【日米首脳会談】バイデン米大統領、台湾有事に軍事介入を明言=クアッドで「インド太平洋枠組み(IPEF)13カ国で立ち上げ

日米首脳会談(NHK)

 

■バイデン氏、「台湾有事に軍事関与」を明言

 

岸田文雄首相とバイデン米大統領は23日、東京・元赤坂の迎賓館で2時間15分会談した。中国を念頭に抑止力強化へ協力するとの日米共同声明を発表した。

バイデン大統領は共同記者会見で台湾有事の際は米国が軍事的に関与すると明言する一方、岸田首相は防衛費を大幅増加する意向を表明した。

バイデン氏は会見で中国が台湾に侵攻した場合に米国が軍事的に関与する意思があるかと問われ、「はい。それが我々の約束だ」と答えた。

岸田首相は国内総生産(GDP)比1%程度にとどめてきた防衛費について「相当な増額を確保する」と強調した。ミサイル防衛に関しても「反撃能力を含めてあらゆる選択肢を排除しない」と話した。

従来は米国が「矛」、日本が「盾」と例えられていたが、共同声明は「2国間の役割および任務を進化させ共同の能力を強化させる決意をした」と見直しを示唆した。

共同声明はまた、「国際秩序の当面の最大の脅威は、ロシアによるウクライナに対する残虐でいわれのない不当な侵略であるとの見解で一致した。ロシアがその残虐行為の責任を負うことを求めた。ウクライナの主権および領土一体性に対する支持を改めて確認した」とうたった。

 

クアッド首脳会議(NHK)開幕

 

■クアッド、IPEF立ち上げ

 

バイデン米大統領は23日、米国の主催により東京で新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の立ち上げを表明した。日米と韓国、インドなど13カ国を創設メンバーとし、中国に対抗してサプライチェーン(供給網)の再構築やデジタル貿易のルール作りなどで連携する。

日米韓印のほか、オーストラリア、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの13カ国が参加する。

サリバン国家安全保障担当補佐官は「世界のGDPの4割を占め、インド太平洋地域での米国のリーダーシップを拡大する」としている。バイデン大統領は「米国はインド太平洋に深く関与している。21世紀の競争にともに勝つことができる」と語った。

協議分野は①デジタル経済を含む貿易②供給網の強化③インフラ・脱炭素④税と汚職防止-の4つ。分野ごとに参加国は変わる。通商交渉の本丸である市場開放には踏み込まず、参加国のメリットが見えない不完全なものだとの指摘もある。

日本、米国、オーストラリア、インド4カ国の連携枠組み「クアッド」の首脳会議は24日午前、首相官邸で対面で開かれた。4首脳は中国の台頭を念頭に「あらゆる威圧的、挑発的、一方的な行動に強く反対する」とした共同声明を発表した。ただロシアと伝統的に友好関係にあるインドの立場を考慮し、ウクライナ情勢に関しては懸念を共有するにとどめた。

バイデン氏は会議で、「私たちは歴史の中で暗黒の時代の舵取りをしている。ロシアのプーチン大統領はウクライナ文化を抹消しようとしている」と非難。同時に「米国はインド太平洋における強固で安定した永続的なパートナーだ」と述べ、インド太平洋重視は不変だと強調した。

 

■インドをこちら側に取り込んだだけで成功

 

BSフジLIVEプライムニュースは24日の番組で日印協会理事長で元インド大使の平林博氏が出演。インドの立場について解説した。宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹とウォール・ストリート・ジャーナルのピーター・ランダース東京支局長も参加した。

・平林氏=モディ・インド首相が日印協会の会合で話したところによると、クアッドに参加したのは安倍晋三さんの推薦だ。クアッドは安倍さんのインド太平洋戦略の延長線上にある構想。だから自分は参加した。日本がホストならインドの立場を十分勘案してくれるはずだからだ。

・インドに「台湾について態度を表明しろ」と言ったり、公の場で何か言えと言っても所詮無理な話だ。インドは中国と一定の距離を保ちたい。英語で言うと、「at arm’s length」(腕を伸ばせば届く距離に)。宿敵ナンバーワンはパキスタンだが、これを助けている中国も宿敵ナンバーツーくらいに思っている。しかし適切な配慮で距離を保とうとしている。

・インドは「戦略的自立」という外交をやっている。昔の「非同盟」は死んだようなものだ。自分で一定の力を持ってそれで独自の外交をやる。大国らしい外交を行う。

・宮家氏=クアッドは同盟ではないし軍事のアライアンスでもない。あくまで4カ国のファーラムで、インドをエンゲージしたい、インドを関与するためにクアッドを作ったと私は考えている。

・インドを関与させて何をするかというと、インドが日米豪と何か一緒にやってくれるとは思ってもいない。インドは引き続き非同盟か戦略的自立かは別として、要するに向こう側(中ロ陣営)に行って欲しくない。向こう側に行かなければクアッドの目的は相当程度クアッドの目的は達成されたのも同然だ。

・インドの国防費は世界3位(766億ドル)。所有兵器の約6割がロシア製。唯一の空母はロシア製を改造。原子力潜水艦をリース。地対空ミサイルシステム「S400」導入。

・ランダースWSJ東京支局長=宮家さんの言う通りだと思いますね。インドがこれから完全にクアッドに参加してくれたらこしたことがないが、ロシアの武器を買わなくなって西側の武器を買うようになる。軍の構造を変えてロシアの依存度を下げていく。アメリカとしてはインドのロシアへの依存度を引き下げたいと思っている。

 

■インドの武器輸入の6割はロシア製

 

・反町キャスター=(アメリカがインドに武器を売るから買ってくれという話ではないか)

・ランダース支局長=首脳間でそういう話があったとしても今から公表できないかもしれないが、2年後、5年後に実は地対空システムの代わりにアメリカが提供する方向に持って行ければアメリカとして合格点でしょうね。

・平林氏=(軍事の脱ロシアは難しいのか)不可能ではないが、当面は難しいでしょう。インドの武器輸入の6割がロシア製だが、もう1つポイントがある。ロシアの武器輸出はドル払いではなくユーロ払いでもなくルピー払い。お互いの立場を考えて有利な通貨でやろうというふうになっている。

・外貨が惜しいインドとしてはロシアから非常に有利な条件で買える。冷戦時代からのインドとロシアの貿易のパターンなんです。イスラエルもフランスも潜水艦を供与したり、アメリカも輸出をしており、徐々にロシアへの依存度を下げている。

・兵器体系はそうすぐには変わらないことのほかに、外貨を使わないでロシアが売ってくれる特恵的な貿易のパターンも忘れてはならない。ロシアは世界におけるインドの重みを十分分かっている。ヨーロッパと同じ国土の大きさ、13億人5000万人の人口、核を持っているという抑止力、通常兵力も大きい、文化的な影響力もある。色んな意味でインドを取り込む価値があると思っている。

・インドのロシア産原油の輸入も増えている。3月は1300万バレル(去年の年間輸入量の約半分)。バイデン大統領はインドのロシア産原油輸入は国益にならないと反発している。

・平林氏=エネルギーについて言えばインドは原発の建設でロシアから支援を受けている。既設もあり、クダンクラム原発(インド南端のタミル・ナードゥ州ティルネルヴェーリ県クダンクラム地区)では資金面も含めロシアの全面的協力で建設中。

・インドはエネルギーを輸入に頼っている。陸はロシアだが、海は中国。中国は脅威だ。インドは二面性があるかもしれないが、事実が二面的なんだから、それに伴って政策も二面的になるしかない。

 

■インドはIT技術大国だが、半導体工場が1つもない

 

・平林氏=インドは有名なIT技術の先進国。米のマイクロソフトやフェイスブックもたくさんの人がインド人。しかし足りないのはハードなんです。IT製造業のハード面、一番大きいのは半導体。1つも半導体工場がないから、韓国、台湾、米国、日本に頼っている。産業のコメと言われる半導体が1つもない。

・工場を1つ持つのが夢なんです。半導体を作るには本当に綺麗な水、一秒も耐えない電力供給、人材、道を汚さないという民度が必要だが、まだ十分ではない。水も綺麗でなく停電もしょちゅう起こるところでは半導体なんかできるわけがない。

・インドは国内に半導体工場を何とかして作りたい。単に工場を作るだけでなく、半導体のサプライチェーンの中にインドを入れるのはインドにとって大きな魅力だ。

・必要なのは頭。入学試験も超難しい。米国はトランプ政権がインド人など国際人材の入国を絞った影響で日本に来ている。インド人は日本語を半年あればマスターできる。

・ランダース氏=アップルはiPhoneの9割以上を中国で作っている。これまでは労働力が豊富、地方政府が協力しているなどのメリットがあって依存度を下げることができなかったが、インドで作っている一部のiPhoneを増やそうとしている。中国が危ない。

・宮家氏=官僚主義、法令の不備、それに水と電気。インドで製造業をやるのがいかに難しいか。半導体は天災が5人いても作れない。優秀なブルーカラーが必要だ。可能性はあるが、克服しなければならない問題もある。

・IPEFとは何か。TPPとは違う。貿易協定ではない。今のバイデン政権には貿易協定を交渉する権限すらない。できるわけがない。IPEFは国際的な戦略があるが、バイデン氏が国内に雇用を創出するものとして国内的に利用されているのも事実。

 

■岸田外交・日本外交の大きな成果

 

・クアッド、IPEFができたことについて。

・宮家氏=ウクライナ戦争が起きたにもかかわらず、米国の最優先順位はアジアだったことをちゃんとデモンストレートできたのは良かった。韓国と豪州で政権交代があったが、クアッド的な自由で開かれたインド太平洋という概念に韓国もすり寄ってきて方向性が出てきた。3つ目はそれを日本でやれた。日本は頑張りましたよ。大きな成果があったと思っている。

・ランダース氏=岸田首相の支持率が急上昇するなど日本国内的には良かったが、バイデン大統領にとってはそうでもない。インフラ高進が大きいうえ、コロナウイルスがなかなか消えない。いくらアジア歴訪してもインフレ問題は解決しない。中間選挙は厳しい。

・平林氏=岸田外交、日本外交が成功したかどうかだが、成功したと思う。バイデンがイニシアティでトランプが否定した同盟関係をここまで再強化して他国と仲良くやったことは米国の孤立主義を少しでも弱める効果があった。われわれにとっては良かったことだと思います。

・平林氏=日本発の自由で開かれたインド太平洋戦略は接着剤だ。いろんな国を結び付ける。天佑自助(天は自ら助くる者を佑く)。十分にロシアと戦って国民のために犠牲を払っているからこそウクライナを世界が助ける。わが国も世界に助けてもらうためには「天佑自助」を提唱したい。

・宮家氏=アジアだけで議論するのはやめましょう。「欧州・中東・インド太平洋を同時に見て」。誰も言わないが、必ず中東で何かが起こる。この3つを常に見ていないと戦略を間違える。3つを同時に考えることを忘れないでほしい。

・ランダース氏=「ウクライナ戦争の長期化に備える」。ロシアを締め付けることができるか。圧力を掛けられるか。これが大事なところだ。

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