グローバル・ジハード時代の国際秩序

 

 

フランスのパリで13日夜同時多発テロが発生。少なくとも128人が死亡した。死者は今後増える見込みだ。オランド大統領は14日の演説で、イスラム過激派「イスラム国」（IS=Islamic State）による犯行だと断定した。ISも犯行声明を発表した。

仏では今年1月に風刺週刊紙「シャルリエブド」がISによって襲撃され、17人が死亡した。ISの犯行だった。また、10月31日に、エジプト・しない半島でロシア旅客機が墜落、224人が全員死亡したのも、シナイ半島で活動するIS関連組織「シナイ州」（旧アンサール・バイト・アル・マクディス）が犯行声明を出している。

これまでは2001年の米同時多発テロを起こした国際テロ組織アルカイダやアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが脚光を浴びていたが、昨年以降はISがシリアやイラクで存在感を高めている。今年1月には日本人ジャーナリストが殺害された。

 

 

雑誌『公研』（公益産業研究調査会の会員誌）の2015年5月号が公研セミナーで、アラブ研究の第一人者である池内恵（いけうち・さとし）東京大学先端科学技術研究センター准教授が行ったセミナー（2015年4月20日）の内容を掲載している。そこで同氏はISを生み出した背景や環境について話している。「敵」を知らなければ、有効的な対策も講じられない。

・何がISを生んだのか。私は「グローバル・ジハード」という思想と運動であると考えている。ISが突然消滅しても、背後にあるグローバル・ジハードの思想が存在し続ける限りは、今後また別の何かが生まれてくることになる。だから今はISそのものを見るよりも、その背後に共通して存在しているグローバル・ジハードという思想と運動をきちんと認識することを目標とするべき。

・（ブログ子注※グローバル・ジハード＝グローバルに拡大したジハードのこと
ジハード＝聖戦、異教徒との戦いのこと）

・ジハード思想は7世紀からあった。ジハードという概念は「コーラン」に明確に見られ、預言者ムハンマドの言行が記録されているハーディーズという膨大な文献群の中にもジハードについて膨大な記録が残されている。ジハードはイスラーム教の宗教的な信念。この信念は中世において法規範として体系化された。規範だから強制力がある。

・ただし、近代になると、ジハードという考え方はいったん棚上げされた面がある。ジハードの考え方は近代の国際法規範や国際法秩序とはあまりに相容れない面があるから。近代の国際法秩序において、国際法の適用される主体は主権国家。これが唯一の共通の単位となっている。そして、基本的に主権国家同士の戦争はあってはならないと考えるのが近代の国際法規範。戦争は違法化されている。けれども戦争は現実に起こっている。それゆえ自衛権を発動した場合は戦争は認められる。つまり、他国が攻めてきた時に自衛するというケースが近代の国際法規範の中で認められる戦争。

・ところが、ジハードは国際法規範との根本的に合いません。基本単位が異なるから。イスラーム教でゃ唯一絶対神アッラーから預言者ムハンマドを通じてくだされた集団（アラビア語でウンマ＝宗教共同体）を基本単位としている。基本単位が近代の主権国家ではない。歴史上の国家には帝国や王朝などいろいろな形態が存在しているが、イスラーム教ではそれらは本来ならあるべきではない、あるいはウンマより価値の低い政体であるとされている。それに対して、神から絶対的な真理を授かった人間たちによって成り立つ共同体のウンマこそがあるべき姿。神が人間世界に宗教として下す教えは、物理法則のようなもので、歴史的事実であるとイスラーム教徒は感じている。帝国や王朝は儚いものだけど、宗教は絶対であるというのがイスラーム教徒の一般的な感覚だ。

・イスラーム教徒が1つの共同体の形成を目指すことは当然。その共同体はカリフという政治指導者を持つべきとされている。カリフが指導して他の宗教共同体と政治的・外交的・軍事的に対峙し、やがては征服してイスラーム教の真理を世界に広める。それはイスラーム教徒が神から命じられた究極の目的であるとコーランやハーディスを解釈するのは、決してISの参加者だけではない。原則としてアラブ社会で教えられている方角解釈の通説の中に含まれている。