「授業は中止だが、自宅学習は継続」3億人がオンライン教育で危機を乗り切る中国

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて全国の小中高校などの一斉休校が2日から始まった。学校現場では大きな混乱が広がったが、はっきりしたのは日本が中国や韓国に比べ、オンラインを利用した教育面で大きく遅れていることだ。とりわけ中国のオンライン教育はアプリも充実しており、アプリ業界にとって今回のコロナウイルス騒動は格好の商機となっている。

感染源の中国政府は2日、同日午前0時（日本時間同1時）時点で、中国本土では既に8万0026人（202人増）が感染、2912人（42人増）が死亡したと発表した。2位の韓国、3位の日本より患者数も死者数も格段に多いが、学校現場で大きな混乱が起こっているとは伝わってこない。

理由として考えられるのは、中国が民主主義国家ではなく共産党による独裁国家であり、情報統制が行き届いていることもあるものの、最も大きいのはオンラインによる自宅学習が格段に普及していることだ。同国政府も戦略的に後押ししている。オンラインで授業やビデオ会議ができるプラットフォームが充実しているのだ。教室での相変わらずの画一的授業の日本とは違って、中国はオンライン教育利用者数が急増している。

人民網日本語版（2019年3月12日）によると、18年12月時点で中国のオンライン教育利用者総数は2億0100万人と2億人を突破した。技術革新の発展に伴い一段と普及する見通しで、20年までに2億9600万人に達する見通しだ。

中国の国家教育部は1月27日、新型肺炎の拡大を受け、20年春学期の授業開始の延期に関する通知を発表した。春学期は3月初旬から始まるが、3月中は休校とする措置だ。

また1月29日には、小中学校の休校期間中は、オンライン授業を受けることで学習を継続するとした方針をウェブサイトに掲載した。課外教育を暫時停止させた上で、インターネットを利用した情報化教育を学生らに提供し、「授業は中止するものの、勉強は中止しない」方針を明記した。

日本貿易振興機構（ジェトロ）によると、これを受けて、中国国内の主要なオンライン教育サイトである「新東方在線」や「学而思網校」、「有道精品課」、「VIPKID」、「踉誰学」などは相次いで学生向けに無料オンライン授業の提供を開始した。

中国国営通信社CNSによると、大手IT集団「網易（NetEase）」傘下の有道精品課は2月24日、同日より武漢市の小中学生に対し、冬休み講座を無料で提供すると発表。好未来（TAL）は同26日、湖北省の教育・訓練企業に対し、同時中継プラットフォームと技術的サポートを無料で提供すると発表。さらに同27日には「新東方（New Oriental Education & Technology Group）」がオンラインの全ての春季補講クラスの実況中継課程を無料開放すると発表している。

「新東方在線」は05年に新東方教育科技集団を設立、06年ナスダック上場。北京を拠点に同集団が運営している。英語およびその他外国語のトレーニングや国内外の試験対策、K－12教育などのサービスを行っている。19年8月時点の固定ユーザー数は220万人。

また「学而思網校」は03年8月設立。10年ナスダック上場。北京に運営会社の好未来教育集団を置き、K－12を対象にサービスを実施している。固定ユーザー数は19年7月時点で50万人超だ。

 

オンライン教育は、距離と時間の制約を受けずに世界中の教育リソースを活用できるほか、何度も繰り返し学習できるなどの利点がある。中国では、新しい教育手段の1つとして10年ほど前から普及してきており、近年ではK－12オンライン教育（幼稚園の年長から小学校、中学校、高校までの合計13年を対象とする教育）が広く展開されている。

中国インターネット情報センターによると、19年6月時点の中国におけるオンライン教育ユーザー数は約2億3200万人で、中国におけるインターネット利用者の27．2％を占める。iiMedia Researchは、中国のオンライン教育ユーザー数が20年には3億0500万人に達すると推計。今回のコロナウイルスによる肺炎の感染拡大を契機に、中国のオンライン教育市場は今後さらに拡大することが予想されるとみている。

日本でもオンライン教育への関心が高まっている。従来型の家庭教師派遣事業に加えて大学受験専門プロによるインターネット教育サービス「メガスタディ　オンライン」を運営しているバンザン（本社・東京都新宿区）は、「講師が自宅に訪問せずにオンラインで指導を行いますので感染リスクは一切ありません。安心して指導をお受けいただけます」と訪問しないメリットを積極的にアピールしている。