哲学や日本思想史の視点から考える新型コロナウイルス対応=『権力の消滅』から読み解く多極化世界

先崎日大危機管理学部教授

■日常は短期間に崩壊する

日本大学危機管理学部の先崎彰容(せんざき・あきなか)教授は30日のBSフジLIVEプライムニュースに出演し、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しめられている日本の現状について、日本思想史の視点から以下次のように語った。

・昼はどこかの食堂でランチを食べ、夜は居酒屋での飲み会の予定が入っているという日常がこれだけ急激に、これだけ短期間に壊れることが実際に起きるということを認識しておく必要がある。これは東日本大震災以来のことだ。

・今の時代は非常に極端になっている。極めて広範囲にグローバル化していたと思っていたら、急に一気に国境を閉ざしてシュリンクしている。極めて大きくぶれている。自然災害も極端になったり、あらゆる事象が極端になったらなかなか中間地点が見いだせない。そういう時代ではないか。

日本は4月7日に5月6日までの1カ月間、緊急事態宣言が発せられ、安倍晋三首相はこの日「厳しい状況が続いている。5月7日からかつての日常に戻ることは困難と考える。ある程度の持久戦は覚悟しなければならない」と語った。

・(首相の会見はぶら下がり会見で、スピーチ原稿もメモもない5分半の会見だったが、どう思うか)いつもの会見に比べても良かったという意見が多かった。目の前にいる記者に向かってしゃべっているよりも画面に向かって国民全体に訴えるような話し方をしてほしいと前から思っていたが、図らずもそうなった。

・(国民に訴えれば)やはり言葉に魂が宿るんですね。権力のトップの座にある人はどういうふうに言葉を発信すれば人に伝わるのか、対話の技術を持つべきだし、今日の会見はそれが出ていたから話題になったと思う。

 

■コロナ後は国際関係が崩壊し多極的に

 

日本人が多く犠牲になった主な事象

 

・スペイン風邪が1918~20年。日本国内で38万人が亡くなった。その5年後には関東大震災。5~10年の間に日本人の命を脅かされることが国内外で当たり前のように起きている。

・東日本大震災と新型コロナの間は10年間。その間にも熊本やスーパー台風などもちょこちょこ来ている。これまでの時代は戦後何10年と言い方をしてきているが、むしろそちらのほうが異常な言い方ではないか。

・これから人というのはコロナが収束したとしても、5~10年に1回は全体で緊張感を強いられるような、死が身近に迫ってくるような事態が、台風なのか地震なのか分からないが、想定外のことが起きると思う。災害が5年から10年ごとに起きるということによって戦後の終わりが始まったのではないか。

・コロナ後は多極化していく。国際関係はバラバラになっていく。これをめぐって戦争が起きるかもしれない。冷戦時代は米ソの2つで説明できた。多極化したと言われているけれど、これが本当に動いちゃう。流動する。流動するときは必ず力学が変わるとき。戦争という形で出てくるときもある。

・世界史的にみても転機を迎えている。移民・難民のような流動する人(下層)と商社マンやプロ野球エリート(上層)は同じ生活をしていて、激しく移動する。国境を越えて移民として動かさなければいけないし、プロ選手はどこでも食べていけるから日本国内に留まっている必要がない。激しく移動する。これが趨勢だ。

・モノは輸出入が激しくなって、EUを作って自由化に行った。お金も世界中を還流している。激しく動くこと、観光客も移動するほど良いことだと思われてきた。一環して走ってきた。それが今回急ブレーキで止まった。極端な状態。今回コロナで一気に収縮している。内向きになっている。そうなると国際関係に流動が起きる。

■戻るか戻らぬかは「慎重に見たい」

古田東大文学部准教授

放送にはもう1人、東京大学大学院人文社会系研究科文学部の古田徹也教授。新型コロナの出現による今の時代をどのように見ているか。

・慎重に見たい。これが時代を画するような変化なのかどうか。まだ見通すには時期尚早だ。見誤っておかしな方向にいかないように慎重に見る必要がある。

・まずは本質的には変わっていない部分に目を向けたい。変わっていないが、これまでずっとあった問題が出てきている。これまでより先鋭化している部分とか表だって見えてくる部分があって、そういう面を重視すると今回のパンデミックを境に世界が激変したわけではない。すべてがガラリと変わって、これまであったものが変わった。これまで軽視してきたものを1つ1つ丁寧に見直していく必要がある。

・ただ明らかにガラッと変わったものも確かにある。アスペクト転換。写真の受け取る印象が全然違う。こういう受け止めは元に戻るのか、戻らないのか。緊急事態宣言が解除されたら、これへの見方が元に戻るかどうか。元に戻らないならば大問題。社会の大変容になる。

・テレワークやリモートワークなど接近的、接触的な日常行動を契機に新しい行動様式に変わっていくのか。あるいはそうではなくなるのか。これもまだ分からない。時期尚早だ。自分の身で実験中だ。

・印鑑問題もずっとくすぶってきた問題。テレワークなどに倦んだ状態とか疲れた状態が存在するのは間違いない。倦怠感、孤独、さみしさを感じる人が恐らく多い。長時間会議は無駄だとかノミニケーションはもう古いと言われたりするが、ムダに思われていたものの取り柄みたいなものが見えてくるかもしれない。やっぱりムダになるかもしれない。まさに実験中だ。

・(先崎さん、これへの反応は?)変わるか変わらないかと同じに思うが、僕は経済の問題が非常に重要だと思っている。経済のあり方によって戻るか戻らないかが変わる。経済の原理で22度設定、25度設定にするよりも28度設定にするほうがもうかるからだ。光熱費が掛からないからだ。「震災で電気がもったいないから」という不平不満感を和らげる言葉を持っていた。みんな納得してレストランにいた。今年同じことをやったら不平不満が出るはずだ。

・経済の利益追求というのは恐ろしいものがあって、それによって変化させられるもの。つまりここでうまく入り込んだら「うまく稼げるぜ」という産業や市場を見つけた方がガッと入ってきてリモートワークをするほうが普通のような社会を作っていく。便利なツールも利用して。

・グローバル化は経済の成長主義を圧倒的に生きるための正しさにしている。東日本大震災では「生き方が問われている」とか「復興するには新しいビジョンが・・・」などと言ったが、結局元に戻って相変わらずアベノミクスに基づく経済成長に突き進んでいる。戻っている。

・戻るか変わるかは僕たちの基本にある「儲けたい」「欲望」とかが重要なポイントだと思う。

 

■無秩序化の進行

 

モイセス・ナイム『権力の終焉』から

・最近読んで面白かったモイセス・ナイム著『権力の終焉』(2015)。急激に豊かな人が増えた。格差が増えたのは先進国だけ。米国は急激な二極化で白人中間層が解体したし、日本も一億総中流と言っていた昭和の時代は終わった。

・一方で発展途上国で圧倒的に食えなかった連中が20億の単位で食えるようになってきた。豊かさが急激に社会の中に入ってきた。身近なのは中国だ。移動する時代になった。豊かになった人たちはこれまでなら知らなかった世界を見てしまった。もっと先進的な人たちはもっとおいしいものを食っている。そう思うと豊かになったにもかかわらず不満を抱き始める。政府がそれを収拾不能な状態になっている。

・以上の豊かさから人間の意識まで劇的に変わっていく中で、「大統領はものすごい権力で何でも動かせると思っているだろうが、今の社会は違って権力者が権力で動かせない時代になっている」(ブラジル)

・豊かさが出てきて、人々が意識を持ち始めると、ネットで誹謗中傷するように、権力を引きずり下ろす。人を批判をするんだけども、自分は大きな力を持っていないから代案は出せない。バラバラになっていく。

・WHO(世界保健機構)もあれだけの権力を持ちながら、あれだけの体たらくでトップが実質的に引きずり下ろされるのではないか。大きな権力は力を失っていってバラバラになっていく時代だよ。これが『権力の終焉』の意味だ。バラバラになることを「無秩序化の進行」と呼んでいる。

・独裁国家というのもまずいが、今の国家はみんなが引きずり下ろしばかりやって、巨大な災害が起きたときに収拾する、決断する人がいなくなっている。無秩序になることも怖い。注意すべし。

・コロナに対する中国のやり方はどぎついけど成果はあるよねと評価する声も確かにある。無秩序になることは反動で強烈な独裁者が出てくるかもしれない。ここはまずい。

■「民主主義」は新たな局面に入ったのか

・日本は中国とは逆。緊急事態宣言は安倍首相が出したが、ほぼお願いベース。安倍さんは「自分が思っているほど権限がない」と思っているのではないか。

 

 

・「民主主義とは何か」と問われたとき、権利・権力に対して批判する善良な人たちがいて、それが常に反対をすることが民主主義だと考え続けてきた。反権力的なこと。健全な批判精神という意味では良い面もある。

・これを絶えず持っていると主義になる。イデオロギーになる。主義になって硬直化して社会を柔軟に見る目を失う。今回のコロナウイルスで政府のやっている民主主義は捉えられない民主主義をやらされている。

・「あんた方お任せします」「1人1人ちゃんとやってくれないとこの国壊れますよ」。われわれが試されている。民主義のあり方がまるっきり変わってきた。今回は究極の自助努力を上から渡された形。お金のことは政府がやりますが、この国が持つかどうかはあなた方の行動にお任せです。民主主義の考え方が違う側面に入っているのではないか。

・最終的に責任をとって決断を下す人は不在。権力を本当に分かっている人は権力の恐ろしさと使い方を分かっている人。こういうときに出てくるのはポピュリズムのポピュリスト。実際の権力の怖さを分かっていない人が自らのカリスマ性や人を引きつける話術をある種悪用して、人々の心をまとめようとするミニカリスマのような人が拍手喝采して出てくるかもしれないですよ。

・情報に簡単にアクセスできるようになった。チェーンメールというウソの情報を不安にかられてどんどん流す。SNSの弱点は島宇宙化。ツイッターで自分に賛同してくれる10万人、20万人は多く見えるが、島の中でだけわかり合ったもの同士だけが会話をしていく。他の情報に開かれていない。嫌だったら退出したり罵倒を浴びせかける。

・多様な情報に出会っているように見えて実は自分が知りたい情報しか知られていない。閉鎖的になっている。そいう世界的な趨勢の中における日本のポピュリズムというふうに考えたい。

・(古川さんは今の先崎さんの考え方はどう思うか)

・自粛警察という言葉が出てきている。

 

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