ライシ師が意外に善戦したイラン大統領選挙

 

 

ゲスト：日本エネルギー経済研究所中東研究センター・田中浩一郎
放送大学教授・高橋和夫
テーマ：イラン情勢と米国の中東政策
2017年6月8日＠日本記者クラブ

 

田中浩一郎中東研究センター長はイラン大統領選挙（5月19日）の評価について、出馬した6候補（最終的に4候補）は核合意には大筋賛成ではあるものの、最大の違いは経済開発であるとし、大統領および大統領派は開放と外資導入による発展、保守強硬派は国産力の向上による経済強靭化を主張したと述べた。結果は予想通り現職の穏健派ロウハ二大統領（68）が勝利した。

今回も対立した保守派のうち強硬派のライシ前検事総長が一般的に低い知名度で、今回の大統領選での勝機が薄いことは明らかながら、対話路線のロウハニへの批判票と組織票を集約。敗退で次期最高指導者の可能性は消滅したが、2021年の次期大統領選で捲土重来を期す覚悟を示した。

今回の大統領選について、路線対立が一層明白になった。経済開発に不可欠な対外開放を志向する大統領と西欧に対する不信から国産主義を説く最高指導者との対立だ。

 

 

保守強硬派ライシ－候補の牙城・ホラサーン州。イラン東部の州の名称。広大なため、2004年9月、北ホラサーン州、南ホラサーン州、ラザヴィ・ホラサーン州に再編された。旧ホラサーン州の州都はマシュハド。

ロウハニ大統領の標語の1つは「ホラサーンを取り戻せ！」だ。

イランの首都テヘランで6月7日午前、国会議事堂と首都郊外の故ホメイニ師の墓標を攻撃した。国営テレビによると、少なくとも12人が死亡、42人が負傷した。イラン政府はテロと断定。イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」（IS）は自身の運営する「アマク通信」で犯行声明を発表した。シーア派を国教とするイランでISが実行した初めてのテロとみられる。

田中センター長は、この事件のインプリケーションについて、①ラマダン攻勢を予期していながらの失態②従来の分離主義者とは異なる過激派の動機－とし、国内治安体制の不備を指摘した。

イランが現在シリアの内戦に介入しているのは、ISがイラン国内に入ってこないように遠くで対処するという理屈に基づくものだが、それを正当化する理由がますますできた。イランのシリアにおける活動は一段と強化されると田中氏は述べた。

イランはサウジアラビアと中東域内で影響力をめぐって争っている。イランはシーア派で、サウジはスンニ派を牛耳っている。サウジは2016年1月3日、イランとの国交を断絶すると発表した。

サウジは前日、2011年にサウジ東部で拡大したシーア派住民による反政府運動で大きな影響力を持つ人物であるニムル・バキル・アル・ニムル師とシーア派活動家3人を含む47人をテロ活動に関与したなどとして処刑した。これに対し、テヘランでは群衆がサウジ大使館に乱入して火を放つなど抗議行動を行った。断交はこれへの抗議措置。

サウジのムハンマド副皇太子は、サウジはイランとの戦いをサウジの中ではなく、イラン国内に持ち込むんだと脅迫的な発言を行った

“We will not wait until the fight is inside Saudi Arabia and we will work so that the battle is on their side,inside Iran”

高橋和夫氏はトランプ米大統領が迷走していることを示した。トランプ氏の言っていることを全部つなぎ合わせてもきちんとしたストリーにならない。この政権はぐちゃぐちゃになって、とても外交というような雰囲気ではないという懸念も持っている。

イランと米国の関係は厳しいというのが高橋氏の認識のようで、「核合意は最悪のディールだ」などと言っている。これからの中東政策を考える上で最も関心が高いのはマティス国防長官の存在。狂犬マティスと戦う修道士と呼ばれ、夜はひたすら本を読んでいる。

「私はマティスという人は『犬』ではなく、『カナリア』ではないかと思う。炭鉱労働者は穴にもぐるのにカナリアを連れて行った。カナリアは毒ガスに弱いから。カナリアが死んだら危ないとして上がってきた。マティスは毒ガスの漂っているトランプ政権の中であの人が死んだら政権はだめだ。この人がいろいろ言いつつ我慢して頑張ってくれるのなら大丈夫かなという感じだ」。

そういう風に見ていると高橋氏は語った。トランプ米外交は不協和音に満ち、ジャズ的にアドリブでやっているというのが私のイメージだ。

ただこれまでは条件反射が良くて、破滅的な間違いは犯していないとも語った。