久しぶりに「本庁の官僚主義VS所轄の現場主義」を楽しんだ映画『踊る大捜査線』
■テレビドラマのヒットで作られたおまけ作品
『踊る大捜査線』はフジテレビ系で放送された警視庁湾岸署青島俊作巡査部長(織田裕二)を主人公とした日本の刑事ドラマシリーズ。1997年1月7日から3月18日まで毎週火曜9時枠で放送された。合計11回分。その後もシリーズ化され、テレビドラマ、映画、舞台で展開され、映画のスピンオフ作品も作られている。
いずれにしても『踊る大捜査線』はテレビドラマが先に作られて、それがヒットしたので映画が制作される順番となる。映画は結局、テレビドラマの後に続く柳の木の下のどじょう的存在だ。
WOWOWが1月、4作品を一挙放送。新型コロナウイルス禍で自宅で自粛中。時間はたっぷりあった。見るしかなかった。遠い昔がよみがえった。4日連続で放送されたが、すぐ忘れてしまう。
第1作『踊る大捜査線THE MOVIE』(1998)
第2作『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)
第3作『踊る大捜査線THE MOVIE3ヤツらを解放せよ!』(2010)
第4作『踊る大捜査線THE FINAL新たなる希望』(2012)
■青島と恩田の葛藤もドラマの味に
何度も繰り返し放送され、いつどの場面を見たのかわからなくなってしまった。しかし確実に見ている。「それまでの刑事ドラマは、犯人逮捕までを追う描写が多く、また銃撃戦やカーチェイスといった派手な追跡撃や所轄が広域事件を解決するといったような過剰な描写が主流だったが、それらの要素を可能な限り排除し現実の警察組織と近い業務形態や実情を採用した作風になっている」(ウィキペディア)のが新しい。
主役は青島巡査部長。元敏腕営業マンだが、脱サラして警察官となり、交番勤務を経て湾岸署刑事課に配属された。配属直後に管内で事件が発生し、青島は意気込んで現場に向かうものの、「所轄刑事」として現場検証すらさせてもらえない現場だった。
青島は強行犯係の大先輩で定年間際のベテラン刑事、和久平八郎(いかりや長助)から所轄刑事の心得を叩き込まれる。それは青島が思い描いていた理想の刑事像と大きくかけ離れた地味で冴えないものだった。
湾岸署の上層部は署長の神田総一朗、副署長の秋山春海、刑事課長の袴田健吾。署長は俗物で昼行灯、副署長は署長の腰巾着、刑事課長は事なかれ主義と絵を描いたような3人組みで、サラリーマン社会と変わらない構図だ。
同じ強行犯には東大卒のキャリアで年齢は青島より下だが、階級は上の真下正義(ユースケ・サンタマリア)がいる。彼は親が警察庁の幹部で、昇進試験の「腰掛け」として在籍中。
強行犯の隣の盗犯係には小さい体に似合わず男勝りの迫力を持つ紅一点、恩田すみれ(深津絵里)がいる。青島と恩田はなかなかいいコンビで、2人がいて初めてドラマになっている。
湾岸署には後に刑事となる柏木雪乃(水野美紀)がいるほか、警察庁のキャリア・室井慎次(柳葉敏郎)もいて、警察の抱えるさまざまな内部矛盾やキャリア制度、官僚主義、縦割り行政なども問題もあり、ドラマに膨らみを持たせている。
■「事件は会議室で起きてんじゃない、現場で起きてんだ!」
副総監の誘拐犯である坂下始たちのいる部屋に踏み込んだ青島とすみれ。だが、始を逃がそうとした始の母親に青島が刺されてします。室井が青島を車に乗せて病院まで運び、すみれが付きそう。
室井とすみれは意識を失った青島が死んだと思ったが、青島のいびきが聞こえてきた。そう言えば、すみれは「青島君、3日寝ていなかったんだ」ことに気が付いた。
真面目な部分とそうでない部分が入れ替わり立ち替わり表れてくる。これがこの映画のすばらしいところ。
警察組織が典型的なタテ社会であることはつとに有名だ。キャリア(国家公務員一種)とノンキャリアの差は厳然としており、管内で殺人事件が起こった場合、所轄署には「帳場が立ち」(捜査本部設置)、本庁刑事部の管理官が送り込まれる。
聞き込みや取り調べ、犯人確保などの事件の主役はキャリアの仕事だった。青島が最初にあった警察官僚が室井だった。青島は室井に冷たくあしらわれるが、その室井も秋田出身で、東北大卒。異色のエリートで、優秀であるがゆえに身内に敵が多い孤独な男だった。
室井は次第に青島を認め、目を掛けるようになる。「自分は現場で頑張り、室井は組織を変えるためにえらくなる」と約束をした。
副総監の誘拐犯と思われる坂下始の自宅を突き止めた青島は室井に犯人確保の指示を求めるが、上層部はキャリアの捜査員が現場に行くまで待てと反対する。それを聞いた青島が無線に向けて叫ぶのがこの言葉だ。
「事件は会議室で起きてんじゃない!現場で起きてんだ!」
■本庁の官僚主義vs所轄の現場主義
そう言えば、こんな本もあった。『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』(金井壽宏神戸大学大学院経営学研究科教授)。本庁の官僚主義と所轄の現場主義の対立が物語の底流にあり、組織論の観点からも示唆に富む。
監督官庁が複数にまたがる「レインボーブリッジを封鎖せよ!」といわれても、縦割り主義が縦横に巡らされており、旧来型の官僚組織では「レインボーブリッジは閉鎖できません」と答えざるを得ないのだ。縦割りの官僚主義を乗り越えるのがいかに大変か。