【試写会】激しい戦闘や刺激的な映像は一切ないドキュメンタリー映画「マリウポリ」の廃墟にも朝は訪れる

「廃墟にも朝は訪れる」(パンフレットから)

 

作品名:「マリウポリ7日間の記録」(原題Mariupolis2)
監督:マンタス・クヴェダラヴィチウス
助監督:ハンナ・ビロブロワ
2022年リトアニア・フランス・ドイツ合作
上映時間:112分
2023年2月15日@日本記者クラブ
2023年4月15日からシアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー

 

■激しい戦闘の様子や刺激的な映像は一切なく・・・

 

これからの歴史を語る場合、「2022年2月24日」はやはり記念すべき日になるだろう。ロシアがウクライナに「特別軍事作戦」と銘打って軍事侵攻した日だ。ただロシアは8年前の2014年にもウクライナの領土だったクリミア半島を奪取しており、第2幕に入っただけかもしれない。

リトアニア出身の人類学者でもあるマンタス・クヴェダラヴィチウス監督は、ロシア侵攻間もない3月にウクライナ東部ドンバス地方のマリウポリに入り、破壊を免れた教会に避難している数十人の市民らと生活を共にしながら撮影を開始した。

カメラに収められているのは、死と隣り合わせの悲惨な状況下でも、普通におしゃべりを交わし、助け合い、祈り、料理をし、たばこを吹かし、また次の朝を待つ住民たちの姿だ。

私情も感傷の交えず記録に徹し、戦禍の惨状で生きる人々の日常と、廃墟に流れていた時間をリアルに追体験させるドキュメンタリーに仕上がっている。

ここには激しい戦闘の様子や刺激的な映像は一切ない。実際に戦争が行われているのに、戦争が行われていることを忘れさせる平穏な風景が映し出される。平穏だが、戦争が生み出した瓦礫の山がいっぱい横たわっている。

住民がほうきで庭を掃除する中で、遠くから砲声がどーん、どーんと響き渡る。もっと接近して戦車や戦闘機を映し出せばいいじゃないかと思うが、監督にはそういう考えはないようだ。ただ戦争という理不尽な悲劇に見舞われた人々の姿がありのままに映し出されているだけだ。

112分にわたって、視聴者はひたすらそうした光景を見続けるのだ。

 

■教会に避難しながら・・・

 

戦禍の惨状をありのままに伝える

 

■監督は親ロシア派に殺害される

 

マンタスは2016年にすでにマリウポリを訪れ、同地の人々の営みを記録した「Mariupolis」を発表し、高い評価を得ている。今回の「マリウポリ7日間の記録」はその続編というべきものだ。

撮影を始めたのはマリウポリに入った3月19日から。7日間というのはその日から彼が顔見知りのドライバーに同行して避難者の救助のために出掛けた25日までの7日間と思われる。

マンタスは3月30日、現地の親ロシア派勢力に拘束され、殺害されたと思われる。監督のフィアンセでもある助監督の手によって撮影済み素材は確保され、遺体とともに帰国。クヴェダラヴィチウス監督の遺志を引き継いだ製作チームが作品を完成させた。

同作品は昨年5月のカンヌ国際映画祭で特別上映され、ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞した。またヨーロッパ映画賞ドキュメンタリー賞も受賞している。

 

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