【講演会】「公共の場でヤジを言ったら”排除”」する警察権力か、権力の暴走は止めるべき報道か

HBC北海道放送の山﨑裕侍デスク

 

2024年度日本記者クラブ賞特別賞受賞記念講演会が7月17日、東京・内幸町の日本記者クラブで開かれ、警察によるヤジ排除問題を扱ったHBC北海道放送取材班とテレビ静岡の「イーちゃんの白い杖」取材班が話した。「イーちゃん」は上映会のあった6月14日に投稿しており、今回はヤジ排除問題に焦点を当てたい。

 

■「当たり前のことをやったまで」と山﨑デスク

 

ヤジ排除問題についてはHBC北海道放送(TBS系列)の山﨑裕侍デスクが「光栄な賞をいただくことになったが、自分としては当たり前のことをやっていた」と語った。

当たり前にやっていたことが当たり前でなく見えてしまう今の状況は一体何なのかということを考えさせられる思いもあると指摘した。

権力の監視もジャーナリズムに要求される面の裏返し的な要素もあると述べた。地方にいる仲間が勇気を持って日々の活動に取り組んで欲しいとエールを送った。

トランプ米共和党大統領候補が銃で狙撃される事件が起きたことで、ヤジ排除問題が事件を誘発したとの指摘も一部SNS上で散見され、ジャーナリズムが萎縮するようなことが起こりかねないと危惧しているとも語った。

 

北海道文化放送(UHB、フジテレビ系列)が報じた映像

 

静岡放送(SBS、TBS系列)の報じた映像

 

■排除は「表現の自由」の侵害と提訴

 

発端は2019年7月15日、参議院選挙で札幌市内で応援演説をしていた安倍晋三総理(当時)にヤジを飛ばした市民のうち男女2人が警察に排除されたこと。

2人は民主主義で保障されている「表現の自由」を侵害されたとして提訴。一審の札幌地裁判決は2人の排除を表現の自由の侵害と認めたが、2023年6月の札幌高裁判決は男性に対する警察官の行動については適法と判断した。

 

■警察の排除は「法的根拠がない」

 

山﨑デスクはこの問題が重要なのは①誰もがどんな発言をしても許されるはずの公共の場で起きたこと、②ヤジは意見表明であること(選挙妨害ではないこと)、③ヤジは公共の福祉に反することでもないことを指摘した。

山﨑デスクが一番問題視したのは警察が法的根拠がないのに市民の意見表明を封じたこと。警察は裁判の中で周囲とのトラブルを避けるために、犯罪を予防するためにと主張したが、地裁は違法行為と認定した。

「安倍さん頑張れ」などの政権を応援する声は認めて、「安倍辞めろ!」と政権を封じる声だけを封じるのはやはりおかしいと認定した。

 

産経新聞(2022年5月25日)

 

■展示が中止された「平和の少女像」

 

山﨑デスクによると、2019年当時は「表現の自由」をめぐっていろんな形で危機感があったという。

具体的には国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」事件や従軍慰安婦を取り上げた戦争映画「主戦場」が右翼の反対で一時劇場公開が中止になったことだという。

「トリエンナーレ2019」では天皇の写真を含む肖像群が燃える映像作品などを扱った企画展「表現の不自由展・その後」の開催が中止になっている。

これについては、原告の名古屋市側が「日本人の心を踏みにじる」などとして交付金の減額を決めた。結局裁判になり、「芸術は鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせる場合があるのもやむを得ない」(地裁)と認定。2審・名古屋高裁もそれを支持。最高裁も2024年3月6日付で市側の上告を退けた。

 

           「主戦場」予告編

 

■慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー映画「主戦場」

 

また日系アメリカ人YouTuberのミキ・デザキ氏による「主戦場」は慰安婦たちは「性奴隷」だったのか?「強制連行」は本当にあったのか?日本政府の謝罪と法的責任は?

ミキ・デザク氏は櫻井よしこ(ジャーナリスト)、ケント・ギルバート(弁護士/タレント)、渡辺奈美(「女たちの戦争と平和資料館」事務局長)、吉見義明(歴史学者)など、日米韓のこの戦争の中心人物たちを訪ね回った。

さらにおびただしい量のニュース映像と記事の検証と分析を織り込み、イデオロギー的にも対立する主張の数々を小気味良く反証させ合いながら、精緻かつスタイリッシュに1本のドキュメンタリーに凝縮させたといわれる。

 

■道新が「裏金追及キャンペーン」で道警に完全勝利

 

北海道警察の裏金問題は2003年11月に表面化した。テレビ朝日の報道番組「ザ・スクープ」が旭川中央署で捜査用報奨金が裏金になっている疑いが濃厚と報じたのがきっかけだ。

東京のテレビ局に道警の内部告発が行われたことに衝撃を受けた道新が発憤し、裏金追及キャンペーンが始まった。そして04年10月には報道界最高の新聞協会賞を受賞した。

存在しもしない人物に支払われたことになっている謝礼金やカラ出張、偽の領収書や裏帳簿の存在など、カラクリが明らかになった。

極めつけは元釧路方面本部長(警視長)を務めた原田宏二氏による実名告発である。警視総監、警視監に次ぐポストに昇り詰めた道警最高幹部が組織ぐるみの裏金づくりについて実名で洗いざらい告発したのだ。

道警は組織的裏金づくりを認め、利子を含め9億円超の資金を返還、約3000人の職員を処分せざるを得なかった。まさに報道の勝利だった。一連の調査報道で取材班は賞を総なめにした。

 

■道警も道新に逆襲

 

ところが道警はその後、やられぱなしではなかったことが明らかになる。道新が栄光に包まれていたとき、道新は室蘭支局で社員の使い込み事件を抱えたうえ、東京支局でも金銭がらみの不祥事に追われていたのだ。

道新に完敗した道警の反撃が開始される。室蘭の二の舞を恐れた上層部は東京の事件をもみ消し、当該社員を懲戒処分にせず、それどころか依願退職扱いで割増退職金まで払ってしまっていた。

このことを道警に知られれば、社に家宅捜索が入るかもしれない。それどころか払う必要のない退職金を払ってしまったことで、経営陣は特別背任に問われる可能性さえあった。

「道新が攻め、道警が防戦一方だった形勢は、水面下で静かに逆転していた。ここから道新幹部たちの道警関係者参りが始まり、この2つの組織の手打ちをどうするか、裏交渉が始まった。現場の記者たちが全く知らぬ間に」(おすすめ本レビュー「HONZ」麻木久仁子、2014年5月24日)

山﨑デスクは講演会で取材の理由について、表現の自由をめぐる危機感のみならず、権力監視の力が弱まっている報道への危機感、権力が暴走を始めるのではないかという危機感を挙げた。

 

■鹿児島県警・枕崎署員が盗撮行為

 

警察官が北海道で引き起こした「表現の自由」侵害問題を取り扱ってきたが、半面鹿児島県でもびっくりするようなことが起こっていた。

不祥事を扱うのが警察官なのに、その警察官が不祥事を引き起こしているのならどうにもならない。

しかしそれが事実なのだから、問題である。警察官は人の自由を奪う逮捕権を持っていることだ。

刑事訴訟法によると、逮捕状により逮捕権を発動できるのは検察官、検察事務官、司法検察職員(巡査部長以上)の3者となっている。

 

2024年6月24日14時37分日経電子版

 

■鹿児島県警で相次ぐ情報漏洩不祥事

 

日経新聞やニュースサイト「HUNTER」によると、事件の発端は枕崎署員による盗撮事件。同署員(逮捕・起訴・懲戒処分済み)は2023年12月19日、被害女性が署に相談して発覚。

署員は県警のデータベースに不正に照会し、30代の被害女性の個人情報を得て繰り返し盗撮していた疑いが浮上した。

署員による盗撮は2019年9月~23年12月、他の被害者も含めて少なくても80回に上り、この女性への盗撮は12回確認された。

県警によると、野川明輝本部長は発覚2日後の22日に報告を受けたが、警察官不祥事の際に通常とられる本部長指揮ではなく、署による捜査を指示。本部側とのやり取りで署側は捜査中止と受け止めたという。

鹿児島県警の情報漏洩事件をめぐっては、同県警前生活安全部長、本田尚志容疑者が県警の不祥事について記された個人情報を含む文書を札幌市のライターに郵送したとされる。

文書には枕崎署員の盗撮事件についての言及もあり、鹿児島地検は職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、本田容疑者を国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴している。

本田被告は盗撮事件の捜査指揮簿に野川本部長が押印せず、「県警職員の犯罪行為を隠蔽しようとした」と主張している。

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