『前立腺がん』市民公開講座

 

講演する大堀前立腺センター長

講演する大堀前立腺センター長

 

「早期前立腺がんの診断と治療」と題した第105回市民公開講座が東京医科大学病院(新宿区西新宿)で開催された。講師は同大学病院泌尿器科教授で、前立腺センター長兼ロボット手術支援センター長の大堀理(おおほり・まこと)氏。

東京医科大学病院にはこれまで縁がなかった。最寄り駅は都営大江戸線西新宿5丁目駅で、高層ビル群のど真ん中にあった。行って見ると、大病院だった。今年は創立100周年に当たるらしい。

 

講師のPDFファイルから

講師のPDFファイルから

 

前立腺は男しかない臓器だが、これまでどこにあるのかはっきりとは知らなかった。前立腺は骨盤の一番奥深いところに位置し、前は恥骨、上は膀胱、後ろは直腸、横は筋肉に囲まれている。問題は前立腺の中に尿道と射精管が通っており、それぞれ膀胱と精嚢につながっていることだ。

そのためか、前立腺の仕事は尿と精液と関係している。仕事は主に3つ。

・精液の一部(前立腺液)を作る⇦精巣(睾丸)で作られた精子は、精嚢が分泌する精嚢液と混ざり、さらに前立腺液と混ざって精液となる。

・射精を助ける

・尿を保持する

「人生50年」時代は特に問題が起きることもほとんどなかった。しかし、今や「人生80年」時代を迎えている。やはり長く使っていると、くたびれていろいろ問題が出てくる。前立腺がんや前立腺肥大症、前立腺炎などがそうだ。

「前立腺は思春期を迎えることから発達し、男性ホルモンの分泌により刺激されると前立腺液を生産することになる。・・・前立腺の性機能や排尿機能は、加齢とともに変化していきます。例えば、年齢とともに生殖能力が必要でなくなるために、前立腺は萎縮するか肥大するかの二者択一の道を選びます。かつて、日本人男性のほとんどは萎縮の道をたどっていましたが、現在では肥大の経過をたどっている人のほうが圧倒的に多く、80歳までに80%の男性が前立腺肥大症に罹患するといわれています。これは、食生活の欧米化や生活環境の変化などが影響していると考えられています」(『前立腺がんは「ロボット手術」で完治を目指す!』大堀理著、清月社)

成長期に前立腺が大きくなることは男性ホルモンの影響であることは知られているが、男性ホルモンの低下が始まる50歳頃から前立腺が徐々に肥大するのは、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスの変化が原因ではないかと考えられている。

よって、「前立腺肥大症は、男性であれば誰にでも訪れるいわば老化現象の1つ―目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったり、髪の毛が薄くなったりするのと同じ現象ということができる」(同書)。症状があっても極めて軽度で、日常生活に不便がなければ治療の必要はないという。

講座に出たのはジャーナリスト的に関心があったこともさることながら、前立腺肥大の症状が自分に出てきているためだ。尿が出にくくなる「排尿症状」、尿を溜められなくなる「蓄尿症状」、尿を出した後に出現する「排尿後症状」のうち、蓄尿症状が現れている。

・昼間トイレが近い(昼間頻尿)

・尿をがまんできない(尿意切迫感)

・夜中トイレが近い(夜間頻尿)

前立腺の肥大がかなり進み、膀胱排尿筋の収縮作用では尿の排泄ができなくなってくると、残尿が非常に多くなり、溢流性尿失禁が見られ、こうした状態が続くと、尿が腎臓にまで溜まって、腎機能障害を起こすという。

少し心配していたのは、前立腺肥大症と前立腺がんとの関係だったが、「合併することがありますが、前立腺肥大症が進行してがんになることはありません。症状は似ていますが、前立腺肥大症は尿道を取り巻く内腺に発症し、前立腺がんは主に外腺に発症します」(同書)だったので安心した。

この日のテーマは「早期前立腺がん」の診断と治療。とりわけ、治療方法だ。進行度などの状況に応じて放射線治療、内分泌治療、経過観察などを選択することになるが、最近注目されている手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使う腹腔鏡下手術(ロボット手術)だ。

 

「サージャンコンソール」には手術をする医師(術者)が座り、遠隔操作で特殊な鉗子を操作する。中央の「ペーシェントカート」は実際に患者に鉗子を入れるロボットアームが付いた器械と助手、右の「ビジョンカート」はロボットの光りやガスの量などをコントロールする頭脳の部分

「サージャンコンソール」には手術をする医師(術者)が座り、遠隔操作で特殊な鉗子を操作する。中央の「ペーシェントカート」は実際に患者に鉗子を入れるロボットアームが付いた器械と助手、右の「ビジョンカート」はロボットの光りやガスの量などをコントロールする頭脳の部分

 

ダヴィンチは米Intuitive Surgical社が開発したロボットで、1999年にヨーロッパで、2000年には米国で医療機器としての使用が認可された。日本では09年に認可され、12年には前立腺がんに対する手術のみが保険適用対象となった。

東京医科大学は06年に日本で初めてダヴィンチを使った前立腺がんロボット手術を行った。実績は既に1500例以上に達し、13年の1年間では実施した全摘除術計326例のうち、ロボット手術が322例を占めた。

 

お腹に6個の穴を開けるだけ

お腹に6個の穴を開けるだけ

 

手の操作がそのまま反映されて、微細な動きで手術が可能だという

手の操作がそのまま反映されて、微細な動きで手術が可能だという

 

最大のメリットは患者なの負担が少ないこと。お腹に6個の穴を開けるだけで、出血が少なく、痛みも開腹手術の1割か2割程度で、重症感もあまりないという。

ダヴィンチは1台3億円。大堀教授によると、既に元は取れたという。現在、日本で導入されているダヴィンチ(タイプS、SiやXi)の数は200台を超え、米国に次いで世界第2位だとか。ロボットの進出はめざましい。

それにしても悩める市民は多いものだ。会場の本館6階臨床講堂(320人収容)はほぼ満席だった。終了後も多くの市民が先生を取り巻き、相談を受けていた。切実な問題を抱えている人たちだった。

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