【ホームカミングデー】何が何だか分からない時代に翻弄されながらもそこで得た人との不思議なつながりが自分をここまで育ててくれた母校はやはり「心のふるさと」

式典会場の早稲田アリーナ

 

■式典に参加

 

2023年度第58回早稲田大学ホームカミングデー「稲門祭」が10月22日(日)に開催され、卒業以来初めて参加した。

式典は早稲田アリーナ(戸山キャンパス)で行われ、田中愛治総長の式辞と招待年次(卒業36年目)代表で作家の磯﨑憲一郎氏の挨拶を聞いた。最後に主催者を代表して校友会代表幹事の萬代晃氏の活動報告があった。

式典は午前10時30分と午後2時からの2回に分けて行われ、私は午後の部に出席した。午前の部では名誉博士学位の贈呈もあり、高麗大学校校友会元会長の李鶴洙氏に贈られた。

午前と午後の部の最後は応援部による応援歌披露の後、応援部歌唱指導の下、校歌の斉唱があった。

校歌を歌うのは何となく気恥ずかしいものだ。どういうわけか胸が熱くなる。心臓の鼓動が少し早くなる。普段は何も感じないが、校歌を歌うと厳粛になるから不思議である。

式典の司会はテレビでよく見る顔のNHK大阪放送局、高瀬耕造アナウンサーが務めた。

 

本部キャンパス

 

 

■校友会最大のイベント「稲門祭」

 

早稲田のホームカミングデー(稲門祭)は卒業後15年、25年、35年、45年、50年目の卒業生とその家族に対象を絞ったものだが、来る者は拒まず。卒業年次がおぼろげな人も受け入れる寛容なイベントだ。

私は1973年卒業で、卒業50年になるのかあるいは51年になるのか怪しいが、コロナの影響で昨年度に案内できなかった51年目になる人にも案内状を送ったという。何とか間に合ったという気分だ。

「早稲田祭」が学生主体のイベントであるのに対して、稲門祭はOBで構成する校友会最大のイベントである。今年は10月22日(日)に稲門祭、11月4(土)、5日(日)に早稲田祭が開催された。

 

何と文学部内にはスタバが・・・

 

早稲田アリーナの現在地によると、早稲田アリーナ(旧記念会堂)は2019年3月より利用が開始された。建物の大半が地下にあることが特徴で、式典の行われた多機能型メインアリーナ、ラーニングコモンズ、交流テラス、早稲田スポーツミュージアムなどが設置されている。

メインアリーナは式典時には最大6000人を収容できるという。アリーナ屋上部分は「戸山の丘」と呼ばれるマウンド状の広場になっており、誰でも利用できる。

ホームカミングデーとは、卒業生やその家族、教職員OBなどを大学に招いて歓待すること。卒業生の動向把握や交流促進、愛校心の醸成、大学からの情報発信など卒業生との関係強化を図る目的があるはずだ。

私も現役時代から中央図書館や早稲田祭、リーガロイヤルホテル東京などを様々な場合で利用してきたが、完全にOBとなってから訪問するのは今回が初めて。

大学1年の時は大学とほとんど一体化した戸塚町1丁目に住んでおり、何とも懐かしい。

 

 

■お金が足りないからと言われても・・・

 

日本の大学でホームカミングデーが盛んになったのは少子化や大学全入時代の到来など、大学を取り巻く環境が厳しさを増す中、卒業生との関係強化が必須になってきたからだ。

要は卒業生からどれだけ寄付金を集めることができるかだ。大学だって何をやろうとしても先立つものがなければ何もできない。はっきり言ってお金次第である。

早稲田大学は創設者である大隈重信没後100年にあたる昨年1月10日、「Waseda Vision 150 and Beyond」を発表。「2040年までに日本において、2050年までにアジアにおいて最も学ぶ価値のある大学になる」という目標を立て、研究や教育の質を世界水準に近づけるための改革を実施している。

しかし少子化などで財政基盤が脆弱化しつつある一方、学費や国からの補助金のみに依存できる情勢でもなくなりつつあり、寄付金および基金の拡充を通じた財政基盤の強化を目指す必要性に迫られている。

そこで世界でも最先端大学の資料で、ハーバード4.5兆円、イエール3.3兆円、スタンフォード3.1兆円、ケンブリッジ1.0兆円など英米大学の懐事情。それに比べ慶応730億円、早稲田300億円、東京大学150億円だという。

足りないから寄付をと言うわけだが、寄付をする方もそう簡単に「はい、分かりました」というわけにはいかない。

 

心のふるさと われらが母校・・・

 

■貧乏だった大学時代

 

しかし、もちろん「はい、分かりました」と言うわけにはいかないものの、ホームカミングデーというのは不思議なものである。大学のTOPからこんな泣き言を言われれば「そうかな」と思ってしまうものなのだ。

そう思わせる壮大な仕掛けでもある。これまで「母校」ということはあまり深く意識したことがなかったが、人生もそろそろ終盤に入り、いよいよとなってくると、お金はそんなになくても後輩への目配りも少しはやらないというふうになるものらしい。

いわゆる「社会還元」という奴である。自分のことだけでなく、社会への奉仕を考えるべき時期に来ていると思いだすのだ。大学には大につけ小につけ、それなりにお世話になってきたのは確かである。ブランド力の恩恵にも預かってきた。

「母校」を意識したことはあまりないが、それでもお世話になったなと思うようになってきているのも確かだ。自分の浄財が後輩たちの奨学金になるようならばそれで嬉しい。

自分が大学に入った当時は、本当に貧しかった。友人にSOSを出すために電話をかける10円玉さえなかったときもある。ホームカミングデーはそんなことを思い出させてくれるのだ。不思議である。

 

 

■田中総長が式辞であいさつ

 

田中愛治総長は式辞の中で「校友の皆さま、お帰りなさい」とまず呼び掛けた。田中愛治氏は1975年政治経済学部卒業で第17代総長。父は共産党の指導者、転向後は政界のフィクサーと目された田中清玄氏。愛治氏はその次男である。

同氏が就任したのは2018年9月20日。22年の総長選挙で再選を果たし、2期目の任期は26年9月20日。選挙戦では対立候補からワンマンだ、トップダウンだと批判も出たが、「選挙でのネガティブキャンペーンで、指摘は当たらない。コロナで一時中断したが、就任以来、述べ10カ所の職場に足を運び教職員と丁寧に対話をしてきた」(日経2022年6月28日インタビュー)と反論している。

 

式辞を述べる田中愛治総長

 

■2050年には「アジアで最も学ぶ価値のある大学に」

 

早稲田大学は2032年に創立150年周年を迎えるが、田中総長は「早稲田はその先を見ている」とし、「WASEDA Vision 150 and Beyond-2050年に向かう早稲田」を挙げた。世界に貢献する人材を送り出すことが早稲田大学の使命であることを再認識すべきだと述べた。

同総長によると、2050年に向けて早稲田が目指すべきと提唱しているのは、「日本社会で活躍し、人類社会に貢献しようと思う人であるならば、早稲田で学ぶことが2040年までには日本で最も有効な大学なんだと思われる大学になり、また2050年までにはアジアで最もそのために有効な大学だと、世界中の人々に認識してもらえるような大学になる。そういうことを目指すのは実現不可能な夢ではない」という。

田中総長は「そのことは偏差値で日本一になるとか、ノーベル賞の数で日本でトップに立つのではなく、もっと本質的なことだ。日本で最も学ぶ価値のある大学だと思っていただきたい」「2050年には世界中の人からアジアだったら早稲田だね」と言われる大学を目指したいと述べた。

早稲田大学は日本で最も国際化が進んでいる大学であるとも述べた。2019年について海外留学生8500人の受け入れ、4600人の送り出し実績が日本で最も多いと指摘。他を寄せ付けないで圧倒していると語った。

この数を2032年の150周年までには受け入れを1万人に増やしたいと述べた。在籍学生数5万人のうちの1万人。5人に1人、20%を留学生にしたい。1学年8900人いる学部生は4年間の間に一度は海外に出て外から日本を見つめてもらいたいとしている。

 

やはりこれがなくちゃ!校歌斉唱

 

■偏差値でも慶応に再逆転

 

田中総長はまた、2021年から23年まで3年連続で2月の私立大学一般入試で偏差値がトップに返り咲いたと述べた。偏差値では1994年以降、ライバルでもあり盟友でもある慶応義塾大学の後塵を拝していたが、2021年で再逆転し3年連続で維持している。

早稲田と慶応のダブル合格したら慶応を選ぶ人が多い点については1994年から2020年までは慶応が勝っていたが、21年の4月の入学者からは引っ繰り返った。ほとんどの学部で両方受かったら早稲田を選ぶ状況が3年連続続いている。

メディアなどでビジネス界、財界のリーダーは慶応が多いと書かれていることについても、最近はそうでもないと指摘。早稲田出身のリーダーがトップ企業のリーダーになっていると述べた。トヨタ自動車、ソニー、パナソニックなどの世界に誇る大企業は早大出身者が占めているという。

 

■1人1口1万円の寄付を

 

一方、田中総長は早稲田スポーツの現状について体育会全44部のうちラグビー、駅伝、野球の3部について22年12月に特別な強化基金を立ち上げたと述べ、3部を強くしたいと思ったならば毎年「1人1口1万円」の寄付をお願いしたいと訴えた。

早稲田校友の現在の総数は約67万人。例えば6万人が1人1口1万円を寄付していただけたら毎年6億円が集まり、各部に2億円を配当できると説明。レギュラー、準レギュラーが在学期間中不自由なく競技に専念できると強調した。

また、コロナ禍の際には、後輩のためにコロナウイルス学生緊急支援基金を立ち上げ、1人1口10万円をお願いした結果、10億4000万円の寄付が集まった。これは慶応大学の同じ趣旨の義援金4億5000万円を上回った。寄付金集めで早稲田が慶応に勝ったのはこれが史上初めてだと述べ、会場の拍手喝采を浴びた。

早稲田大学は22年4月から、早稲田大学全体および学生のために早稲田大学応援基金を始めた。これも1人1口1万円の寄付を呼び掛けている。

寄付の呼び掛けが奮っている。キャッチフレーズの1つは「学生が輝く早稲田の未来へ」で、もう1つは「あなたの1万円が早稲田を変える」。

これほどはっきりと校友に寄付を呼び掛けた総長がこれまでいただろうか。総長を応援するのではなく、支援するのは早稲田の後輩である。

寄付を募る田中総長の気持ちはホームカミングデーに参加した校友の胸にしっかり届いたのではないか。校友の財布の紐を緩める名スピーチだった。

 

稲門祭パレード

稲門祭パレード

 

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