『ニッポンの嘘』

ちょっとデカダンな雰囲気が漂う世界

 

作品:『ニッポンの嘘』報道写真家福島菊次郎90歳
監督:長谷川三郎
朗読:大杉蓮
鑑賞館:銀座シネパトス

 

写真を撮るためには現場に行かなければならないし、被写体に少しでも近づかなければならないのは当たり前のことだ。とりわけ報道カメラマンはそうだ。昔、成田闘争を記者として取材したとき、カメラマンと一緒に仕事をした。そして彼らがいつも、対象に少しでも迫ろうとする習性があるのを知った。機動隊とデモ隊が衝突を繰り返す最前線に常に近づこうとするのだ。迫力のある写真は望遠レンズの中からは生まれない。

少しでもいい写真を撮ろうとするカメラマン魂を見た思いだった。仕事への真摯な姿勢を尊敬した。カメラに比べ、ペンは臆病だ。カメラマンに刺激されて、自分も前に出ようとするが、悲しいかな、腰が引けていた。

福島菊次郎氏は戦後66年間、現場の最前線でシャッターを切り続けてきた伝説の報道写真家。ピカドン、三里塚闘争、安保、東大安田講堂、水俣、ウーマンリブ、祝島-。レンズを向けてきたのは激動の戦後・日本だ。

福島菊次郎は非日常の過酷で危険な現場を選び、反国家・反体制・反権力闘争をレンズで切り取ってきた反骨の写真家。「問題自体が法を犯したものであれば、報道カメラマンは法を犯してもかまわない」と言い切るアナーキスト。普通の人間はそこまで言えない。ものすごい迫力だ。

福島菊次郎が法を犯してまで暴こうとした「ニッポンの嘘」とは何か。ウソをついてまでレンズで写そうとしたニッポンとは何か。国家や権力はウソをつく。ウソをつかなければ統治できない。これは厳然とした真理だ。それは日本に限らない。

ニッポンは今もウソだらけ。ウソを許しながら、それでも生きているのが普通の日本人だ。それを絶対に許せないと考える人間がいることを知っておくのも悪いことではない。

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