【会見】不動産バブルが弾けて「需要不足」に苦しむ中国経済=むしろ東京で台頭する富裕エリート層の文化活動に注目すべし=柯隆氏

東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏

 

ゲスト:柯隆氏(東京財団政策研究所主席研究員)
テーマ:中国で何が起きているのか
オンライン3月18日@日本記者クラブ

 

東京財団政策研究所の柯隆主席研究員は3月18日、日本記者クラブで講演し、不動産バブルなど中国を取り巻くさまざまな問題について見解を述べた。同氏の日本記者クラブ会見は8回目になる。

 

■世界は「嵐の前の静けさ」

 

柯氏は現在の世界情勢について「嵐の前の静けさ」であるとの認識を示した。11月に米大統領選を控える米国はトランプ前大統領に「勢いはある」ものの、同国政治がはっきりと「内向き」に陥っていると指摘。同国の政治から世界観やビジョンが消えたと述べた。

中国についても制度づくりが整わないうちにあまりにも早く経済発展を遂げた結果、今同国経済は失速しつつあると語った。

さらにロシアについてはプーチン大統領による独裁国家が誕生することによって、米中露による3カ国を中心とした世界は「安定を欠いている」と強調した。

こうした中で日本はきちんとした中国戦略は持っておらず、近視眼的な戦術論で終始している現状を指摘した。

 

■中国の成長率は「1.5%程度」との指摘も

 

中国は先に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で昨年7月に外相を解任された秦剛氏や、同年10月に解任された李尚福国防相について、李強首相が「なぜ解任したのか答えられないため」と述べた。

全人代閉幕後の首相会見は国内外のメディアが政策の司令塔である首相に質問をぶつけられる数少ない機会だったが、情報へのアクセスがさらに減ったことになる。

中国国家統計局が3月17日発表した今年の実質成長率は5.2%だった。同国の公的統計の精度には懐疑的な見方が常にあり、米調査会社ロジウム・グループは「中国政府が5%成長の目標達成を主張したとしても、実際の成長率は1.5%程度だろう」と予想した。

柯氏もロジウム・グループの見方に賛同するとし、投資が0%、消費2%、純輸出マイナス0.5%で1.5%が体感温度と述べた。

また柯氏は中国の若年失業拡大を問題視する。16~24歳に当たる若年層の都市調査失業率は2023年6月に21.3%と過去最高の水準に達した。

国際労働機関(ILO)が推計している若年失業率をみても、中国は22年に13.2%と日本の4.2%、韓国の6.9%を大幅に上回った。

中国は「人材強国」のスローガンの下で大学の新設や定員増加を進めた結果、22年の大卒者は967万人と10年前の1.5倍、大学院卒業者は86万人と同1.8倍に増えた。大学生の4割超が「卒業=失業」状態に陥っているとみている。

柯氏はコロナ禍の3年間で中小零細企業の倒産が急増した結果、若年失業者も急増したと強調した。

 

■不動産バブルは崩壊

 

現在中国経済最大の問題点とされている不動産バブルについて大方の市場関係者が「崩壊している」と見ている中で、「崩壊していない」との見方も存在するが、なぜそういう見方が出てくるのかについて「まだ不動産価格は大暴落していないから」と答えた。

それは当局が不動産価格をコントールしており、普通に市場メカニズムに委ねると大暴落しているはずだと強調した。

 

■「借りるよりも買ったほうがいい」

 

柯氏が崩壊したと判断する理由としては①倒産あるいは精算手続きに入っているデベロッパーがある②ゴーストタウンになる建設中の住宅が出ている③個人が買った住宅ローンが信用不安もあって予定通り返済されていないーことなどを挙げた。

柯氏によると、中国で不動産開発が始まったのは1990年代後半。それまでは国有地で売買できなかった。それを可能にしたのが日本で使われていた概念の「定期借地権」。所有権と使用権を分離し、住宅用地50年、工業用地70年で売却した。入札で払い下げたのは地方の市政府。

ところが入札の透明性が担保できなかった。ガバナンスが効いていない場合、癒着が必ず起きる。その結果、数百万人の人が刑務所に入ることになった。

中国国内では住宅を賃貸する人が極めて少なくマーケットもあまり育っていない。借りるよりも買うほうが圧倒的に多く、頭金など払えるわけがないし、買えるわけがない。どうするか。親などの親族に助けてもらうケースがほとんどだ。

 

■「マイホーム・マイカー所有」が結婚の条件

 

新聞に掲載される結婚志願者募集中の広告によると、女性が結婚する条件として提示しているのは「マイホーム・マイカー所有」。マイカーとマイホームが結婚の前提条件となっている。

日本は失われた30年と言われるが、「技術」は失っていない。デフレが進行しても、技術はコツコツ磨いてきた。その技術が今再び回復している。

比べて中国。日本企業を含む外資が中国から抜け出していく中で、技術力も失っている。ミドルクラスの技術は残るにしてもハイテク技術や工作機械は作れない。

中国の社会保障制度は地方の市政府が運営している。財源は不動産資金だった。不動産市場が崩壊すると今後、年金受給者が年金難民になる可能性が出てくる。

 

■10年前は供給過剰、今は需要不足

 

習近平国家主席が正式に就任した2013年3月時点の中国経済は供給過剰だった。国内で生産したものを輸出していた。それでも輸出仕切れず残った。

それで考え出されたのが「一帯一路」政策だった。今では途上国を債務のワナに引き込むための政策と考えられているが、そうではなかった。

10年たった中国の現在は需要不足。1つは民営企業への締め付けが激しすぎて弱体化していること、2つ目はコロナ禍。需給がバランスするためには時間が掛かる上、技術も失っているので減速を回避するためには時間がかかるが、政権内には経済専門家がいない。

 

■中国人向け新型タイプの書店が東京で続々オープン

 

台湾問題については中国の侵攻はないと楽観視している。頼清徳・民進党次期政権後も民進党政権が続くようだと中国は民進党政権と対話をしなければならなくなる。

中国にとって大きな誤算だったのは香港対応。香港が中国に飲み込まれた結果、国際金融センターの地位もハブとしての存在も失ったことを台湾は見ている。台湾を自国に引き寄せることがかなり難しくなったのではないか。

新しいタイプの中国人向けの書店が東京で続々開業している。書店を立ち上げているのは規制を嫌って日本に移住してきた中国人富裕エリート層だ。

中国自体は弱体化してもバーチャルな中国人コミュニティーを作り上げ、世界のユダヤ人コミュニティーやイスラムコミュニティーなどとネットワークを構成しつつある。前向きな姿勢でありこれは注目すべきだ。

 

◎柯隆氏の日本記者クラブ会見(2024年3月18日)

 

 

◎中国人向けの書店が東京で開業する深い事情
~言論統制を嫌うインテリが日本に脱出している~

 

 

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