サイバーテロ時代
イラク治安軍(国家軍・警察)の治安維持能力には大きな疑問があるだけに、米軍の計画通り、撤退を完了できると考えるのはあまりにも楽観的ではないか。イラク駐留米軍の一部をアフガンに投入するシナリオが予定のように進むとは思えない。戦闘は始めるときよりも、撤退するときのほうが難しいというのは昔からよく言われていることだ。
敵を完膚なきまでに打倒し、完全勝利したのちに撤退するのならばともかく、そうでない場合の過酷さは容易に想像できる。ましてや、相手は死ぬことを恐れないのである。自爆テロほど、強力な兵器はあるまい。核兵器を使えない通常戦争ではどう考えても、米軍にとって不利だ。
戦争の内容も変質している。人間対人間の戦いから、人間対IT兵器の戦いになってきたのだ。アフガンで実行されている国際テロ組織アルカイダに対する空爆は無人飛行機によるものだ。飛行機を操縦するのは米本土の空軍基地にいるパイロットである。アフガンの荒涼とした高地を前傾姿勢で自走ロボットが疾駆するのは時間の問題だ。
戦いのステージは陸上や海上、空中から、最近はウエブの世界にも拡大した。サイバーテロがそれだ。米国防総省などへのサイバーテロは日常的に繰り返されている。国家レベルの戦闘を横目に、戦線は個人レベルにも広がってきた。身近なブログへの攻撃も常態化している。
故なき誹謗中傷による個人攻撃、スパムメールによるトラックバック攻撃がそれだ。しかも、攻撃してくる敵は匿名性の影に隠れる卑怯者だ。攻撃を受けた者は人格を否定された挙句、自らサイトを閉じることを検討せざるを得ない。世に言う「炎上」である。
個人が情報発信機能を獲得したことはすばらしい。しかし、いったん発信した以上、それへの責任も出てくるのは当然だ。もちろん、自分の書いたことに関する責任は甘受するにしても、根拠なき攻撃に対する反撃手段がないのはどう考えても理不尽だ。せいぜい警視庁ハイテク犯罪対策総合センターに訴える程度だ。
1億総情報発信者時代にどう対応するか。人格攻撃にいかに反撃するか。世の中にはさまざまな人間がいる。多様性は善である。昔ならば、変質者は無視するのが最良の対策だった。しかし、今はどうも違うようである。きちんと反撃しない限り、攻撃は続く。大変な時代である。