『しあわせ中国:盛世2013年』

通訳は翻訳者の舘野雅子氏(左側)

 

会見者:中国人作家・陳冠中(ちん・かんちゅう)
著書:『しあわせ中国:盛世2013年』(2009年香港で出版)
出版社:新潮社(2012年10月30日発行)

 

●1952年中国上海生まれ。4歳で香港に転居。40歳までほぼ香港に住んだ。基本的に香港人だ。1971年に香港大学に入学し、極左2派のうちより少数の反毛沢東に所属。必死に中国の政治を勉強し、中国のことをよく理解していると思い込んでいた。その後北京に滞在したり、ボストン大に留学したり、台湾に住んだりしたが、中国の変動を経験しながら著作を書きたかったので2000年から北京に在住。様々なスタイルの小説を書こうとしたが、書いた中国が本当に正しいか確信が持てなかった。これが08年まで続いた。

●08年にはチベット動乱、四川大震災、北京五輪、世界経済危機など大きなことが相次いで起こった。中国人の形態に大きな変化が起こったと思う。中国人知識人の考え方もみんな異なっており、完全に正しい考え方というものはなかった。そうだから、自分の考えで中国のことを書いてもいいのではないかと思った。それで香港で出版し、その後中国でも出した。しかし、中国では発禁処分を受けた。

●中国の歴史で「盛世」が使われた最後の時代は清朝初期。康煕帝(こうきてい、1662-1722)、雍正帝(ようせいてい、1723-1735)、乾隆帝(けんりゅうてい、1736-1795)の3代約130年は平和で繁栄した太平の世だった。09年に郵政局の向かい側に扁額がかかっていて「盛世」と書かれていた。こういう言葉で中国を形容するのはそれまで見たことがなかった。日清戦争(1994-95)以降、中国人は自国が「盛世」になると感じたことはなかったのではないか。しかし、08年以降、「盛世」を使う場面が多くなっている。伝統的には単に「リッチ」ではなく、文武両道においてすばらしいという概念だ。

●そうした「盛世」の時代が08年から今年まで続いている。中国の新しい常態になっている。外国も国内もこれが新しい中国で、中期的にこれが継続していくと確信している。経済の変動はあるにしても、中国の勢いは誰にも止められない。

●中国の政治に自由は無い。他国の批判は受け入れないだろう。西側体制には学ばないスタイルを取り、それが常態化する。

●今の中国人には現状への不満や批判もあり、幸福度は高くないという統計もあるが、私の感じでは中南米などに比べると低いものの、それでも多くの中国人は希望を持って暮らしている。具体的なものがあるわけではなく、自分の境遇が「今日よりも明日の方が良くなる」という期待だ。

●中国の映画産業は今、黄金時代だ。米国に次ぎ世界第2位だ。10年、15年は盛世が続く。それ以上長くなるかどうかは分からない。

●小説では日中は手を携えるべきだと書いているが、中国のモンロー主義、中国主導のモンロー主義。

●中国自身はソフトパワーを築きたいと思っている。多くのリソースを投入して、価値あるものを探し求めている。

●中国人は自分で「盛世」と口で言っているが、歴史家がそう言うかどうかは分からない。

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