国立感染症研究所

 

 

新型インフルエンザ対策で一躍脚光を浴びた国立感染症研究所(東京都新宿区戸山1-23-1)。何が怖いといっても、知らない間にうつる感染症ほど怖いものはない。バタバタと人が倒れ死んだ中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)や天然痘、第一次大戦下のスペイン風邪、10年ほど前に猛威を振るったSARS騒ぎはまだ記憶に新しい。

SARS(Severe Acute Respiratory Syndorome)=重症急性呼吸器症候群)はSARSウイルス(新コロナウイルス)によって引き起こされる新種の感染症。肺炎に似た症状を呈するので、新型肺炎とも呼ばれる。

2002年11月、中国広東省で発症者が出、03年7月の終息宣言が出るまで騒動が続いた。世界の感染者数は8069人、775人が死亡。日本では台湾からの渡航者による感染騒動が起きたものの、幸い感染者も死者も出なかった。

現在、最も破滅的な世界的流行病(パンデミック)となっている感染症はエイズ/HIV。「エイズ発見から既に4半世紀以上の歳月が流れ、世界的にみると、HIVの流行の状況に格段の変化はないものの、2007年現在のHIV陽性者は推定3300万人。毎日6500人(年間237万人)が新しく感染している」(山本直樹エイズ研究センター長)。

エイズ治療薬の開発成功により、エイズは「死の病」から「慢性で不死の病」となったが、根治は期待できないという。エイズワクチンもまだ開発できていない。子宮頸がんも日本国内で年間1万5000人が発症し、約2500人が死亡している感染症。こちらは特定の型にしか有効ではないものの、ワクチンも開発されている。

最新の感染症は今や国民的関心事の新型インフルエンザ。何せ相手はウイルスである。注意していても、向こうから近づいてくるから容易ならない。敵の姿は見えないだけに、恐怖である。過剰心配症候群と楽観視症候群の間で揺れ動くのが常だ。

「私たちはなぜ、感染症に遭遇すると、パニックに陥るのか。それは相手のことがよく分からなかったからであり、また自分が対応するすべを持っていなかったため。相手をよく知ること、敵に対峙する方法を持つことこそ、最大の力」(山本エイズ研究センター長)のようだ。

敵を知るため、この日行われた感染研の一般公開に出掛け、「新型インフルエンザの現状と将来への備え」と銘打った一般向け講演会を聴いた。新型インフルエンザは人間にとっては新しいが、トリの世界ではこれまでもあって、それがヒトにうつるのは時間の問題だったという。

感染研ではXデーに備えて体制を整備し、アクションプランを策定したが、それを終えたのは日本で感染が確認される直前だったという。感染症研究者らの事前の備えが功を奏したようだ。一般人はそのあたりがよく分からないが、何事も水面下で多大な努力が払われていることを知るべしである。

それにしても、「インフルエンザは日本以外の国では家で我慢する程度の病気」。日本人はインフルエンザでも、血相を変えて、病院に駆け込む人種だ。それだけ、病気に対して神経質になっていて、それは非難されるべき筋合いでもない。

しかし、病院で治療を受けることを当然視しているのは日本くらいなのかもしれない。病院に行きたくても、行けない国も多い。国民皆保険制度を持たない米国では3日も入院すれば、数百万円掛かるという。何かあれば病院に行ける日本人は幸せにちがいない。

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