財政「ワニの口」論

竹中平蔵慶大教授(BS朝日)

 

竹中平蔵慶大教授(小泉政権の経済財政政策担当相)は田原総一朗氏が好んで使う経済エコノミスト。12日のBS朝日『激論!クロスファイア』に登場し、TTPや復興増税、消費税引き上げ問題について持論を展開した。保守勢力からは売国奴呼ばわりされる氏だが、主張は明快で、うなづける点が多い。

彼は財政の「ワニの口」論をいろんなところで展開しており、この日の番組でも歳出の伸び(ワニの上あごの傾き)と歳入の伸び(ワニの下あごの傾き)の差をワニの口にたとえ、歳出の伸びが歳入の伸びより大きいならば、いくら増税しても財政赤字(上あごと下あごの差)は拡大を続けると携帯電話を使いながら指摘した。小泉政権時代の2003-07年には財政赤字が28兆円から6兆円まで縮小したものの、政権交代で元の木阿弥。ワニの口が開いたままだという。

野田政権は先に復興増税に決めたが、第2弾として消費税増税(当面5%→10%)を準備、年明け1月の通常国会の法案提出に向けて突き進んでいる。増税分(国税は約10兆円)は社会保障財源に振り向ける方針だ。復興増税+消費増税のダブルパンチで経済は一段と落ち込み、ワニの下あごがさらに落ち込む一方、高齢化の進行で上あごはもっと上がり、とても5%程度の引き上げでは追い付かない。結局、もっともっと(さらなる増税)が必要になると予想する。

竹中氏は「増税した瞬間が一番危ない。増税してもダメなんだということが分かるからだ」と指摘する。彼の持論は増税ではなく、経済成長による税収増を目指すべきだというもので、大震災直後のこの時期に景気を下押しする復興増税(10兆円)を断行するのは愚の骨頂だと厳しい。「関東大震災や阪神大震災直後も増税しなかった。世界でもほとんど例がない」とし、復興増税も根本的な間違いと強調する。

消費増税で絵に描いたような失敗を演じたのが橋本政権。橋本内閣は1997年に消費税を3%から5%に引き上げたが、バブル不況から脱出しつつあった日本経済は再び沈没し、大痛手を被った。財政再建も当然破綻した。しかも、今の日本経済はデフレに加え、世界同時不況、円高の大暴風下だ。

財務省にとっては、国民が反対しにくい東日本大震災に伴う復興増税は千載一遇の機会と思っているのだろう。この機会を逃してはもう2度と増税のチャンスは訪れないと腹を固めているのだろう。税を徴収する側からすれば、そうだろう。しかし、増税した結果、景気が一段と落ち込んでも、官僚は責任を取らない。「デフレが21年も続いていても、財務省や日銀の誰も責任をとっていない」(竹中氏)。

増税した結果、経済が良くなるのならまだしも、逆に悪化したならば、国民は泣きっ面に小便だ。しかも、その可能性は大きい。官僚は責任を取らない。東京電力福島第一原子力発電所事故への対応で事実上更迭された経済産業省3トップ(松永和夫経産次官、寺坂信昭原子力安全・保安院長、細野哲弘資源エネルギー省長官)の退職金は規定通り6000万~8000万円が支払われた。官僚はかくのごとく責任をとらない。政治家しかりだ。

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