【トランプ関税②】トランプ関税が続けば、日本が景気後退に陥る可能性は6~7割程度=「自由貿易」の維持こそ日本の役割ー野村総研・木内登英氏

野村證券のエコノミスト、木内登英氏

 

■米経済にどのような影響が現れるか

 

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英(きうち・たかひで)氏が4月17日、「トランプ関税と内外経済・金融情勢」と題して日本記者クラブで話した。

会見は日米両政府による初の関税交渉の初会合直後に行われた。関税交渉の日本側代表である赤沢亮正(あかざわ・りょうせい)経済財政・再生相はトランプ大統領とも会見し、早期合意で一致。4月中に次回協議を行うことにも合意した。

金融・株式市場はトランプ米政権の相互関税(全世界一律に適用する10%の基本関税+国ごとに課す上乗せ関税)と中国による報復関税の発動で一時大きく動揺したものの、現在は落ち着いている。

木内氏は「金融市場はしばらくは膠着状態が続くかもしれないが、いったん金融市場が混乱した影響や関税が発動された影響が特に米経済にどのような影響が出てくるのかが次の大きな焦点になろう」と述べた。

 

相互関税への抗議行動

 

■金融市場、数カ月後には混乱も

 

木内氏は「関税が発動されても多くの国は輸出しているので製品価格が上がるまでには1~2カ月はかかる。そこで物価が上がって、米の消費者が消費を絞るということが、心配しているよりも大きく出てくると金融市場がもう一段の混乱の可能性があると思う」と語った。

日米関税交渉については「しばらくは膠着が続くかもしれないが、数カ月後には波乱もあると思っている」と見通しを明らかにした。

日米関税協議は「取りあえず今回初日については大きな混乱もないままに終わったが、基本的にはあまり楽観できないのではないかと考えている」と述べた。

 

米中関税報復合戦(2025年4月12日付日経新聞朝刊)

 

■対中追加関税は145%

 

米国にとって中国とはどういう存在か。中国は覇権争いの当事国であると同時に貿易赤字額の最上位国でもある。

1位の中国は2024年1~11月で米貿易赤字額の21.7%を占めた。2位は欧州共同体(EU)の17.3%、3位はメキシコ12.7%。日本は8位の5.1%だった。

米中は関税の応酬を展開しており、消耗戦に突入している。米国は2月4日に中国からの全輸入品に10%の追加関税を発動。3月4日には一律関税を20%とした。

さらに4月2日には34%の相互関税を課すと発表。4月7日には相互関税を84%に、9日には同125%に引き上げた。中国側も報復し、同関税を125%に引き上げた。

トランプ政権はその後、中国からの輸入品への追加関税は145%だと説明を修正した。9日に発表した125%の相互関税はすでに発動されている20%の追加関税に加算される。

 

米国内でもランプ関税への反発は強い

 

■トリプル安をみて相互関税を90日間凍結

 

木内氏は、トランプ大統領の関心は二国間交渉で何かを譲歩して引き出すことではなく、すべての地域に関税をかけて貿易赤字全体を減らしていくことを狙った措置だと指摘した。

トランプ政権は相互関税の90日間停止を打ち出したが、1日以内の修正は異例であり、杜撰で場当たり的な対応だと批判した。

なぜこんなことになったのかについては中国の抵抗の仕方が予想以上だったこと。報復関税の掛け合いで、ここまで中国が刃向かってくるとは予想していなかったと指摘した。

金融市場の動揺も米国にとっては想定外だったという。米債券まで売られたのが大きい。市場が混乱してリスクを回避する場合、米国債は真っ先に買われる商品だが、その米国債が売られた。

米国債は最も安全性が高く最も流動性が高い商品で、資金の逃避先としては貴重な商品。しかし今回は株も下がって債券も売られ、ドルも売られるというトリプル安を演じた。

 

相互関税上乗せ90日間停止後の3シナリオ(野村総合研究所)

 

■関税は不正

 

木内氏は米国の関税率の発動は異常だと指摘。100年前の保護主義時代の関税率を既に上回っているとし、ピーク時で18.9%(1933)。楽観ケースでも28.8%、悲観ケース38.9%、標準ケース35.6%。楽観ケースを10%も上回っている。

関税の率では一気に100年前まで巻き戻された状況を迎えている。日本としては自由貿易を守るのが一番重要な役割であると強調した。

関税は不正なものだということを忘れてはならないと指摘した。米国が自由貿易から距離を置くのなら、日本はしっかりと自由貿易を維持する方針を掲げるよう求めた。

 

日本経済も秋にはトランプ不況に?

 

■日本は6~7割、景気後退に

 

相互関税のよる経済への影響は楽観ケースでもかなり出ると予想。日本については10%の一律関税と自動車と鉄鋼への25%の関税(4月4日発動)だけでもGDPは短期間で0.42%押し下げられ、波及効果も含めると1.0%押し下げられる見通し。世界のGDPへの影響は0.79%を見込んでいる。

日本は毎年0.5%ぐらいしか成長できない国だとし、そこへ外部要因によって1%の下押し圧力がかかると景気後退の引き金になり得ると述べた。

木内氏はトランプ関税が続けば、日本が景気後退に陥る可能性は6~7割程度、米国は4~6割程度。米国で金融不均衡の本格的な調整が引き起こされれば、世界は経済危機、金融危機の状況に至る可能性もあり得ると予想した。

 

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