【NHKスペ】ヒトへの感染拡大~空白の3週間に何が起こったのか~=起源を問う調査報道

 

ウイルスの起源と考えらている中国南部

 

■ウイルス感染は公式報告より先

 

NHKは2月7日夜、BS1で「謎の感染拡大~新型ウイルスの起源を追う~」を放送した。2月14日には再放送した。実は最初に放送されたのは2020年12月27日。どうもこれは再放送のようだ。NHKオンデマンドで確認しながら再度見た。関心のあるところは正確に表記しているが、そうでない部分はなおざりな部分もある。

NHKは世界中の研究論文や当局資料、snsや人々の移動情報などあらゆるオープンソースを使った調査報道を実施。調査プロジェクトの結果、これまで各国が発表してきた時期よりも早くヒトへの感染が始まった可能性があったことが明らかになった。

・世界保健機関(WHO)は現在、ウイルスの起源を探る本格的な現地調査の準備を急いでいる。狙いを付けているのは中国南部にあるホットスポット。起源とみられるコウモリのウイルスが中国の辺境からどのように都市にたどり着いたのかを解明することだ。

・最初の感染報告からまもなく1年。人類は今もウイルスの発生時期や場所を特定できていない。NHKは内部データなどを基に世界中の研究者とウイルスの起源について調査するプロジェクトを立ち上げた。

・見えてきたのはパンデミックの始まりがこれまで知られていたものと大きく異なっている可能性だ。ネット上で削除された文書を復元すると公式の報告より前にウイルスの正体を突き止めていたという書き込みを見つけた。さらに遺伝情報の解析からもヒトへの感染が数カ月早く始まり、水面下で世界に広がっていた可能性が見えてきた。

・「封じ込めるためには異変に気づき始めた去年末に武漢を封鎖するしかなかったのかも知れません」(数理生物学者)。わずか9カ月で感染者7900万人以上、170万人以上を死に追いやった新型ウイルス。これ以上の感染を食い止めるためにも感染初期の実態解明が極めて重要だと科学者たちは指摘する。

 

疑惑を否定する中国の習近平国家主席

 

■感染の始まりは19年11月

 

・2019年12月31日、中国で異常事態が起き始めていた。武漢市は「27例の肺炎」が発生しているとウェブサイトで公表。3日後の2020年1月3日、中国はWHOに「原因不明の肺炎」を報告した。1月14日、WHOは「新型コロナウイルス」を確認したと発表した。

・1月15日、日本で初の感染が確認された。21日はアメリカで初確認、22日はシンガポールで初確認、24日はフランスで初確認、25日オーストラリアで初確認、27日はドイツで初確認、30日はイタリアで初確認。瞬く間に拡大していく。30日にはWHOが「緊急事態」を宣言する。

・しかし、それ以前に確認された事実が見つかり始めている。下水からは人間の便に含まれているさまざまウイルスを検出できるが、イタリアで19年12月中旬にかなりの量の新型コロナウイルスが存在していたことが分かった。その量は2~3月に匹敵する。その数週間前から感染が拡大していたと確信していると専門家は言う。

・フランスでも19年12月、原因不明の肺炎患者が病院に運び込まれていた。12月には新型コロナなんて考えもしなかった。当時患者の鼻から採取したサンプルを改めてPCR検査したところ新型ウイルスが含まれていた。

・患者の1人は「高熱と呼吸困難な症状に陥り集中治療室で3日間治療を受けた。「誰かにナイフのようなものでえぐられているようで、呼吸をするのもとても大変だった。常に胸が痛くて吐血も止まらなかった」

・中国が報告するより前に感染が始まっていたフランス(陽性の男性が感染か)とイタリア(下水ウイルス検出)。

・中国はどうなのか。情報が少ない中、プロジェクト班は政府やsns、位置情報などから感染の拡大に迫った。中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)によると、19年11月半ばにインフルエンザ患者が急増。12月には前年の9倍になっていたことが分かった。当時の患者の1人を突き止め、彼女が「新型肺炎」であったことを突き止めた。

・テキサス大学の数理生物学者ローレン・マイヤーズ教授は「11月中旬から感染が広がり12月に入った時点で感染者数は72人、12月末にはおよそ1500人が感染していたという推計が出た」。「感染者がインフルエンザ患者に見えた。異変に気づくようになったのは多くの重症者が出る後だった」。11月には感染の広がりが見えてきた。

・最初にヒトへの感染が始まったのはいつなのか。NHKが独自に開発した論文ビッグデータから8万本を解析。ロンドン大学のルーシー・ヴァン・ドーブ教授は最も早い数字は10月6日。この時期にウイルスがヒトに感染し始めた。可能性がより高いのは11月初めだ。12月までにウイルスが広がっていたことは間違いない。

・イタリアでも9月28日、イギリスの遺伝解析では11月6日、中国では11月15日を指摘している。WHOもこの見方を支持している。

 

キクガシラコウモリ

 

■新型コロナの自然宿主とみられるキクガシラコウモリ

 

・ヒトへの感染が始まった場所はどこなのか。発生源は国家の思惑などが絡み情報が錯綜してきた。NHKはツイッター上のトレンドを分析するシステムを開発した。日本国内で1月以降つぶやかれた1000万件以上の”つぶやき”から発生源にかんするものを抽出、可視化した。

・海鮮市場は初期のクラスターの1つにすぎない。次いで米国陰謀説が報じられたが、その根拠は武漢で開催さあれた世界軍人競技会。米軍人が肺炎で入院したが、あとでマラリアだったと言われている。その後急上昇したキーワードは武漢ウイルス研究所だ。

・海鮮市場から同研究所間は直線距離で26キロ。ここから新型コロナが流出したのではないか。RaTG13と呼ばれるコロナウイルスの研究を行っていた。新型コロナと遺伝情報が96.2%一致するウイルスだった。新型コロナの基になったのではないか。

・中国は強く否定している。

・エコヘルスアライアンスのピーター・ダシャック博士は「ウイルスが発生し拡散すれば、すべての国に影響を及ぼす。だからこそ世界が協力することが大切で、国家政治的な政治は避けるべきだ。WHOと中国が協力すれば、ウイルスの起源について興味深いことを発見できる」と述べる。

・発生源と睨んでいるのが中国南部広東省から雲南省にかけての山岳地帯。ヒトに感染するコロナウイルスが数多く見つかってきたホットスポットだ。SARS(2002、広東省)、複数個のセンザンコウコロナ、RaTG13(雲南省)のコウモリから見つかった。最も注目されるのがキクガシラコウモリだ。

・調査チームはホットスポットでRaTG13よりももっとコロナに近いものを見つけ出そうとしている。「これが中国の奥地から1600キロの大都市にどのようにしてたどり着いたのか」を明らかにすることだ。

 

 

■39万人が渡航

 

・中国の南部から発生したと複数の研究者が見る新型コロナウイルス。テキサス大学のマイヤーズ博士によると、12月に入った段階で武漢では推計72人。12月いっぱいで北京、重慶、広州など33都市に感染が拡大していた可能生がある。

・この間にフランスやイタリアなどヨーロッパに渡航していたのは39万人。中国がウイルスの存在に気づき、世界がその脅威を知らされる前に感染は拡大していた。

・12月31日、武漢市「27例の肺炎」公表。人類はこの後も強い危機感を持てないまま時間がすぎていく。1月12日、中国WHOに「ウイルスの遺伝情報」を報告する。WHOは14日に「ヒトからヒトへの感染は”限定的”」と考えていた。

・武漢が都市封鎖したのは1月23日、日本人がウイルスの脅威を目の当たりにしたのが2月3日(クルーズ船横浜港に入港)だった。700人以上の感染者が確認された。このごろにようやく、無症状でも感染を広げることや突如として重症化するウイルスの恐ろしさが知れ渡った。もっと早くウイルスの性格を知り、備えられなかったのか。

・中国は初期の段階で情報統制を行っていたのではないか。取材班はネット上で削除されたコロナに関する記事や画像データを調査。すると、1月12日に中国が公式に報告する2週間前に特定していたとする中国の研究者がいることが分かった。

・「新型コロナを最初に発見した経緯」という文書にたどり着いた。「このウイルスを最初に発見したのは私たちだ。緊張と興奮が入り交じった気持ちだった。この未知のウイルスがSARSのように恐ろしいかもしれないということだ」。

・文書には12月24日に肺炎患者からサンプルを取得し、26日に遺伝情報を特定したと書かれている。しかし、疫病予防センターの介入によってその情報が公開されることはなかったという。「失望を感じ、心が痛み、そして怒りを覚えた」「貴重なサンプルの背後に治療を待っている患者がいることを身に染みて感じている」

・これを記した人物は広州の遺伝子解析会社の研究者だった。取材を依頼したが、「応じられない」という回答を受け取った。

・中国当局が統制をかけている音声記録も残されていた。「関連する論文と、その結果は委員会に提出し承認されなければならない」

・新型コロナの遺伝情報は中国政府の統制を無視して公表されることにある。シドニー大学のエドワード・ホームズ教授は中国国内の研究者と共同で遺伝情報の解読に成功していた。

・「世界の非常時には科学的な情報共有を急ぐできだと考えた」「私がデータを公表することにしたのは人々がより詳しくウイルスについて知る必要があると思ったからです。私は遺伝情報をネット上に公開することで中国の制限を無効にしたのです。これは正しいことでした」。公開したのは1月11日だった。中国がWHOに遺伝情報を報告したのはその翌日だった。

・WHOは直後の13日に遺伝情報を基にPCR検査の方法を公開した。世界はウイルスへの備えを本格化し始めた。

 

トロント大学のマサシ・ニシハタ研究員

 

■中国、新型コロナ情報を遮断

 

・オバマ政権時代に中国衛生当局とともに感染症対策に当たってきた米疫学者、ジョージ・コンウェイ氏は「今回の教訓は迅速な対応が要求される初期段階で中国とその他の国々の連携が取れなかったことだ」と指摘する。「感染症を押さえ込む上では国と国の間に障壁を設けることに有益なことは何もありません。それは非常に不幸なことであり、極めて短絡的だ。国境を越えて科学情報を自由に享有することが最も重要なことだと思う」

・中国がヒトからヒトへの感染を認め、武漢を封鎖したのは1月23日。それまでの間にウイルスの危険性を周囲に伝えようとする市民の発信も制限されていた可能性が見えてきた。

・カナダ・トロント大学のマサシ・ニシハタ研究員は中国版LINE、ウィーチャットなどのアプリを解析した。新型ウイルスという言葉が初めて削除されたとみられるのは12月31日。SARSなど45件だった。

・その前日、のちに自らも感染して亡くなった李文亮氏が「海鮮市場でSARSが7件発生している」と警鐘を鳴らしたことがきっかけだったとみられる。1月18日、新たに「ヒトからヒトへの感染する」との言葉が削除され、ウイルスの危険性を知らせる様々な言葉が検閲されたとみられている。

・「私たちの調査の結果で最も驚いたのは新型ウイルスがヒトからヒトへ感染するという情報などが遮断されていたことだ。この検閲によって市民は身を守るための正しい情報を共有できなかった。公衆衛生上、事実に基づくコミュニケーションがいかに大切かを示している」と語った。

・中国政府は「透明かつ責任ある態度でいち早く情報を対外的に発表した」としている。(この部分は配信できません)

・武漢が閉鎖されるまで人々は世界中を移動し続けた。マイヤーズ教授が1月1日時点で感染者がいたと推定した中国34都市からのヒトの移動を示したものだ。

・日本を訪れたのは44万人、
・アメリカへは22万人
・ヨーロッパには32万人

・3月11日、WHOは「新型コロナウイルス感染症はパンデミックとみなされる」とパンデミックを宣言した。世界はようやく未曾有の危機に陥っている事実を突きつけられた。

・マイヤーズ教授は「世界は12月に武漢を封鎖すべきだったが、当時はその決定を下す知識を持っていなかった。世界的な感染拡大を抑えるためには都市封鎖が非常に重要だった。

・日本国内で初めてウイルスが確認されたのは1月15日。日本ではいつ感染が集まったのか調査が始まっている。日本国内で初めて感染者が確認されたのは1月15日。それ以前の各地の下水サンプルを集めPCR検査を行っている。

・ウイルスの広がりを検証し今後の日本の水際対策の強化につなげようとしている。金沢大学の本多了准教授は「どこに感染者が最初に発生したのか。最初の集団感染がどこで発生したのか。それが時系列的にどの地域にひろがっていったか。そういうことが分かる可能性がある。どこかで発生したということが分かってから、どれだけ迅速に国内の防疫体制を取ることが必要かにつながるのではないか」

・WHOの調査チームを率いるピーター・ベンエンバレク博士は「私たちは今回初期の感染をいち早く捉えることがいかに重要かを目の当たりにしました。初期の流行を見逃すと新型コロナのような感染症の大規模な流行を制御する機会も失ってしまいます。初期の症例について徹底的な調査を行わなければなりません」(一部画像配信できません)

 

市民ジャーナリストの陳秋実さん

市民ジャーナリストの陳秋実さんの活動中の画像などがNHKオンデマンドから削除されている。

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