春季投資セミナー

 証券知識普及プロジェクト(東証、大証など証券関係団体による証券知識の普及・啓発事業)主催の「春季投資セミナー」が東京国際フォーラムのホールB7で開催された。ベストセラーになった『国家の品格』の著者、藤原正彦お茶の水女子大学名誉教授の「日本のこれから」と題した講演と川村雄介長崎大学経済学部教授と佐藤まり江キャスターによる対談の2本立て。

 藤原氏の言いたいことは極めて単純かつ明快である。「改革、改革で、日本の国柄(くにがら)は完全に壊されてしまった。日本が世界に誇った初等教育、医療制度、終身雇用を柱とした日本型資本主義、美しい情緒と見事な美的感受性をあっというまに失った。その結果が今の日本を覆う惨憺たる現状だ。これらを取り戻さなければならない」。

 「日本は断トツに世界で一位でなければやっていけない国だ。脳みそで戦うしか生きる道のない国だ。日本は普通の国になってはならない。絶対の国にならなければならない」のに、うまく騙され、自信を失い、萎縮し、今や世界の成長からも置いてきぼりを食っている、と藤原氏は手厳しい。

 こんな惨状を招いたのは誰のせいでもない。ほかならぬわれわれ日本人自身だ。そう考えたほうがよいのではないか。悪賢い強欲金融資本主義者らのデマゴーグにうまく乗せられ、額に汗して貯めた虎の子も今や米財務省証券に塩漬けされ、苦しみ泣いているのは資金を貸した日本人の側である。そして、騙されるほうが悪い。

 これからの日本を待ち受けているのは膨大な金融資産に保証された豊かな老後ではなく、1000兆円にも上る大借金に締め上げられ、金融資産が掠め取られたことで「円大暴落」に見舞われる可能性を秘めた暗澹たる老後かもしれない。最悪のシナリオが日一日と現実味を帯びてくると考えるのは恐ろしい。

 日本人の国柄はまだ根絶やしになったわけではない。今からでも遅くはない。たとえ遅くても、何もしないよりましである。座して死を待つよりは、である。藤原正彦氏とは3年前、講演会のアテンドで伊丹空港から淡路島まで同行し、タクシーで往復する間、たっぷり2人で話をしたことを思い出す。藤原節はこの日も健在だった。

 一方、主催者側にとってセミナーのメーンは「バランスのとれた資産形成の実現と金融リテラシーを考える」と銘打った対談。藤原正彦氏の講演を聴いた耳には、投資は、欲に目の眩んだ不純な動機に基づいた金亡者のやることと考えたい気分になるが、「国柄」を取り戻すためには戦費の調達が必要である。

 放っておけば、尻の毛まで引っ剥がされかねない。自己防衛が必要なのである。超低金利が続く時代にあっては自分の身を守るためにも投資は不可欠である。「投資は儲けることではない。自分で自分を守るためには投資することが必要である。これが現実だ」(川村雄介氏)。

 つまり、投資で一定程度の収入を確保できなければ、生活水準を維持できないのが目に見えている。この現実をそのまま受け入れるかどうかだ。水準がどんどん落ちていくのを潔く甘受するも良し、敢然と立ち向うのも良しである。さて、どうするか。

 川村氏によれば、60歳定年で、支給される年金の平均月額は24万円(年額288万円)。ほどほどの生活をするために必要と目されるのは同38万円(同456万円、家賃&住宅ローン含まず)。差額は月額14万円(同168万円)。ちょっと多めに見て年額で180万円足りない。

 80歳まで生きるとすれば、それの20年間分=3600万円ほど足りない。安心できる生活を送るためには1億円は必要らしい。とにかく、この不足分を何とか工面・捻出しなければならない。となれば、「投資」を考えざるを得ないのである。

 それにしても、「投資」はそんな片手間でできるものではあるまい。サラリーマンが最低でも1日8時間勤務するように、老後、「投資」に励む場合でも、この程度の時間をしっかり投入して勉強しなければ、稼げないのが当然だ。へたをすると、元本が目減りするのだ。半端な取り組みでは到底、収益など上げられないことだけは確実のようである。

 投資に対する川村氏の発言を逐条的にメモしておきたい。是非論はともかく、これも1つの見方だろう。

・投資は漠然とするのではなく、目標を定めてやるべし。資本(キャピタル)を増やすのか、収益(リターン)を狙うのか。人生はお金そのもの。中国人は「金に向って走れ」をスローガンに生きている。
・投資は長い目で見ること、計画的にやることが重要だ。
・ハッピーになるためには愛より金が勝つ。財力に勝る愛はない。収入がゼロになると、愛という虚像は剥げる。
・リスク性のある商品を運用しないと、1億円にはならない。
・自分にとって蓄財とは何かをしっかり考えること。キャッシュを定期的に取りたいのか、元本を増やしたいのか。
・金融リテラシーを身に付けるためには習慣付け、楽しむこと、目標設定、長続きすること、分かりやすいこと、できればグループですることなどが効果的だ。

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