ようやく承認が下りた米の「レムデシビル」、国産「アビガン」は5月中か=COVID-19治療薬
■ワクチンは予防薬、抗ウイルス薬は治療薬
新型コロナウイルスのワクチン開発をめぐって各国が激しい主導権争いを演じている。先行する米国は自国での供給・備蓄を目的に1000億円超を投じて、欧米医薬品企業の実用化を後押しする。中国も国を挙げて開発を強化し、欧州勢も参戦している。国際協調を模索する向きもあるが、国主導の開発スピードが加速している。
ワクチンとは感染症の予防接種に使用される薬液のこと。ワクチンを接種すると、実際には病気にかからなくてもその病気に対する免疫ができ、病原体が体内に侵入しても発症を予防したり、症状を軽度ですませたりできる。ワクチンとは予防薬の代表的なものだ。
天然痘ワクチンが最初に発見され、実際に予防し、天然痘の根絶に貢献した。インフルエンザワクチンなどたくさんある。一方、既に病気にかかった患者を治す、あるいは症状、病態を緩和し、悪化を抑えるのが治療薬だ。ウイルス感染症患者に投与する抗ウイルス薬が代表的な治療薬だ。
■レムデシビルが承認第1号
レムデシビル(製品名ベクルリー)はエボラ出血熱の治療薬として米製薬会社ギリアド・サイエンシズが開発してきた抗ウイルス薬。新型コロナウイルス(COVID–19)の治療薬として最も有望視されてきた薬剤の1つ。
米食品医薬品局(FDA)は5月1日、レムデシビルについて、COVID–19の重症入院患者を対象に緊急時使用許可を与えた。許可の根拠となったのは米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導で中等症から重症の患者を対象に行われた臨床第3相(P3)試験と、ギリアドが行っている重症患者対象のP3試験。
AnswersNewsによると、NIAID主導の試験では、回復までの期間をプラセボ(偽薬)に比べて31%早めることが示され、死亡率も有意差はつかなかったものの、改善傾向が示されたという。
FDAは安全性を確認した正式な「承認」ではなく、緊急認可として使用を認めた。米国各地の医療機関への約14万人分の無償提供が4日始まる。政府が重症患者が多い医療機関に優先的に配分する。症状に応じて5日間もしくは10日間、静脈注射で投与する。
■レムデシビル、申請から4日間の特例承認
日本では、ギリアド・サイエンシズの日本法人が4日、厚労省に承認を申請したのを受け、4日間で審査を終え、7日に承認した。海外で販売されている薬が日本で承認されていない場合に審査期間を短くする医薬品医療機器法に基づく「特例承認」を適用した。
命にかかわることとは言え、特例に次ぐ特例措置だった。ニッセイ基礎研究所保険研究部主席研究員、篠原拓也氏によると、「一般的に1つの新薬の開発には9~17年の時間を要し、300億円以上もの費用が必要となる」。気の遠くなるプロセスを踏む。
そうした過程をすべてパスしたのが今回の承認劇だ。戦時であり、人がバタバタ倒れているときに悠長なことは言っておれない。これはトランプ米大統領の政治決断によって実現できたものだ。トランプ氏でなくても、やるだろう。
レムデシビルはエボラの治療薬としては有効性が低いとして開発が中断された薬だという。
■アビガンは5月中に承認か
日本が救世主として大きな期待を抱くのが富士フイルム富山化学が2014年に抗インフルエンザ薬として開発したアビガン(一般名ファビピラビル)。抗インフルエンザ薬なので、市場には流通していないが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄している。
アビガンはレムデシビルと同様のウイルス増殖抑制の機能を持つ。しかし、日本の場合、承認審査の仕組みが柔軟性に欠ける点が今回明らかになった。政府が治験終了後に改めて審査、承認する必要があるからだ。日本政府が治験後に特別な措置で承認しても、アビガンの国内実用化は今夏になる見通し。
アビガンについては妊婦に投与すると胎児に影響が出る副作用や1人の治療に想定した量の3倍量が必要となるなどのリスクもあると指摘されている。
安倍首相は5月4日の記者会見で、5月中の薬事承認を目指す考えを明らかにした。厚労省に手続き加速を指示した。何でも早くすればいいというものではないが、効果が確認されたものならば、手続きに何カ月も掛ける必要はないはずだ。
生きるか死ぬかの瀬戸際である。安全性は重要だが、安全性に拘っていると、その前に死んでしまうのなら、何のための安全性かということになる。厚労省も今がどういう時代なのか、平時か戦時かをしっかりわきまえた上で迅速に判断するべきだ。