「日本の国際競争力を高めるためには」

会見する三木谷氏

会見する三木谷氏

 

テーマ:「日本の国際競争力を高めるには」~イノベーションこそが日本経済成長のドライバー~
ゲスト:三木谷浩史楽天代表取締役会長兼社長
2013年10月25日@日本記者クラブ

インターネットショッピング最大手・楽天グループを率いる三木谷浩史代表取締役会長兼社長が日本記者クラブで会見した。8年半前の05年1月31日にもここで会見しており、今回で2度目。生き延びているということだ。

05年にクラブに登場したときは39歳。当時も楽天社長だったが、そのときはむしろプロ野球球団「東北楽天イーグルス」のオーナーとして注目を浴びていた。05年シーズンからプロ野球新規参入が決まったからだ。

奇しくも楽天は今シーズン、パ・リーグを制覇し、日本シリーズ初出場。26日開幕の日本シリーズで読売ジャイアンツと初対戦する。ジャイアンツは2連続34度目(うち日本一22回)だが、楽天は実績ゼロ。

 

▼追記(2015年2月14日)

会見出席者に三木谷浩史氏と父親で経済学者の三木谷良一氏(神戸大学名誉教授)の対談集『競争力』(2013年9月5日第1刷発行)が配られた。三木谷氏らしいと思った。同氏によると、「国際派の経済学者である父は、楽天創業時から、私の『隠れブレイン』だった」という。

 

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三木谷氏が安倍内閣の産業競争力会議のメンバーとして、政府の成長戦略策定に関わったことを機に、日本経済をめぐる諸問題について父と徹底討論した内容をまとめたのが同書。36歳離れた父子の対談はなかなか面白い。

■(アメリカはどういう国だと思いますか)「個人的な印象で言うと、アメリカはやっぱり個人主義の国だね。個人をまず大事にします。つまり、その考えが誰の考えなのかということを、アメリカ人は非常に重視するのです。日本の学校では、教科書に書いてあることを答えると褒められるけれども、アメリカんの学校では、自分で考えたユニークな見解を発表すると褒められるというのが印象的だったね。ぼくがハーバード大学に留学した際にも、自分で考えて自分の考えを発表するのが基本だったので、その体験は非常によかったです」(良一氏)

■(アメリカの国家としての強みがどこにあると思いますか)「とれは、とにかく強いこと。もうひとつは、いざとなったら、アメリカ人は愛国主義者になることです。おそらく、彼らは日頃から自由を満喫しているから、アメリカの自由を侵すような他国の行為に対しては断固とした態度を取ります」(良一氏)

■「現状から言うと、アメリカは情報産業を押さえてしまったので、しばらくの間は圧倒的に強いと思います。すべての情報はアメリカというより、グーグルが押さえています。CIAも含めたアメリカ政府はいつでも、グーグルの情報にアクセスすることができるわけです。(中国内部の情報は筒抜けになっているわけだね)全部わかっていると思いますよ。だから、中国はグーグルを撤退に追い込むことによって、それをブロックしたわけです。今までは製造技術による競争が行われてきましたが、今後は製造技術による競争の重要度は下がってくると思います」(浩史氏)

■(官僚制について)「官僚制にはよき官僚制、つまり国家の発展に貢献した官僚制と、逆にその国の活力を殺いでしまいかねない官僚制があります。ぼくがここで言いたいのは、官僚制がうまく成功する条件は何かということです。条件の第一は、政策のターゲットがあるということです。その国に合った政策のターゲットがある時、そのターゲットを効率的に達成していくうえで、やっぱり官僚制はいい制度だと思います。しかし、その国が世界のトップランナーになったら、話が違ってきます。何をやるか、未知の世界ですから、そのターゲット自体を決めないといけないわけです。その祭に、官僚ではターゲットを決められないという問題が、どこの国でも出てくるということです。日本の場合、戦後のターゲットは復興でしたから、その復興に向かってみんなで頑張ったらよかったのです。そういう意味で、官僚制は非常に効果的だったと思います。ところが、二十年前だろうか、日本が世界のトップランナーに近くなり、自分の道を自分で選ばないといけない段階に入って以後、日本の官僚制は制度疲労を起こしてきました。だから、官僚制がいいとか悪いとかではなく、国家の歴史的、社会的な背景のなかで、どういうふうに官僚制を使うかを考えることが重要であるとぼくは思うのです」(良一氏)

■(ジャーナリズムの行方)「ジャーナリズムには、事実を伝える機能と見解を述べる役割があって、伝える機能の方はインターネットの普及で意義を失っていると思いますが、それを固守しているのが記者クラブ制度です。これは一刻も早く、つぶすべきだと思います。記者クラブ制度に代表される日本のメディアは、言ってみれば、政官一体となってジャーナリズムをコントロールできるしくみで、時代錯誤もはなはだしい。インターネット時代になっても、いまだにそのレベルから脱却できていないというのが大問題です」(浩史氏)

■「ジャーナリストのサラリーマン化が起きている。イギリスやアメリカでは、オピニオンをリードする仕事としてジャーナリストが選択されているのに、なぜ日本のジャーナリストはサラリーマン化したのか。その質的変化の原因は何か。基本的に言えば、やっぱり終身雇用制が問題でしょう。勤めている新聞社の主筆なり、論説主幹なりが考えている方向に沿った記事を書き、意見を言うということでしょう」(浩史氏)

■「アメリカやイギリスのメディアと日本のメディアの差はどこにあるのかというと、グローバルな視野で見ているかどうかという点だと思います。欧米のメディアは、たとえば同じ経済記事でも、自国のことだけではなく世界各地で行われている実践や試行を取り上げて紹介したり論じたりしている。日本のアベノミクスについても、世界経済の行方という視点から分析し、巨大な投資が本当に有効なのかどうかを検証しています。日本のメディアでは、自国の政策として非常に矮小化された形で議論され、欧米のメディアのように深く掘り下げた報道が少ないです」(浩史氏)

■(インターネット時代にどうしたらメディアは生き残れるか)「やっぱり電子化を徹底的に進めることによって、本当に価値のあるコンテンツを発信し、それに適切な課金をしていくということだと思います。メディアで今、一番うまく行っているのは、おそらくブルームバーグです。ニュースの新しさより深さを重視し、これはどういうことなのかを掘り下げているのが特徴です」(浩史氏)

■「ジャーナリズムはとても重要だと思うね。ぼくの考えでは、日本の社会全体をよくしようという立場に立って、ジャーナリストは自分の考えを持つべきです。そのためには、ジャーナリスト自身が広い意味での研究者でなければダメです。ジャーナリストは研究者との交流を深めて自分の意見を持ち、社会に発信する責任があります」(良一氏)

■「教育は本来、教えたいことを覚えさせるティーチングではなくて、知りたい気持ちをサポートするモティべーションマネジメントであるべきです」(浩史氏)

■(日本の教育について)「学習指導要領というのが十年に一回決まって、その指導方針に基づいて画一的な教育が行われるので、教育現場に創造性が生まれないし、創造性自体を認めないような環境になっているのではないか。もっと柔軟性が必要だと思います。競争原理を働かせてガンガン教える学校もあれば、創造的な教育に取り組む学校もあるというふうに、いろいろな学校があっていいのではないでしょうか。画一的な教育より、選択の自由を重視すべきだというのが第一のポイントです」(浩史氏)

■「第二のポイントは、そのためにも教育に対する投資が必要だということです。教育は費用ではなくて、投資であるというふうにコンセプトを変えるべきです。今までの読み書き算盤に、英語とITを加えた教育プログラムを作ることが必要だと思います」(浩史氏)

■「ぼくも同じ考えです。投資というのは人に対してすべきもので、物に対していくら投資しても、そこからはたいした成果は生まれないからね。不思議なのは、日本人が教育を投資ではなくて、費用だと思ってきたことです」(良一氏」)

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