国でなければロシアではない。この時期のロシアにとって一流国のプライドを維持できないくらい大きく弱体化していた。強いロシア、大国のロシアをもう一度取り戻すことを自らに課して大統領になった。
・20年が経った。2019年10月3日、ヴァルダイ・ディスカッション・クラブが主催する会議の最終日にプーチン大統領が来て、『千年紀の移行期のロシア』に言及するスピーチを行った。
・20年前、2000年になる直前に私の論文『千年紀の変わり目のロシア』が発表された。当時、この中で行われた世界情勢や発展の見込みに関する分析は全体としては現実に沿ったものだったと思う。
・実際、ロシアは1990年代、自らの歴史の中で最も難しい時期の最中にあった。国内政治・経済・社会が最も厳しい危機に直面していたのに加え、我々はさらに国際テロからの脅威にさらされていた。ロシアは当時、国家の崩壊・解体というあらゆる民衆・国民・国家にとって最悪な状況が起こるかもしれない非常に危険な状況に近づいていた。その危険性は差し迫っていたし、国民の大半がそれを感じていた。
・この当時、我々は全面的な内戦の奈落に陥り、国家の統一性と主権を失い、世界政治の周辺に置かれる可能性が十分にあった。ただ、ロシアのロシア民族並びに他の民族の並み外れた愛国主義と勇気、例外的な忍耐と勤勉さのお陰で我々はこの危険な状況から脱することができた。
・ロシアには確かにまだ多くの未解決の問題が残っている。その一方で、政治的安定性と全ての国民の努力のお陰で、ロシアは回復し、経済・社会的に強いなり続けているのみならず、地球における主要かつ有力で責任を持った一大国としての地位を自信を持って占めている。我々の国は現存する世界秩序を担保する国の1つとしての義務を完全に履行している。これからもそうあり続けると確信している。
・われわれは『千年紀の変わり目のロシア』の時期に感じた危機から脱した。世界の大国として復活をしたと述べた。
・プーチンが残した業績とは何か。国家の統一性の維持と真の国家主権の回復/世界政治における大国(a great power)としての地位の回復の2つを成し遂げた。チェチェン共和国の分裂危機は回避されたこと。さらには外的圧力に抗して政治的な決断を下せる国家であり、必要であれば、他国の支援なしに自国を防衛できる国家のことを指す。
・ロシアという国の行動原理を理解する上で大国主義はどうしても必要だと思う。