『リヴィエラを撃て』

書名:リヴィエラを撃て
著者:高村薫
出版社:新潮社(1992年10月20日発行)

 読み終えてから1カ月経ってしまった。とにかく大長編ミステリーである。上下2段びっしりと活字が詰まった547ページ。読みやすいとはおせいじにも言えないゴツゴツした文体が延々と続く。しかも、取っ付きが極めて悪い。読み続けるのが結構辛いのだ。

 それなのに、読み続けることを強要するような文体なのだ。本作品は作家の初期の作品だが、その後発表された作品も決して読みやすくはない。最初に読んだのは確か『照柿』(1994年7月、講談社)だった。合田雄一郎刑事シリーズ。ついで読んだ『李歐』(1992年2月、講談社文庫)は桜守の話だった。『レディ・ジョーカー』(1997年12月、毎日新聞社)は誘拐犯を扱った事件小説。合田雄一郎刑事シリーズで、映画にもなった。

 『リヴィエラを撃て』はテロリストのブルースだ。血で血を洗う北アイルランドの港湾都市ベルファストに生まれ、ロンドン東部イーストエンドのテームズ川とそこに注ぐ運河がたくさん走っている工場地帯で青春時代を過ごしたジャック・モーガンが主人公だ。

 アイルランド共和軍(IRA)のテロリストの息子として生まれ、時代の中で、確信的にテロリストに育っていく宿命的な彼の人生。ジャックと彼の愛した幼馴染の中国系アイルランド人女性リーアンは東京で暗殺される。2人を殺害したのはCIAか。

 登場してくるのはテロリストと日英警察、それに英情報機関のMI5とMI6と米CIA。当時の世界情勢、とりわけ、中国を絡めた国際情勢を色濃く映し出した作品だ。高村薫がなぜ、北アイルランドを小説の舞台に選んだのか分からないが、読み終えた感想からすれば、これは国際スパイ・テロ小説ではもちろんなく、心理小説とでもいうべき作品なのだろう。再読が必要だ。

 ちょうど、この作品が書かれた当時のベルファストには英国からフェリーで渡ったことがある。市内の至る所に装甲車が走り回っていた。市内中央部につながる要所には土嚢を積んだ検問所が設けてあったことを思い出す。(2010.3.13記)

 

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