『アメリカン・スナイパー』

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タイトル:『アメリカン・スナイパー』
監督・製作:クリント・イーストウッド
原作:クリス・カイル『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房刊)
キャスト:カイル(ブラッドリー・クーパー)
2014年アメリカ映画/132分@ユナイテッドシネマとしまえん

 

2003年から11年まで続いたイラク戦争。このイラク戦争に従軍し、米軍史上最多の160人を射殺した伝説の狙撃手クリス・カイル。カイルは国を愛し、戦場を愛した半面、家族を愛した一人の優しい父親でもあった。衝撃の実話である。

映画は彼が書いた実話に基づき、ふんだんに狙撃シーンを盛り込んだ「英雄の物語」でもあるが、カイルは4度の従軍を終えて除隊後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を煩う帰還兵の1人に射殺された。映画はPTSDに焦点を当てた「戦争犠牲者の物語」に姿を変えていく。

映画を作ったのは『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』(いずれも2006年)など戦争をテーマに扱った作品が多いクリント・イーストウッド監督だ。

監督はイラク戦争を正当化しようとする映画だと批判されていることについては、「個人的に私はイラク戦争には賛成できなかった。ブッシュの父が大統領だった頃、アメリカはクウェートを救うためにイラクと戦った。それはいい。たしかにフセインは悪い独裁者だった。しかし、そんな奴らは世界中のあちこちにいるじゃないか。それ全部に戦争を仕掛けるなんて不可能だ」(パンフ所載の映画評論家・町山智浩氏とのインタビュー)と述べている。

映画の冒頭のシーンは見る者に緊張を強いる場面だ。「2003年、戦禍に巻き込まれたイラクの街中。アメリカ軍の狙撃手クリス・カイルの目は、友軍の戦車に近づくイラク人の少年とその母親らしき女性の姿を捕捉した。彼らは敵か、それともただの歩行者なのか。やがてその手に対戦車手榴弾を見つけたクリスは、冷静にふたりを射殺する。これが、後に”レジェンド”と呼ばれる米軍史上最強の狙撃手の初仕事であった」(パンフのSTORY)

カイルが2人を射殺するのは国のため、味方を救うための正義の行為だった。映画の中程にも同じようなシーンが出てくる。幼い少年が射殺されたゲリラの対戦車砲をかつぎ上げ、米軍の車両を撃とうとする。その少年に照準を合わせたカイルは、「砲を拾うな、拾うんじゃない」とつぶやく。拾って撃てば、その前に射殺しなければならないからだ。少年を撃ちたくなかったからだ。

戦場では”レジェンド”と呼ばれ、頼りになる英雄だが、国に帰っても、戦場での過酷な経験を家族や友人と共有できない。当然、寡黙にならざるを得ない。孤独になる。そしてどんどん沈黙していく。

「戦場で彼は科学では説明できないくらいに超人的な力を発揮しましたが、そのためにはいわばアドレナリンが常に出ていることが必要で、それが日常化するわけです。帰国後は戦場と静かな暮らしのギャップが大きすぎ、何がリアリティーなのかが分からなくなる」(パンフ所載の精神科医・名越康文氏コラム)

そんなカイルも神経症に陥ってしまうほど戦場の現実は過酷。そんな戦場から戻った日常は平和で、戦場とのギャップはとてつもなく大きい。戦地に行く米兵は行ったり帰ったりを繰り返す。そのたびにそのギャップに苦しむ。

ジャーナリストの大和和基氏によると、「アメリカの全人口の1%が戦争に行ったが、愛国心の強いアメリカ人は国ために戦っている兵士に賛辞を送る。一方で、帰還した兵士たちの20%くらいはPTSDにかかり、ごく少数の帰還兵の中には自殺をする人もいる」という。

いろんな意味で、現代の戦争について、いろいろ考えさせることの多い作品だった。

 

 

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