曽根圭介「沈底魚」

 第53回江戸川乱歩賞受賞作「沈底魚」(講談社)を読んだ。「大学時代、『ありきたりな人生は嫌だな』と考えた。やりたいことは思いつかなかったので、とりあえず身を持ち崩して退路を断つことにした。じつは安定志向が強いため、いったん就職してしまえば定年まで勤めてしまうだろうと思ったからだ」(受賞の言葉)。

 大学中退→傾きかけたサウナ店員→地下の薄暗い漫画喫茶→フリーターを繰り返しながら、公園であんパンと水だけの食事をしながら、「順調に人生の階段を下っているな」と感慨に耽った」(同)。「いつの間にか、身を持ち崩すことが人生の目的と化している」ことに気付いて、作家を目指した、という風変わりな物書き。1967年生まれだから40歳。

 いろんな人生がある。意識的に身を持ち崩すというのも楽ではないだろう。著者がなぜ公安警察の世界を題材に選んだのか知らないが、現場刑事の人物像はよく描かれているし、組織防衛第一の論理は仕事柄必要なのだろう。それにしても、いくら仕事とは言え、組織絶対の世界に身を置く人間の心理は理解できない。仕事を支えるのは国家防衛の使命感なのか。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.