リスク化する菅首相

 久しぶりに土曜日午前の政治討論番組をはしごした。どちらもテーマは菅直人民主党政権に対する倒閣運動。未曾有の国難に直面しているこの時期に倒閣ではないだろうと普通は思うが、倒閣に動いている政治家は、どう思われようと、菅首相を辞任に追い込むという一点で一致しているようだ。

 

 谷垣禎一自民党総裁と一緒にBS朝日の番組に出演した山口那津男公明党代表は「信無くば立たずですよ。菅さんに対する信が揺らいでいる」と言明した。自民党の大島理森副総裁はこれまでも大連立参加拒否の最大の理由について、菅首相に対する不信であると何度も明言していたのを覚えている。

 民主党の中では小沢一郎元代表に近い勢力の中で菅批判が強かったが、最近では主流派の中にまで菅離れが広がっているようだ。菅首相と一緒に仕事をした人たちが次から次へと離反している。野党が与党を批判するのはまだしも、与党内でも菅離れが広がっているのは尋常ではない。なぜなのか。

 最大の問題は菅首相のリーダーとしての資質かもしれない。原発対応などを見ているとどうも安心できないのだ。信頼性にも欠けるのだ。そういうふうに思い出すと、彼の言動に対する不信感が一気に膨らんでくるのだ。

 直近の例で言えば、ド―ビル・サミットで、1000万戸の家の屋根に太陽光パネルを設置する構想を表明したが、海江田万里経済産業相は27日夕の会見で、「聞いていません」と発言。担当大臣との調整もなく、実現の裏付けのない発言をすれば、信頼性を失うばかりだ。

 首相は総発電量に占める再生可能エネルギーの比率についても、現行計画の2030年から、「20年代のできるだけ早い時期」へ前倒しする考えを示したが、海江田経産相はこれについても、「そこに向けて技術革新を行いたいということだ」とし、前倒しが主眼でない認識を示したという。2人の間に何があったのか。

 26日夕、帰宅途中の駅売店で、夕刊フジのトップ記事のどぎつい見出しが目に飛び込んできた。「菅が手柄横取り 浜岡原発停止の真相」。日本BS放送報道局長、鈴木哲夫氏の署名記事で、5月6日の浜岡原発停止を要請する緊急記者会見は、元々海江田経産相や経産省が3月末から中部電力側とずっと交渉し、準備を整えたものを首相が横からかっさらったものだという。

 鈴木氏の指摘を確認する別の報道は知らないが、首相の横取り説については1週間ほど前の時点で、事情通から話を聞いていたので驚かなかった。国内大手メディアでは朝日新聞が菅政権に同情的なスタンスを取っているものの、他紙は総じて批判的で日を追うごとに政権の求心力は失われてきているようだ。

 深刻なのは国際的にも日本に対する視線が厳しくなってきていることだ。世界はむしろ日本人以上に、「フクシマ」を危機的に捉え、日本政府の一貫性を欠く情報管理の杜撰さにあきれているように思える。今やフクシマの危機は日本だけの危機ではなく、世界全体の危機として共有されることになった。

 日本政府がお粗末な対応を取れば、それは国益を損なう以外の何物でもない。しかも菅首相は、サミットで「最大限の透明性をもってすべての情報を国際社会に提供する」と公約した。国内のみならず、国際的な批判にも耐えられる政策運営を求められる。

 国内の国民と国外からの信頼を失った国家はもはや漂流するしかない。国民はそうした政府を選んだ自らの浅慮を嘆いても遅い。そうなる前に行動を起こすしかない。週明けから菅内閣に対する不信任決議案をめぐる攻防が本格化する情勢だ。

 政治の混乱・停滞は決して望ましいことではないが、もうそういった状況は越えているようだ。熟議が成立しない日本の政治にはほとほと愛想が尽きるが、それが日本の今の現実なのだろう。事態は深刻だ。

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