【ちょっと一杯】「せんべろ」までは踏み込めない非逸脱系年金生活者が飲むところはせいぜい新宿「ハルチカ」か
■新宿ハルチカで一杯
年数回程度会っている友人から「新春だから一杯やりませんか」と誘いがあった。会社は違うが、結構気があって会社を辞めてからも付き合っている。2人で向かったのが新宿西口ハルク地下3階のハルチカだった。
彼とは仕事の付き合いで一度南米パラグアイに一緒に行ったことがある。了解して新宿で一杯飲んだ。私は75歳、彼は今年70歳になる。彼は離婚して今は1人暮らしである。
現役時代ならともかく、私は今や後期高齢者。若干のアルバイトはあるものの、たかが知れている。基本的に入ってくるのは年金だけだ。そうなるとどうしても生活は防衛的になってくる。
その年金だって正直いつまで出るのか不安である。年金の供給元である政府の財政が赤字国債で成り立っているからだ。それも赤字国債を乱発して史上最高額の予算を組んでいる。
元旦から能登半島地震が勃発し、羽田空港で日航機と海上保安庁機が衝突し、日航機は炎上した。そんな大事故が年頭から起こる時代である。
お金の需要は尽きない。まだ税収が伸びているから年金も払えているが、それがいつ止まるか。考えただけでも恐ろしい。
■3000円は大金だ
待ち合わせ場所は「新宿西口交番」。そこから適当なところに流れていく。まだ懐事情が豊かだった頃は会う店がまだ「新橋」や「日比谷」などだった。ところが懐が寂しくなってくると、店を指名するのではなく、とにかく待ち合わせる場所を指定する。出撃先はその日の懐事情による。
そう言えばまだ現役だった頃、付き合いの悪い人がいた。ちょっと付き合ってら3000円である。場合によっては5000円だ。現役ならばまだ払えるとしても、現役を退けば許容範囲を超えている。現役の側はそれがなかなか身に染みて分からない。
ポスト・コロナ禍の物価高騰で飲み代も1000円は上がった。場合によっては2000円は上昇している。3000円、5000円は簡単に払えない時代である。
収入源がなくなったとすれば、もう3000円は大金である。よほどのことがない限り、そんな出費を伴う会合には出向かない。声がかかったとしてもお断りする。
■1000円でべろべろに酔える「せんべろ酒場」
主に大衆居酒屋、小規模な酒場、立ち飲みなど「1000円でべろべろに酔える」ような価格他の酒場のことを「せんべろ酒場」と言うようだ。
1000円でべろべろに酔えるという言葉ではあるが、せんべろネットによれば、「気の利いたつまみとお酒が2~3杯ほど飲めるという意味合いが強い」らしい。1000円はあくまで目安で、飲兵衛氏によれば、それを超えることは日常茶飯事らしい。さもありなん。
研修講師、マーケティングコンサルタントの新山勝利氏が東洋経済オンライン上で「東京の『せんべろ』、約700店を対象に独自調査」(2018/02/01)している。
せんべろは大きく2つのエリアに分けられ、1つは御徒町、上野、浅草と荒川をはさんだ小岩、京成立石の城東エリアと赤羽から池袋、新宿、渋谷へ連なる城西エリアだ。
城東エリアは「戦後に工場が多くあり、1日中働いた大勢の労働者が、その疲れを駅まで連なる飲み屋街で癒やしてきたことが、せんべろの街として発展した経緯であろう」という。
京成立石はせんべろの聖地として有名だが、戦後には労働者の血を買う工場があったことを五木寛之の本で読んだことを覚えている。
そう言えば60歳代には非常勤で勤務していた会社の同僚と赤羽の居酒屋で飲んだことがある。どういうわけか、赤羽には飲食街がたくさんあり、1000円でべろべろに酔えるコスパ抜群のせんべろ酒場が多かった。何件かはしごしたが、あれがせんべろ酒場だった!!
■ハルチカは10年前からあった
住んでいるのが練馬区なので残念ながら城東エリアは立入禁止。もっぱら城西エリアの中でも新宿地区がホームグランドとなる。東洋一の歓楽街と称され、日本を代表するのが新宿歌舞伎町地区。
娯楽・商業施設、飲食店が乱立する「眠らない街」だが、最近浄化活動が活発で、影を潜めている。昔の小便横丁、今の思い出横丁がせんべろ酒場の巣窟だろう。
それでハルチカである。「ハルチカ」は新宿西口の8階建て複合商業施設。小田急百貨店、ビックカメラが核テナントで、ハルチカは地下3階および地下中3階食堂酒場のことを指す。
2010年頃には現在地にあったはずだが、目に入らなかった。11年頃に発見し、その後ボツボツ通うようになった。新規の店を発掘する努力をしなくなった。
現役時代はそれでも老舗居酒屋の「鼎(かなえ)」(新宿3丁目)や焼き鳥「ぼるが」(新宿西口)、スペイン料理「カサベリヤ」(新宿歌舞伎町)などをひいきにしていたが、最近はハードルが高くて足が向かない。せいぜい同じ新宿西口でもすぐそばのハルチカの「御さしみ家」などだ。
金がないなら「せんべろ」という選択肢もあったはずだ。要はそれほど酒が好きではなかったということではないか。好き嫌いが激しく、酒量もそんなに多くはない。当然のことながら出没するエリアも限られている。
無頼派サラリーマンなら「せんべろ」もありだろうが、順法的で大人しめの非逸脱系元サラリーマンなら年に1度か2度ならば3000~5000円のハルチカがふさわしいのである。