「国を出でよ」


       (改修工事中の日比谷図書館の屋上に太陽電池)

 1970-80年代にロンドンで新聞・テレビ・通信社の特派員生活を送った仲間が集まって当時を懐古し、近況を報告し、将来の健康を祈り合うフリート会が奇しくも東日本大震災3カ月目の11日昼、日本プレスセンタービルで開かれた。

 後期高齢者や前期高齢者、さらには待機組も含め、参加者の高齢化を止めるすべはないものの、さすが時代の流れを読むことを仕事にしてきた人たちばかりの集まりなので、そんじょそこらの”老人会”とは違って、時勢への着眼・視点・視座には含蓄が多く、刺激的だった。彼らは人生を楽しむことの達人でもある。

 人間は触発されることが重要だ。自分がたった一人で全く独創的なことを考え出すことは普通ない。やはり、何かについて見聞きしたり、会話をしたり、体験したりする中で、いたく感心したり、強い刺激や印象を受けたり、自分の駄目さ加減に自己嫌悪に陥ったり、自己再生を誓ったり、発奮したりするものだ。

 人生の一時期を海外で暮らすことの意味の1つは外からの視点を常に意識する習慣を持つようになることのように思う。もちろん、自分の視点は重要だが、そういう自分に対する他者からの視点も意識できれば、より自分を客観視できる。人間が社会的存在である以上、外からの視点は必要だ。グローバル化が進む現代ではその重要性は増すばかりだ。

 3.11大震災との関連で何人かの参加者が語ったところによると、外国から日本の友人に寄せられた共通のメッセージは「国を出でよ」だった。海外の眼からは日本がそれほど危険な状態に陥っているように見えているのだろう。一部客観性を欠いた報道のせいとばかりは言えないのではないか。

 日本を見る海外のまなざしは厳しいことを忘れてはならない。日本の原発事故が世界経済の足を引っ張っているとの認識が原発推進を明確な政策目標に掲げている米国、フランス、中国など原発推進国には強い。世界経済を撹乱する日本の危機への苛立ちは強いはずだ。

 宮尾尊弘筑波大学名誉教授は「日本では震災の復興が思うように進まず、原発事故もなかなか収束せず、景気も株価も低迷し続けており、政治は混迷の極に達しているようにみえる。外から見ると、日本は大震災をきっかけに急速に自滅の道をたどっているのではないかと思われるほどである」(時事通信社コメントライナー、6月10日付)と指摘した。

 日本記者クラブ9階の宴会場から外を見ると、目前に日比谷図書館、その背後には日比谷公園の鬱蒼とした緑が広がっていた。2009年4月から長期休館中の「旧都立日比谷図書館」は「千代田区立図書館」として生まれ変わるべく改修工事中だ。

 屋上の見慣れない構造物は「フェンスタイプ採光型両面太陽電池モジュール」。施工した矢木コーポレーションのHPによれば、モジュール枚数は90枚で、20KW。外観は何も変わっていないのに、なぜ休館がこんなに長いのか。利用者無視のお役所仕事だと思っていたが、工事中にアスベストが見つかったためだという。この図書館をこやなく愛した1人としてはとにかく早く開館したもらいたい。

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