「一体改革」とは名ばかりの消費増税

安倍晋三元総理(BS朝日「激論!クロスファイア」)

 

民主、自民、公明3党は6月15日、社会保障と税の一体改革関連法案をめぐる修正で合意した。危惧した通りの結果だった。税制面で消費増税(2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げ)は決めたが、社会保障制度改革では公的年金制度と高齢者医療制度は先送りした。

民主党は今年1月6日に正式決定した一体改革素案で、「議員定数削減や公務員総人件費削減など自ら身を切る改革を実施した上で、税制抜本改革による消費税引き上げを実施すべきである」と強調したが、公務員制度改革関連法案こそ6月1日に審議入りしたものの、定数削減は議論が続いている。それも衆院比例代表に連用制を一部導入するという誰も理解できないテクニカルな話ばかりだ。

「一体改革」にならないことがはっきり分かっていながら、消費増税法案を「政治生命を懸けている」(野田佳彦首相、6月11日衆院社会保障と税の一体改革特別委員会)のは理解に苦しむ。

民主党が09年衆院選マニフェスト(政権公約)に消費増税を明記していなかったことに関しては、「国民にきちんと説明せず、今日に至ったことはおわびしないといけない」(同特別委)と陳謝したが、やはりそう簡単に謝ってもらっては困る。マニフェストを信じた国民が民主党政権を選択したのだから、どう考えても、総選挙の洗礼をきちんと受けてから法案を出すべきだ。手順が逆だ。謝って済む問題ではない。

これでは「初めに増税ありき」で、一体改革でも何でもない。一体改革の名を借りた国民への背信行為としか思えない。小沢一郎元民主党代表は21日、自らのグループ会合などで、「大増税だけが先行するやり方は国民への背信行為であり、裏切り行為であり、我々の主張が正義、大義だと確信している」(日経21日付夕刊)と増税先行の消費増税関連法への反対の意思を鮮明にした。

小沢氏は「日本はデフレと不景気に苦しんでいる。不景気で大増税という話は聞いたことがない」(同)とも述べており、この点はBS朝日に出演した安倍晋三元総理も同じ考えを示した。増税は税収を増やすために行うはずなのに、デフレ下で増税しても、増収目的を達成できない。経済成長を実現できて初めて増収も実現できるのではないか。

ただ、現状をデフレではないとの認識に立てば、増税しても問題にならないと解釈することも可能かもしれない。現に民主党の藤井裕久税制調査会会長は「デフレは物価がスパイラル的に下落する現象だ。現状はデフレとは思わない」(4月26日、ロイター通信とのインタビュー)との認識を示した。元財務相で、増税の理論的支柱だ。

日経新聞は「消費増税3党合意」を報じた6月16日付朝刊で、小竹洋之編集委員の解説を掲載し、「必要な社会保障改革の多くを棚上げにした」としながらも、今回の合意を評価した。一体改革ではないにもかかわらず、見出しは「一体改革 修正協議が決着」。「一体改革」になっていないのならば、見出しでもそううたうべきではない。日本の大手メディアは実体より、表面重視だ。読者を惑わせるものだ。

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