【会見】「国内増産」「輸出拡大」「国内化石燃料価格の半減」の同時実現を狙ったトランプ2次米政権「エネルギー支配戦略」はどうなるか=田村堅太郎IGESディレクター
ゲスト:田村堅太郎・地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動とエネル ギー領域ディレクター
テーマ:「トランプ2.0」米国の気候・エネルギー政策と国際社会に与える影響
会場:日本記者クラブ(2025年1月20日)
■トランプ2次政権始動
トランプ米大統領(78)が1月20日就任し、第2次トランプ政権が始動した。同大統領は同日、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から再び脱退すると発表し、大統領令に署名した。
トランプ大統領は就任演説の中で、「南部国境における国家非常事態」を宣言するとともに、「国家エネルギー緊急事態」を発動。「(エネルギー資源の)採掘を行う」と述べた。
「米国は再び製造国になる」とも語った。米国は「他の製造国が持ったことのない、どの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている」とし、「それを活用する」と述べた。
「(石油)価格を引き下げ、戦略備蓄を最大にまで補充し、米国のエネルギーを世界中に輸出。再び豊かになる」と語った。
加えて、「本日、グリーン・ニューディール政策を終わらせる」とも述べた。電気自動車の普及策を撤回し、自動車産業を救い、偉大な自動車産業労働者に対する私の神聖な誓いを守る」と強調した。
■しかも誕生したのは「勝負の10年間」のど真ん中
田村堅太郎ディレクターは、トランプ政権の気候変動・エネルギー政策を考える上で①1.5度目標②米国の政治状況③エネルギーの新しい世界地図ーの3つの視点を提示。それを踏まえて米国内の動向、国際的な影響を考えたいと述べた。
同ディレクターによると、世界の温度上昇は昨年、平均気温で1.5度(努力目標)を越えた。パリ協定の目標は世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えることだったが、その目標が達成できなかった。
1.5度目標の達成には、2020年代にどれだけ排出削減を行えるかがカギで、今は文字通り瀬戸際。そのまさに「勝負の10年間」のど真ん中にトランプ2次政権が成立したわけで、その影響は大きいと指摘した。
■気候変動対策は大きく後退
米国内ではホワイトハウスおよび連邦議会は両院で共和党が過半数を占め、トリプルレッドを示した。今回、これに加えて、司法も保守色が濃くなり、政策の司法判断がトランプ政権寄りになる可能生が大きい。
連邦最高裁判所の判事の構成も保守派6名、リベラル派3名と保守派が大勢を占め、トリプルレッド+司法を加えたクアドルプル・レッドと呼ばれる状況だ。
田村氏はこうした状況を踏まえて、トランプ政権に対する歯止めがかからなくなり、特に気候変動対策が大きく後退する懸念を示した。
一方で田村氏は共和党は僅差の多数派のため、穏健派議員がキャスティングボートを握る可能性が大とし、さらに、米国の政治システムにおける制約やその同意がなくては政策の変更ができないような「拒否権プレーヤー」の存在により、政策変更には時間と労力がかかる可能性が大きいともみる。
■世界を米国の「エネルギー支配」下に
シェール革命も大きいと田村氏は言う。シェール革命とは、2000年代に米国のシェール層(泥が固まってできた岩石のうち、薄片状に剥がれやすい性質を持つ頁岩=けつがん=の岩層)から石油や天然ガスを掘削する技術が開発され、生産が急増した結果、世界のエネルギー情勢が大きく変化したことを指す。
米国はシェール革命により、世界最大の天然ガスおよび原油の産出国となり、さらに両方とも純輸出国になった。液化天然ガス(LNG)については世界最大の輸出国になり、世界のエネルギー地図を書き替えた。
トランプ政権はこの変化を捉えて、国内増産および輸出拡大を経済成長・雇用促進、さらには外交手段として活用する方針で、世界を「エネルギー支配」(Energy Dominance)戦略下に置くことを狙っている。
■石油・天然ガスの純輸出国に
1次政権でもこの戦略を掲げていたが、当時はエネルギーの純輸出国ではなかった。まずはエネルギー自立に加え、その上でエネルギー支配を目指し、国内の化石燃料の増産・輸出拡大を図った。
国内規制の緩和・撤廃(90以上の環境規制が緩和・撤廃)し、国内雇用を増進。海外に対し米国産LNGや原油の購買圧力をかけた。同盟国のエネルギー安全保障を向上させ、欧州や日韓には対米貿易黒字の削減手段とした。
田村氏は第2次政権の下ではエネルギー戦略がアップグレードされていると述べた。国内の安価な化石燃料を増産することによって、まずは米経済が抱えているインフレを抑制し、国民の生活を楽にさせる方針だ。
同時に安価なエネルギー供給によって電力、AI、データーセンターなどの分野で国際競争力を付けていく。最大の競争相手である中国に打ち勝っていく考えだ。
米国産資源を海外に広めていくことによって敵対国・非友好国(ロシアやイランなど)が資金源としているようなエネルギー輸出を減らしていく。それに伴い、戦争やテロを世界からなくしていく方針である。
これを実現すべく、「国家エネルギー会議」(議長=バーガム内務長官兼務、ノースダゴタ州前知事)を新設。ただ増産意欲は旺盛なものの、生産量は既に歴史的な水準に達しており、これ以上の増産は難しいと専門家からも言われているという。
いくら政府が旗を振ったとしても、結局は市場の需給バランスで決まってくる。中国の石油需要はピークに達しているとの見方が大勢を占めているとも言われている。
■3つの政策目標を同時に実現できるのか
田村氏はトランプ政権にとって、国内増産、輸出拡大、国内エネルギー価格の半減という3つの政策目標を同時に達成できるのかについては課題が多いとみている。
米国内の化石燃料の増産余力は十分か。国内の生産レベルは過去最高水準であり、それを増産するのはかなり難しいと専門家らは指摘している。
世界市場の需給バランスがどうなるか。中国の石油需要がピークに達していることに加え、ウクライナ戦争や中東情勢も不確実性がある。
米国からの輸出拡大は過剰供給につながり、価格を押し下げる効果がある。価格を下げることではいいが、シェールオイルの採算ラインは55~65ドル/バレル程度と中東産とはまだ割高。下落すると自分たちの採算ラインを割り込む恐れもあるジレンマを抱えている。
国内の電力需給はどうか。電力需給がひっ迫すると言われている半面、技術開発が進んでデジタル系の電力需要はそれほど増えなかった。
米国内で最安電源は再エネルギー。経済性が低下している原発もどう増やしていくか。政策として掲げているものの、実際にどうするかは未知数だと田村氏はみている。
トランプ大統領が掲げている関税政策は物価を上げていくため世界経済にはマイナスの影響がある。カナダは米国産原油の最大輸入国。25%の関税をかければ、米国内の原油価格は上昇する。これをどうバランスとるか。
整合性が乏しい政策を大風呂敷を広げている状態なので、今後どううまく整理していくのか注意深く見ていく必要がありそうだ。