『3Dプリンターで世界はどう変わるのか』

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書名:『3Dプリンターで世界はどう変わるのか』
著者:水野操
出版社:宝島社新書(2013年10月24日第1刷発行)

▽序章「3Dプリンターとは何か」

■3Dプリンターは実用化されてから既に四半世紀ほどの時間が経過しており、最近登場してきた新しい製造テクノロジーではない。1990年代から3Dプリンターを活用してきた企業にとっては珍しいものではない。筆者が初めて初めて3Dプリンターを見たのは1990年か91年頃、アメリカに留学していたとき。その頃はStereolithography(ステレオリソグラフィー、日本語で「光造形」)という言葉で呼ばれていた。

■世界で初めて光造形についての理論を発表したのは、1981年の小玉秀男氏(名古屋市工業研究所)。82年にはアメリカのA・J・Herbert氏が光造形に関する論文を発表している。今の3Dプリンターの起源はその頃。

■1984年頃に今の3Dシステムズ社の前身の会社が実用化に関する発表。87年に現在でも業界最大手の同社が世界で最初の光造形の実用機「SLAー1」を発表。現在使用されている3Dプリンターの出発点はここ。

■初期の光造形機は、数千万円から億単位と高価だったが、自動車分野の企業や試作企業を中心に、高速な造形能力が評価されて導入が進んだ。使用するのに必要不可欠な3Dデータが自動車業界では設計業務で早くから普及してきたことが後押しした。

■3Dプリンターの代名詞である光造形に加えて、樹脂を溶かして造形する熱溶解積層法(FDM)や、粉末にレーザー光線をあて硬化させることで造形する粉末焼結などの方法も加わり、現在の3Dプリンターの隆盛につながっている。

■製造業で使われてきた3Dプリンターの価格は当初、億単位から数千万円、安くても1000万円台。今でも大型のハイエンド機は高額だが、最近は数百万円から数年前には200万円台まで登場し、現在は100万円台前半の機械まで出てきている。これが主に製造業で使用されている機械の流れ。

■現在の3Dプリンターブームを支えているのは30万円以下、機種によっては数万円レベルのパーソナル向け。業務用とは異なり、樹脂をヘッドの熱で溶かしながら細い糸状に射出して造形するFDMを採用している。

■これらは2007年頃に始まったRepRapプロジェクト(高速試作機の複製)に端を発している。オープンソースのハードウエアで作られた3Dプリンター。パーツも自己複製することで安価な3Dプリンターを作る試み。この領域の3Dプリンターが急速に発展してきたことで、製造業とは関係のない、一般の人でも手に取ることが容易になり、日本でも2013年に家電量販店で販売されるようにもなった。

■3Dプリンターはパーツを造形するための工作機械だが、ほかの種類の工作機械とは全く違う位置づけのものに成長したきた。バラエティーが広い。切削加工や射出成形の機械にはカジュアルなユーザーやアマチュア用はごく一部を除いて存在しない。すべてがもの作りをしているプロ用。

■しかし、現在、高額のプロ用、業務用とは別に安価な個人用が同じ市場に存在している。アイデアの創出やコミュニケーション用といった、あまり品質を重要視しない用途では、むしろ安価な道具として意味を持つ。

■プロ用の3Dプリンターに対しても、昨今では出力サービスという事業が本格的に展開を始めたので、機械を所有できなくても業者へ簡単に出力を依頼でき、プロ仕様の機械のメリットを普通の個人でも享受できるようになった。そういう意味で3Dプリンターはここ数年で、プロとアマチュア、あるいは作り手と使い手という対極の人たちを結ぶことに成功したユニークな製品に成長した。

■今でこそ、製造業の中では安定した品質でポピュラーに使用されているStratasys社の3Dプリンターも、出荷を開始した頃は、想像もつかないような貧相な出来だった。初期のRepRapの3Dプリンターと同じだった。業務用でも出発点はこんなだった。本気で3Dプリンターをもっと汎用的な機械にしていこう、というモチベーションが開発者にあるのなら、現在では想像もつかないような変化が起きるかもしれない。

▽第6章「3Dプリンターで世界はどう変わるか」

■様々な分野の、現在ではまだ夢のようなものが将来、3Dプリンターで出力されていく可能性がある。

■生きた構造を持つ移植可能な臓器を、自分の細胞で出力できる可能性がある。

■材料を地球から持って行けない月や火星では、3Dプリンターは有効な建築ツールになりえる。

■薬や香りといった分子構造までも、3Dプリンターで出力できる可能性がある。

 

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