【シーフードショー】養殖のイメージを変えた完全閉鎖循環式陸上養殖システム=「二倍速の成長」が可能と延東真東京海洋大名誉教授

延東真東京海洋大学名誉教授

 

東京海洋大学の延東真名誉教授は8月26日、東京ビッグサイトで開催された第24回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーのセミナーで「養殖のイメージを覆す好気的脱窒を用いた完全閉鎖循環式陸上養殖システム」と題して講演した。

同氏は株式会社ウィズアクア陸上養殖研究所技術顧問を務めている。

 

■これまでは品質の低さがなおざり

 

・どの業者やメーカーも魚養殖に関しては大なり小なりできるようになっている。どの技術を使っても。うまいへたはあるが。ただ逆にそれだと品質が今一揃っていない。高くない。

・陸上養殖は経費が高いので。安い物にならないといけない。

・陸上養殖があまり普及していない理由は経費にもあるが、品質の高さの付加価値があんまりはっきりしていなかった。ここをきちっとすればもう少し発展していくと思う。

・品質を保ったまま長く飼えるので、活魚でそれができるようになれば、在庫ができる。出荷調整が可能だ。これまではこれができない産物だった。

・最近、低温処理して在庫ができるようになったが、まだまだ。それが欠点だった。結局、セリにかかって値段が決まってしまって、「たくさんとれて安い」という生産者泣かせ。市場原理から言えば仕方ないことではあるが、生産者としてはやはり立つ瀬がない。

 

 

■料理人からは臭いが強く「使えない」との声

 

・2トンの野菜があっても1トンしか収穫できない。1トンはどこかへ行っちゃったんです。これが環境負荷。環境負荷自体も問題だが、これがずっと継続すると品質が劣化するんですね。病気が出て生産効率も下がる。これが問題だ。

・世界的に新規参入の制限。しかし消費量はどんどん伸びている。何とかしなければならない。何とかしなければいけないところに陸上養殖が出てきた。

・養殖現場の感覚から言うと、養殖魚にアニサキスはいない。しかしノルウェーのサーモンにはいたという。1件だけ論文がある。だから100%いないとは言えない。スーパーのバイヤーも慎重にならざるを得ない。発生件数だけをみると減っている。アニサキスだけは増えている。なぜだかわからない。

・養殖魚一般の低品質イメージがある。天然ヒラメの美しいヒレ。養殖魚特有の臭いがする。イワシの匂いがするという人はいなくなった。カビ臭い、土臭い匂いがする。ジェオスミン臭。養殖環境中で繁殖した細菌はgeosminなどを生産する。その強い匂いを料理人はすごく嫌がる。魚の肉質に移り、商品価値を下げる。

・最近カウンターキッチンが増えている。さばいている魚の姿が見えなくなった。(昔はすぐ目の前でさばいていたので)こんなきたない魚を出して高い金をとりやがってという話になる。料理人としては使えない。

 

陸上養殖には3タイプがある

 

■完全閉鎖循環式で現状を打破へ

 

・出て行くのはスーパーの切り身・刺し身。養殖というのはそういうイメージだ。これを変えられないか。これを完全閉鎖循環式で現状を打破したいという気持ちがある。

・それはどうするか。天然魚の品質と養殖魚の安定供給。天然魚にも養殖魚にも負けない安全と安心。これを実現して付加価値を付けたい。

・陸上養殖には3タイプがある。1つは掛け流し式(少数)。私が学生時代の養殖はみなこれだった。安いのが良い面だが、良い水が取れなければ話が始まらない。できるところが限られている。

・2つ目は完全閉鎖循環式。やっているところはまだ少数だ。メリットは多いが、生産経費は高い。脱窒方法により嫌気式と好気式の2つのタイプに分かれる。

・3つ目は大多数の業者が行っている中間型の「半閉鎖循環式」。掛け流しとろ過装置を併用して毎日飼育水量の5~10%を換水している。

・閉鎖循環をやるときに技術的なキーポイントは飼育水の浄化だ。水中の固形・懸濁物、水溶性有機物、病原体対策は決まっている。問題は窒素性排泄物(魚介類の出すアンモニア。毒力が強く、低分子で除去が困難)。

・対策としては硝化反応。微生物により毒力の弱い硝酸へ。アンモニア⇒亜硝酸⇒硝酸。高水温、PHの高い水では毒力の強い硝酸が多い。しかし硝酸にも弱いながらも毒性がある。魚では成長が抑制される。

・高濃度の硝酸が魚の成長抑制を引き起こす。消化不良に加えて肝機能障害も⇒成長抑制(牛の硝酸中毒では流産、下痢や乳量減少)

・水の中でこういう現象が起こっても分かりにくい。そういうこともあって見過ごされてきたのかなと思う。

 

これが完全循環式陸上養殖システム

 

■好気的脱窒法を使ったシステムが相応しい

 

・硝酸は除去しなければいけないことがお分かりいただけたと思う。硝酸の除去には突き詰めると2つの方法がある。実際にやってみると、嫌気的と好気的の2つの方法がやりやすい。他の方法はやたらお金がかかったり、反応条件が厳しい。

嫌気的脱窒方法(下水処理の転用=下水処理水で魚を飼うようなもので水質がやはり悪い、活性汚泥法・生物膜法)は大手の養殖業者に使用しているところもあるが、水中に大量の微生物とエネルギーとなる有機物が存在するので、下水道処理水で魚を飼うようなもので、水質が悪い。下水道処理水としてはこれでOKだが、魚の品質は低いままでヒレがボロボロ、臭う。出荷の前には匂い抜き期間(2~4週間)が必要。

好気的脱窒法(干潟の再現)。空気に暴露、水に付ける、空気に暴露を繰り返す。セルロースをエネルギー源として、脱窒菌が自然に繁殖してい好気的脱窒反応を起こす。高性能で始動が2~3日以内に始まる(嫌気的は2~3カ月かかる)。水の中に微生物がいる。セルロースの上に繁殖しているので、バクテリアがいなくなっても何ら問題ない。泡沫分離ができる。

 

■長く使っても故障なく日常の管理が楽

 

・このシステムを絵に描くと、もっと分かりやすい。こういうシステムの中で嫌気的環境を作るのはそもそもが面倒くさい。結局以下に突き当たる。嫌気的脱窒を使ったシステムの場合、中小の畜産業者では熟練の技術者を採用することは難しく、加えて臭い抜きのための別システムが必要。大手は分からないが、中小は絶対にできない。

・一方、好気的脱窒を使ったシステムは脱窒機能が高く好気的に動くので、システム全体を小さく簡素にできる。

・自然界での好気的脱窒反応は干潟ではセルロースの空気暴露と水浸漬が1日2回繰り返されるが、間欠ろ過は空気暴露と水への浸漬を1日に数百回おこす。間欠ろ過式好気的脱窒は自然界での現象を人為的に再現し、それが連続的におきるようにして、持続的に安定して反応が起きるようにした。

・空気暴露なしでは脱窒が起きない。

・蒸発と泡の排出による減水を補水(水量の0.5~1%/日)はするが、換水は不要。環境負荷がとても小さい、労働環境に3Kがない。長く使っても故障がなく、日常の管理が楽。

 

■剪断式泡沫分離機も優れもの

 

・本システムで2つ目の重要な要素は剪断式泡沫分離機。同分離機とは水中の汚れだけでなく、バクテリアやウイルスも除去する。海洋深層水や外洋水なみの清浄さを実現する。故障がなく、泡の量が多い(高速噴射式の3倍)。

・泡沫分離と好気的脱窒の相乗作用で飼育水に臭い(微生物の出すgeosminなど)がない。溶存二酸化炭素の除去効果も高い(ボーア効果対策)。飼育システム全体のダウンサイジング(1台3役、4役)

・半閉鎖循環式や海面養殖であれば、排水は周辺に拡散する。本システムはそれがない。環境負荷の軽減に役立つ。

・「大腸菌」があると「これがあると不潔ですよ」。食中毒リスクはとても高い。

・成長・品質に対する効果も高い。ヒラメの場合、6カ月後の総体重は15kg(平均500g、300~720g)。よって年2回の収穫が可能。掛け流し式や半閉鎖循環型陸上養殖システムでは約1年。

・飼育水が無臭で身にジェオスミン臭がない。美しい外見(特にヒレ)。水中細菌の一部はヒレの表面で繁殖してボロボロにする。

・食品として安全性が高い。食中毒を起こす細菌、寄生虫の発生がない。急病が発生しても抗生物質など水産薬を使わずに予防・治療ができる。究極の安全・安心を実現できる

・有名ホテルチェーンに調理人にヒラメを食わせたら、「養殖物のイメージ変えるなあ」と喜んで持って帰った。タイトルにも「養殖のイメージを覆す」と使わせてもらった。

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