国家意識を覚醒させた中国の恫喝外交


(菅首相と温家宝中国首相、10月9日BS朝日『激論!クロスファイア』)

 それにしても最近の中国の見境を失った恫喝・傲慢・自己中心的外交にはあきれて物が言えない。尖閣諸島の領有権をあくまで主張し、レアアース(希土類)の輸出を事実上止め、フジタ社員4人を拘束。国内各地の「反日デモ」を容認し、ハノイ市内で予定していた菅直人首相と温家宝首相との会談も一時、一方的に拒否した。

 日本は尖閣諸島付近で海上保安庁の巡視船に衝突してきた中国漁船の船長を、中国の圧力に屈したと思われても仕方のないタイミングで釈放し、「戦略的互恵関係」を念仏のように唱え、物分りの良さを示すだけ。右の頬を殴られて、殴り返さずに左の頬を突き出すようなものだ。涙が出るくらい美しい対応ではないか。

 日本の大手メディアも中国各地で起こった「反日デモ」については大報道するものの、日本国内で行われた「反中デモ」については最初は無視し、2回目でやっと報道した。しかし、扱いは地味だ。中国国内における「反日感情」については詳しく伝えても、日本国内での「反中感情」については沈黙したままだ。

 恐らく、日本の街の声を拾えば、「反中感情」に満ちているだろう。中国側の対日強硬姿勢に怒らない日本人がいるとは思えない。世間話的には「反中感情」が渦巻いているはずだ。日本のメディアがあえて目を背けているだけだ。過剰な対中配慮、自主規制を行っているだけだ。

 日本国民が中国国民と同じレベルでけんかするのは望ましくないのは分からないではないが、これは国と国とのけんかである。それを外交と呼ぶ。大人しくしていれば、むしろ相手の増長を促すだけで、実際、中国はその後、嵩にかかって対日強硬姿勢を貫いている。

 「こどものけんか」はしなくてもいいが、「大人のけんか」はどんどんやるべきである。今回の日中衝突で日本のけんかべたが露呈した。日ごろ、けんかはおろか、切羽詰った状況に置かれたこともなく、それゆえに、敵にせよ、味方にせよ、相手のことをろくに見てもいないから、いざとなれば茫然自失、なすすべを知らない。

 木村汎北海道大学名誉教授はあるコラムで、「ロシア国境警備隊は2006年8月、日露間の中間ラインを侵犯したとして日本漁船に銃撃を加え、船員1人を死亡させ、船長をサハリンへ連行した。同船長はロシアの裁判所でロシアの法律にもとづいて裁かれた。船舶は没収処分に遭い、船長は罰金を支払い、1カ月後に釈放された。

 この時、日本政府はロシア側に対して形だけの抗議を行ったにすぎなかった。ロシア側は、北方4島およびその周辺の海域を実効支配しているのはロシアであり、裁判権をもつ、すなわちロシアの国家主権が及ぶーこのことを全世界に向けて、周知徹底させようともくろんだのである」と書いている。

 これが日露関係の現実だ。今回、日中関係の現実が明らかになった。26日付の朝日および読売新聞朝刊によると、24日に中国陝西省宝鶏で起きた中国デモでは、「反日」のスローガンに混じって「(官僚の)腐敗反対」や「住宅価格高騰に抗議」するなど政府批判を示す横断幕が掲げられたという。

 両紙は、中国のデモは、「反日」を看板にしながら、政府に対して不満や苛立ちをぶつける隠れ蓑に使われていると解説している。中国政府が一番恐れるのは、政府批判の爆発だ。その背後にあるのは経済格差の拡大や就職難、高級官僚を中心とした汚職体質などだという。中国人の中にはどうやら、ものすごい不満エネルギーが溜まっており、政府のデモ容認はガス抜きでもあるという。

 中国指導部が対日強攻策に出るのは政府批判を交わすための方策という見方は恐らく当たっているだろう。しかし、それは中国側の事情である。日本側には日本側の事情があるはずだ。国際ルールを捻じ曲げて自国の事情を正当性しようとする中国政府に対しては毅然とした対応をとるべきである。

 尖閣諸島や竹島、北方4島の存在を深く意識したこともなく、海で隔離された地理的状況から国境の意識も乏しいのが戦後日本人の現実だ。国家主権をこれほど明確に侵害されたことも初体験に等しい。「グローバル」や「ボーダーレス」という言葉を日常的に使いながら、国家主権や国境をどれだけ意識してきたのだろうか。国益を意識することが何と乏しかったことか。改めて愕然とするばかりである。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.