年間612万トンの食品ロスの削減は「測る」「見える化」で可能=井出留美氏

 

食品ロス

 

■井出留美氏が食品ロス問題で基調講演

 

消費者庁と日本経済新聞社は3月15日、SDGsフォーラム特別シンポジウム「消費者共創会議」を開催した。同会議では食品ロス問題ジャーナリストの井出留美氏が「SDGs達成に向けた食品ロスの削減を共に考える」と題して基調講演を行った。

・食品ロスとは「まだ食べることができるにもかからわず捨てられてしまう食品」のことを指す。農場から流通までの過程で捨てられるものをフードロス、小売り・外食・家庭で捨てられてしまうものをフードウェイストという。日本ではこの2つを合わせて食品ロスと呼んでいる。

・下のほうが消費者が入手し得るものとなる。最近、食品ロスのことを指してフードロスという言い回しをするようになったが、英語圏の人から言うと、小売り・外食・家庭から出るロスを含まないことになるので注意が必要だ。

 

 

ロスの内訳は家庭46%対事業体54%

 

■日本の食品ロスは年間612万トン

 

・昨年10月、国連WFPがノーベル平和賞を受賞した。WFPが援助している世界の食料援助量は年間420万トン。この1.5倍に当たる612万トンを日本の中で捨てている。この量は東京都民1400万人が1年間食べる量に匹敵する。

・この日本の食品ロスの内訳を見てみると、家庭から発生するものが46%、事業者から発生するものが54%とほぼ半々になっている。この事業者から発生するものの中にもわれわれ消費者が作っているものもある。

・例えばすぐ食べるのにお店に行ってできるだけ賞味期限の新しいものと取ろうと奥から取ってしまう。手前が残ってしまう。消費者が起こした行動によって事業者のロスとなってしまう。

・これらは店だけが負担していると思われているかもしれないが、そうではない。食品メーカーから発生した食品ゴミは産業廃棄物、いわゆる産廃としてメーカーが処理をする。

一方、コンビニ、スーパー、百貨店で売れ残った食品ゴミは産廃ではなく、事業系一般廃棄物という括りで多くの自治体では家庭ゴミと一緒にわれわれが納めた税金を使って焼却処分している。このコストは自治体によって異なるが、東京都世田谷区では事業系一般廃棄物1kg当たり56円かかっている。

・日本ではこの生ごみを含めたゴミ処理費は年間2兆円を超えている。しかも生ごみというのはその重量の80%が水分だ。水分が多いと燃えにくい。燃焼材をかけて、エネルギーやコストをかけて環境を汚して処分している。

 

温室効果ガスの排出順位

 

・この表は世界で温室効果ガスをたくさん出している国の順だ。一番は中国、2番は米国、3番はインド、4番はロシア、日本は第5位だ。世界の食品ロスが1つの国だと仮定すると、食品ロスは世界で第3位の温室効果ガスの発生源になっている。

 

食品ロスから出る温室効果ガスの量は自動車に匹敵

 

・食品ロスから出る温室効果ガスの量は自動車の量に匹敵する。気候変動に与える食品ロスの影響の大きさを示している。

・各国が実質ゼロを目指しているが、その1つがスコットランド。2045年までにゼロにする目標を設定した。スウェーデンと並び「世界で最も難しい」といわれている。再生可能エネルギーの発電量を3倍にすることで温室効果ガスの排出量を2008~2018年の間に31%削減した。次は食品ロスの削減に目標を据えている。

 

日本も2050年までに実質ゼロに

 

・世界の焼却炉の半分以上が日本にあるという状況だ。「燃やせばいい」「燃やせば熱が出るからそれを使えばいい」というサーマルリサイクルと見なされているが、EUでは見なされていない。日本も食品ロスを削減することで温室効果ガスをさらに抑制する必要がある。

 

10の提言

 

・日本の消費者の88%は棚の奥から商品を取る。他の国もそういう傾向があり、デンマークも「多くの場合、その後もおいしく食べられる」と追記するなどコープ神戸が行っている食品ロス啓発キャペーン「手前取り」と同じことを紹介している。ハンガリーのそう。デンマークは5年間で25%食品ロスを削減できた。

 

京都市の場合

 

■食品ロス削減には「測ること」が有効的

 

・食品ロスを削減するうえでは事業者も家庭でも測る、見える化することが大事だ。京都市は2000年に82万トンあったゴミを2020年には半分に減らした。京都市が行っているのは「測る」「見える化」だ。

・家庭ゴミについては全国の政令指定都市の中では京都市は一番少ない。事業系がなかなか減りずらかった。スーパーでは消費、賞味期限一杯まで売らない。そのずっと手前の販売期限を設定し、商品棚から撤去する。

・これが「もったいない」ということで、ぎりぎりまで売ったらどれだけロスが減るか実験したところ10%も減った。売り上げは5.7%増えた。実証実験をすることで市民や事業者に呼び掛けて「半減」を達成した。京都市の成功事例を見ると、人口の多い自治体や観光地も削減は可能だ。

・徳島県の家庭でどんな食品をどれくらい捨てたか。それを測ってみた。「測る」だけで23%食品ロスが減った。兵庫県神戸市でも同じような結果が出ている。

・「測る」というのは面倒に思えるが、習慣づけると歯磨きみたいなものだ。「測れば減る」。測るだけダイエットがあったが、測ることで意識に上る。見える。そのことが行動を変えている。

・「分ければ資源、捨てればゴミ」という言葉がある。日本では家庭ではロスを測っていないし、分けてもいない。生物も一緒くたにして燃やすゴミとして焼却処分している。

 

千葉県市川市 生ごみを分別しバイオマス化

 

■市川市では生ごみ専用ボックスを設置

 

・首都圏では難しいと思っていたが、ここへきて千葉県市川市が実証実験を始めた。24時間投入できる生ごみ専用スマートi-ボックス。数年後には300基設置する予定だ。

・これまで焼却処分していた生ごみが資源として役立つことが分かる。福岡県大木町おおき循環センター。生ごみを分別回収し、それを液体にし肥料にする。液体の肥料を農地に投入しコメや野菜・果物をつくり、そこで取れた農産物を学校給食や家庭で消費する。また生ごみが出たら堆肥・液肥にする。この繰り返しだ。香川県でもリサイクルを実現している。

・福井県池田町では生ごみ+牛ふん+籾殻=土魂壌。有機肥料を販売している。有機米を生産している。

 

コレクティブ・インパクトで社会的課題の解決を

 

■課題解決のためにはみんなが力を合わせる必要

 

・いつのステークホルダーだけでは解決できない。企業だけではだめ。行政、NPO、学界(アカデミア)みんなが力を合わせて、フランとで平等な立場で共通の目的意識を持って解決していく。これをコレクティブ・インパクト(CI)と呼んでいる。

・食品ロスは多くのステークスホルダーが力を合わせて削減に取り組んでいく必要がある。

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