『日本農業への正しい絶望法』

なかなか衝撃的な書名だ

なかなか衝撃的な書名だ

 

書名:『日本農業への正しい絶望法』
著者:神門善久(ごうど・よしひさ)明治学院大学経済学部教授
新潮新書(2012年9月20日発行)

安倍政権が農業を成長戦略の一翼に組み入れたこともあって、農業への関心が高まっている。1970年に始まった減反政策の見直しも本決まりとなり、農業を取り巻く環境が大きく変わる。

総合誌でも農業特集が組まれ、関連図書も刊行され、農業への夢が華々しく語られる。しかし、神門教授は夢物語の裏で、日本農業の「ハリボテ化」が進行していると指摘する。

「良い農産物を作る魂を失い、宣伝と演出で誤魔化すハリボテ農業になりつつある」日本農業の実態を農家、農地、消費者の惨状から直視し、その実態に「正しく絶望する」ことからしか農業再生はあり得ないと強調する。

徹底したリアリズムに基づく激烈なる正論だが、単なる農業論にとどまらないのが本書のユニークさだ。神門氏は不愉快な正論を抹殺する大衆や大衆に迎合するマスコミと識者、「ヨソ者排除」という日本社会の悪しき風習も容赦なく批判の刃を突き付ける。

マスコミや識者の議論は馴れ合いにすぎないと神門氏は指摘する。「自称・改革派」も「自称・保護派」も同類で、両者とも真実から目を背け、虚構に逃避していると断罪する。同質性の高い日本社会は、まとまって「見なかったことにしよう」という雰囲気を作るからだ。

神門氏は、農業という話題を使いながら、「大東亜共栄圏」を作り上げた75年前と変わらない今の日本社会の体質を突いた論説を展開した日本社会論にもなっている点は新鮮だ。

その日本社会論も類型的なものではない。「人間社会の愚かさ」に対してはそれを批判するのではなく、ありのままに描いて、詠嘆をしたい」との姿勢で臨むからだ。人間の不正直は責めるが、人間の愚かさは責めない。

「人間社会の愚かさを、自分自身の嗚咽を絞り出すようにして書いた」本書は、幾分自分に酔っているところが鼻につくところもあるものの、小説のように読ませる内容ではあった。

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