【展示会】「エコプロ2022」で発見した男女ともに快適に使用できる「快適トイレ」だが、災害時には「水洗トイレは使えない」ことを忘れることなかれ

5秒で固まるバイオマス素材を使用した携帯用トイレ(スターライト工業社製)

 

■社会課題解決型総合環境展

 

今年も環境総合展「エコプロ2022」が12月7~9日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。エコプロだけではなく、社会インフラテック、カーボンニュートラルテック、自然災害対策展、ウェザーテックも同時開催された。インフラメンテナンス国民会議と日本経済新聞社の共催。

日本の高度経済成長期には道路、橋、公共施設などのインフラが集中的に整備されたが、それらが経年劣化しメンテナンスが迫られている。既存社会資本のメンテナンスに加え、交通・エネンルギー・通信分野で次世代インフラづくりも欠かせない。

脱炭素をキーワードに社会インフラ、自然災害対策、気候変動課題などに備える必要性を感じる関係者全体に呼び掛けた総合環境展。日経が育て上げた展示会ともいえ、同社の総合力を示したものだ。

 

■快適トイレの標準仕様

 

注目したのは「快適トイレ」。これは何だろうか。聞いたことがなかった。国土交通省が2016年8月、建設現場を男女とともに働きやすい環境とする取り組みの一環として、男女ともに快適に使用できる仮設トイレを「快適トイレ」と名付けた。16年10月1日以降に入札手続きを開始する土木工事から導入した。

快適トイレの標準仕様は以下の通り。

1.洋式便座
2.水洗機能(簡易水洗、し尿処理装置付きを含む)
3.臭い逆流防止機能(フラッパー機能)
4.容易に開かない施錠機能(二重ロックなど)
5.照明設備
6.衣類掛け等のフック付、または荷物置き場設備機能

 

■災害時、水洗トイレは使えない!

 

特定非営利活動法人日本トイレ研究所はトイレや排泄に関する勉強会を不定期に開催しており、4月26日にウクライナとハンガリーの国境近くの避難所施設で、医療支援活動などを実施した難波妙さん(特定非営利活動法人AMDA理事)を招いて活動内容を聞いた。

ヘルプセンターで活動していた難波さんが驚いたのは設置されていた仮設トイレが「本当にきれいなトイレでした。コンテナ型トイレは地面に配管が接続され、水洗トイレになっていました。電気は使えなかったものの、トイレ内は普段の生活と同じように使えました。別の場所に汲み取り式の仮設トイレもあり、どちらもボランティアの方が清掃し、非常にきれいな状態に保たれていました」という。

難波さんがなぜそこまで驚いたかと言うと、過去の日本の被災地支援で見た仮設トイレとの落差が原因だった。普段、排泄物を瞬時に流し去ってくれる水洗トイレに慣れていると、「いざとなればトイレくらい何とかなる」と考えがち。

しかし、トイレが使えなくなっても排泄は止めることができない。我慢すると体調を崩すことにつながる。排泄は人としての尊厳に関わるため、トイレが不快な場所には安心して滞在できなくなるという。

ストレスにさらされた環境下において、トイレが衛生的で使いやすい環境にあることは、人々の健康を守ることにも直結している。

 

スターライト工業の展示ブース

 

■食料、水に続いてトイレも大事

 

日本トイレ研究所主催のシンポジウムに参加した内閣府の西村避難所担当企画官は「いざ災害が起こったときにすぐさま必要になるのはトイレだと思っている」との認識を示した。

一般的には食料、水の確保をどうするかが真っ先に思い浮かぶと思うものの、トイレ対策も極めて大事であると述べ、それへの取り組みを紹介したいと語った。

仮設トイレが被災自治体の避難所に行き渡るまでの日数について調査したところ、東日本大震災では3日以内に行き渡った自治体はわずか34%、4~7日17%、8~14日28%、1カ月以上かかった自治体は14%もあった。「仮設トイレはなかなか来ない」のが現実だ。

西村氏は避難所におけるトイレには法律として「確保・管理ガイドライン」があるとし、それに沿った平時からの体制づくりが最も重要だと述べた。起きてからでは間に合わないのだ。

災害時「トイレ対策」の3つのポイントとして、トイレの必要数を把握するとともに、時間経過や被災状況に合わせて災害用トイレを組み合わせ、さらには地域全体で災害用トイレ(携帯トイレ、簡易トイレ、仮設トイレ、マンホールトイレなど)を備える必要性を訴えた。

 

■非常食を「ローリングストック法」で食べる

 

西村氏は災害対策について新しい考え方の1つである「ローリングストック」を紹介。アルファ米などの非常用の食品を日常的に消費しながら、新しく備蓄していく(回していく)方法があると問題提起した。

農水省は「家庭備蓄ネットワーク」に関する情報を収集、HPで公開している。「楽しい、美味しい、使いやすい」を合言葉に、ローリングストックの輪を広げていこうと呼び掛けている。

外部リンクも明記。例えば、「味の素」の場合、ローリングストックが「備蓄した食品を定期的に消費し、食べた分だけ買い足していく方法」だとし、「日常的に非常食を食べることで常に新しい非常食が備蓄されている状態を保つことができる」と非常食の効用をうたっている。

味の素はレトルトパウチ(加圧加熱殺菌食品全般)の「おかゆ」シリーズが災害対策にも最適だとし「ローリングストック」を推奨している。

3日分(9食分)のおかゆを用意し、月に1度1食分を食べ、9カ月で最初に購入した9食分を食べきり、補充したおかゆに入れ替える。

月に1度「消費」→「備蓄」を繰り返すので賞味期限きれを防げるほか、いざという時の調理法や食べ方をシミュレーションできる。さらに食べながら回していくので賞味期限が1年程度あれば非常食にできるメリットがある。

 

日本トイレ研究所の展示ブース

 

■日常と非日常を一連のものとして扱う「フェーズフリー」的考え方

 

また西村氏は最近使われている言葉として「フェーズフリー」(Phase Free)を紹介している。フェーズフリーとは平常時に利用されるすべての商品およびサービスが持つ災害時に役立つ付加価値と定義している。

日常と非日常(災害)を別物として扱うのではなく、一連のものとして扱う。これは米国で提唱された考え方で、防災の専門家として活動してきた佐藤唯行フェーズフリー協会理事長が2014年に提唱した。

佐藤氏は「私たちが生活を送る『平常時』と『災害時』という2つの時間=『Phase』について、この2つを分けることをやめてみる」ことを提唱している。

「私たちは、身の周りのあらゆるモノと一緒に、平常のPhaseから災害のPhaseへと連続的に突入していく。このことに着目すると、私たちに必要なのは、防災のための特別なモノではなく、普段の生活の中で自然に使え、さらに災害の際にも役に立つモノなのです」。

 同氏は「平常時や災害時というPhaseの制約から自由であること、Phaseの間にある垣根を越えてどの様な状況下でも私たちの命や生活を守れること、これを『PhaseFree(フェーズフリー)』と名付けましょう」と提案している。

 

■女性の進出のために

 

国土交通省による建設業界への快適トイレの導入は圧倒的に「男社会」だった業界に「女性の力」を取り込む必要があるとの意識を受けたものだ。

「建設現場を男女ともに働きやすい環境へと整備する」ためには建設現場で日常的に作業員が利用する「仮設トイレ」を整備するしかない。

ところが建設現場のトイレは、基本的に男性のみが利用するための仕様にしかなっていないものがほとんで、多くが汲み取り式の一般的な仮設トイレを利用していた。

株式会社ミカサのバイオトイレコラム「女性の建設業進出に必須!高まる『快適トイレ』にニーズとは」によると、これまでの建設現場のトイレ環境は、ごく小数の女性作業員や技術者にとって不快で使いづらいだけでなく、建設業界への進出にはマイナスと見られている。

政府はまず建設現場のトイレを美しく使いやすい環境にすることで、女性の建設業界への進出を後押ししようとしているわけである。

 

■有事に建設現場のトイレをどうぞ!

 

全国建設業協会けんせつ小町支援専門部会長の畠中千野さん(大成建設)は、建設現場は全国のあらゆるところに点在しているが、その建設現場を災害時には開放し周辺住民に利用してもらうことも考えていると語った。

平時は作業員、有事になれば地域の方も利用してもらうトイレというふうに考えれば、建設現場のトイレもジェンダーフリートイレを設置することも考えているという。

災害協定となればハードルが高いので、災害時にはどうぞというふうに呼び掛けられる風土を浸透できる取り組みをしていけたらなと思っていると述べた。

その旗振り役として日建連のけんせつ小町があってもいいかなと考えているという。

 

■「有事に使えるパブリックトイレを」

 

セミナーの進行役を務めた日本トイレ研究所の加藤篤理事長は「いざとなったらパブリックトイレ的に地域のトイレとしてオープンにするという考え方はすばらしい」と述べた。

また山梨県建設業協会業務部長の山本憲一氏は、「トイレは高層的な建物であっても必ず1階にある。行きやすいところにある。そこが災害時に開放されれば避難所に行く人もあれば、行けない人が近くの建設現場のトイレをちょっとお借りしようということはアリだと思う」と語った。

山本氏は、「民間工事は施主がいるのでやりにくいだろうから、まずは国や県などが行っている公共工事のトイレを開放したい」という。そのためにも「現場を安全にしきれいにすることが日頃から重要だ」と述べた。

 

 

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