「亀も空を飛ぶ」

荒れ果てた大地に明日の世界を見た少年少女がいる。
2003年3月、米軍によるイラク侵攻が開始され、国境の小さな村に運命のときが訪れる。
イラク・クルディスタンを舞台とした21世紀の叙事詩。

試写会で「亀も空を飛ぶ」(2004年製作、バフマン・ゴバディ監督作品)を観た。ゴバディ監督 はイランのクルド人。その彼がイラク北部のクルド人の村でつぶさに見た実情をリアリズムと  幻想を交えた手法で描いた。デビュー作は「酔っ払った馬の時間」(2000年)、ほかに「わが故郷の歌」(2002年)。9月19日(土)より岩波ホールで公開予定。

こどもたちが主人公だ。戦争で荒廃したクルド地方で、地雷を掘り起こし、そのわずかな現   金収入でたくましく生きる少年少女たち。そのこどもたちを束ねる利発な孤児の少年サテライ ト(ソラン・エブラヒム)が寄せる、別の部落から来た盲目の赤ん坊を連れた難民の少女アグリ ン(アワズ・ラティフ)への慕情。かたくなに心を閉ざすアグリンには両腕のない兄ヘンゴウ(ヒ ラシュ・ファシル・ラーマン)がいた。

真っ先に戦争の犠牲者になるのはいつもこども。悲惨な現実を背負いながら、それでもたくま しく生きていくこどもがいる一方 その絶望的な重みに耐えられず、生きることをやめざるを得 ないアグリンのようなこどももいる。こどもたちの心の傷は深く、重い。

風変わりで印象的なタイトルについて、ゴバディ監督は以下のように答えている。

「タイトルはいつも印象的なものを心がけています。しかしその意味を説明するのはむずかし い。皆さんに感じ取ってもらいたいと思います。あえてお答えすれば、亀は自分の甲羅を脱ぐことはできません。クルディスタンに暮らす人々もまた、自分の宿命を背負いながら生きています。戦乱の続くこの土地で多くの人々は家財道具を背負いながら、幾つもの山を越え、移動を繰り返してきました。この映画では、自分の子供をいつも背負っているアグリンが登場します。ヘンゴウもまた、両腕がないという宿命を背負って生きています。実際、彼の泳ぐ姿は亀のそれと似ています。彼らを救うのは、アグリンのように空を飛んでしまうことなのかもしれません」(配給元の「オフィスサンマルサン」のHPインタビュー)

2004年サンセバスチャン国際映画祭グランプリ
第5回東京フィルメックス審査員特別賞、アニエスベー観客賞
2004シカゴ国際映画際審査員特別賞
2004サンパウロ国際映画祭観客賞
2005ロッテルダム国際映画祭観客賞
2005ベルリン国際映画祭平和映画賞
 

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

東京日誌

Previous article

「柿の葉すし」