【プライムニュース】極めて過激な右と極めて過激な左がぶつかり分裂している不寛容な社会の中で目指すべき国はどこにもない過酷な現実

「戦火の時代は日本をどう変えたか」

 

思想史家で日本大学教授の先﨑彰容(せんざき・あきなか)氏は2月22日のBSフジ・プライムニュースに出演し、「今の時代は落としどころがない。極めて過激な右寄りと極めて過激な左寄りがお互いに絶対に譲らないもの同士が情念をぶつけあっている不寛容な社会になっている」とし、その一番ひどいのが米国であると述べた。

同氏は「目指すべき国がどこにもない」現実を指摘したが、それでは我々は何を目指せばいいのだろうか。主な発言要旨は以下の通り。

 

■日本人は具体的な安保対策が苦手

 

・そのウクライナ戦争も2年間続いている。世界がその緊張状態に慣れ始めている。キーウでさえスーパーで買い物をしたりする一般市民の日常がテレビで映し出され、実際の人間は戦争にあたふたせずにしたたかに生きていることを知らされた。

・それらを踏まえた上でこの2年間、日本は何をやったのか。安全保障に限定して言えば、安保3文書を改訂して防衛費をGDPの2%に増額した。危険すぎるとの批判もあって議論もあったが、私が言いたい1つ目は2%に引き上げることによって国内でも緊張が高まったのだから、この緊張感を国民に共有してもらうため国民の信を問う必要があったのではないか。

・選挙は無理にしても日常生活の中で安保について考えられる環境、雰囲気を作っていくことがあってもおかしくないのではないか。日本人は社会の中で核シェルターを設置するなど危機管理を考えることがとても苦手な国民のように思える。日本人はどうも一過性的であり過ぎる。

 

浅田彰氏

 

■中国の対日威嚇はブラフ

 

・浅田彰氏(批評家、京都芸術大学教授)=中国や台湾などが国際社会の中でその地位がパーっと上がってきたのは1990年ぐらいからだ。この30年ぐらいのものだ。日本は30年前からジャパン・アズ・ナンバーワンだった。漠然とした不安があってそこにウクライナ問題やガザ問題などが生じた。

・北大西洋条約機構(NATO)は目覚めて重い経済制裁をロシアに科した。中国は人権感覚ゼロの超監視社会を実現したが、習近平政権は諸都市で白紙を掲げるデモが起きるやトタンに日和ってゼロコロナ政策を中止した。

・習近平政権は人民をある程度安寧でそこそこ豊かに保っておれば共産党独裁を許してくれると考えた。これ以上経済が落ち込むことはしない。台湾侵攻のリスクはとらないと思う。

・中国は日清戦争時代からまともな海軍の戦いをやったことがない国だ。危ない橋を渡る度胸はない。えらそうに言っていないともたないから口で言うが、額面通り受けとる必要はない。

・Jアラート(全国瞬時警報システム)を鳴らしたり、北朝鮮のミサイル発射に弾頭が付いているかのような騒ぎ方をするが、ブースター(推進補助装置)が付いているにすぎない。煽りすぎだと思う。

 

■経済が豊かであることが存在感

 

・浅田先生は最近の日本の社会は余裕がなくなったと言われた。傷口が開いた格好でちょっと刺激があると敏感に過剰反応する。大きなことで言えば安保問題から小さな問題ではSNS対応など日本人はセンシティブになりすぎではないかと言われた。

、経済が豊かであることを唯一のアイデンティティー(自我同一性、存在証明)にしていた。しかしこれは他国に抜かれれば揺らぐあやふやものだ。金銭における透明さを第Ⅰの指標にしてきたことのツケが表れている。

・フランスには文化遺産がある。日本はとりわけない。イデオロギーで国を引っ張っていかないといけなくなった。とりわけ先進国全体においては良かれ悪しかれ物語によって国を引っ張っていかなければならないフェーズに入っている。

・今トマホークを400発買っても中国は何ら怖くない。

・今の社会は右と左が感情的になっている。

 

■トランプ岩盤支持層は「マイノリティーを頂点から引きずり下ろせ」

 

・先﨑=経済問題が右寄りと左寄りを決定していた。労働者の保護を強調するのが左派、規制を緩和し小さな政府にし個人の権利を重視する右派の課題だったが、社会の問題が個人がないがしろにされている感覚(承認欲求)に変わった。

・浅田=スティーブ・ジョブズは1954年にアメリカに渡ったシリア人男性の息子だった。シリア移民の子どもだった。

・ヒラリー・クリントンは女性でも大統領になれると主張した。気が付くと訳のわからん連中が国を乗っ取っている。彼らにおれたちが首にされようとしている。民主党は自分たちを守ってくれない。

・それを救ったのがトランプだった。承認欲求をばらまいて選挙を行っている。私(浅田)は民主党に批判的だ。ただバイデンは古いから労働者よりでいい。資本と労働を求める階級闘争からマイノリティ-(社会的弱者)を認めるかどうかの文化闘争になっている。

・マイノリティーが前面に出てきたとき、自分たちがアメリカのヒーローだったと思っていた白人は強烈な疎外感を味わった。トランプの言っていることは全部ウソだったことが明るみに出たが、トランプは「おれはお前らの復讐だ。お前らは足蹴にされている。おれが復讐してやる」と言った。

・今の鉄板トランプ層は「経済はよくならないかもしれないが、あいつらを引きずり下ろしてくれればそれで結構だ。一緒に地獄に落ちよう」と思っている。

 

先﨑氏

 

■一流の国はどこにもない

 

・先﨑=ヒラリー・クリントンは2016年米大統領選でマイノリティーを名乗って正しいことをしていると主張する半面、講演料500万円をもらっていた。そういう場合、人は偽善を見てしまう。彼女は正しいことをやっている。しかし偽善ではないかと。

・今の社会は代わりの効かないもの(肌の色、民族など)同士の対立構造になっている。落としどころがない。極めて過激な右寄りと極めて過激な左寄りがお互いに絶対に譲らないもの同士が情念をぶつけあっている不寛容な社会になっている。

・この状態がひたひたと日本に上陸してきつつある。引くことができないものをぶつけ合いながら社会が分裂しあっている。アメリカは日本よりもっとひどい。目指すべきはアメリカではない。目指すべき国はどこにもない。一流の国はどこにもない。

・多様性という善意だけで日本の社会の中にすっと入って社会を分裂と対立と収まりどころのない怒りにしてしまっている。この物を書くボールペンは善だが、武器にもなり得る。正しさはある限界を越えると暴力になる。善は悪になる。人間が持っている恐ろしさだ。

・人間というのが簡単なのは右か左かに落ちること。正解が出ること。物を考える場合、それが楽なんです。綱渡りをして平凡なことを言うことは大変なことだ。みんながおかしくなっているときに自分だけ正気でいなければならないのは大変ですよ。

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