ICT林業の成長産業化

 

アジア航測執行役員の矢部三雄氏(一番右側のマイクを持っている人)

 

NPO農都会議と日本サステイナブルコミュニティ協会(JSC-A)共催の5月の勉強会「森林環境税と路網整備」が9日、港区神明いきいきプラザで開かれた。

テーマは3月27日に成立した森林環境税法で得た新財源を林業の機械化にどう使っていくのか。路網整備など林道整備の方向性を考える場となった。

林野庁森林整備部整備課課長補佐の岸巧規氏とJSC-A会長で東京大学名誉教授の酒井秀夫氏、アジア航測の矢部三雄執行役員・総括技師長の3氏が講演した。このうち矢部氏の「ICT技術による路網整備の効率化が実現する新たな林業経営」を紹介したい。

・2年前にも航空レーザ計測について説明したが、今回は道に特化したい。安く丈夫な道を作るために最新の技術をどう生かすかの視点で話したい。道を作る場合は線形(路線の形状)、どこにつくるのかが重要だが、それを事前に取得した情報によって的確に把握していく。それでコストを下げる。

・道ができたときにその道を使って林業の生産性をどう上げていくか。そのための情報の使い方も重要だ。

・森林の計測の内容にはいくつかあるが、大きく分けて写真とレーザ測定の2種類がある。森林からの距離によって道、地上、ドローン、航空機、衛星。レーザ計測の場合、衛星もあるが、民間技術として活用できる状況にはない。航空機による航空レーザ計測の活用を中心に説明したい。

・ここ2~3年市民権を得ている。3年前まではほとんど見られなかったが、林野庁の予算を付けて各都道府県、市町村が航空レーザ計測に取り組んでいる。

・写真とレーザのどこが違うか。写真は見える物しか見えない。レーザは見えない物が見える。またレーザ計測はあらゆるもののX、Y、Zの座標が取得できる。これが大きな違いだ。

・地上調査は毎木調査をやっていた時代もあったが、今はサンプルで森林の調査をする。空中調査も基本的にはサンプル調査になる。航空レーザ計測は1本1本の木の全数調査ができる。レーザを直接当ててコンピュータ処理して樹木の本数とか木の高さとかを測るので手動ではなく自動。遠隔操作できる。

・単木情報の取得スピードは目視判読の2000倍ほど。この全数調査が今後の林業界の革命になるのではないかという技術だ(独自特許、業界先導)。

・県の全域の計測が実施されたのは長野、岐阜、岡山、広島、愛媛、高知、佐賀県。大きな面積を取っているのは茨城、栃木、鳥取、熊本、大分、長崎県島嶼部。大分県が林野庁の予算をもらって今年全域計測が終わる。平成31年度(2019年度)からスタートする森林環境譲渡税によりレーザ計測を予定する地域も多数存在する。

・森林調査では樹種が分からなければならない。本数も必要だ。木の高さ(樹高)もいる。木の太さ。当然ボリューム(材積)も必要だ。航空レーザ計測では本数と木の高さを知るために何をしたかと言うと、木のてっぺんの点(樹頂点)を測る技術を開発した。これが分かると木の本数が分かる。てっぺんのZと地面のZを差し引くと木の高さが分かる。

・レーザというのは物に当たって帰ってきて光が反射するが、葉緑素の組成によって反射強度が違うことが分かったので、これで樹種が判明する。森林の情報がすべて分かる。これらのデータをすべて行政森林組合の使っているGIS(地理情報システム)の中に入れて計画を作るところから伐採や道づくりに活用している。

・どこの間伐を最初にやらなければならないのか。今までは山に直接行って込み具合を調査していたが、本数や高さが分かりコンピューター上で出せる。どこを間伐すればよいかの計画も立てられる。

・伐採する施業を団地化して、どこをどうやって道を引くかの概略の検討をして所有界がどうなっているかを確認して権利関係を調整し路網を具体的に選定し、現地踏査、詳細設計を行っていたが、それぞれの段階で航空レーザ計測のデータを活用できる。

・特に危ないところに道を作るのが一番危ないので、急峻地を把握しながら道を作っていく。赤色立体図(森林の樹木を全部はいだ地面だけの情報)を使うと、過去の地滑り地や崩れた部分が分かるので、どこに道をつくるべきかをより分かりやすくなる。こうした情報を基に新しい線形(路網の状態)を決めていく。

・これが終わるとどこに土場(どば)を作れば一番集材距離が短くなるかなどの設計を行う。

・こういった情報を別個に見て作っていくと面倒なので、今はGISの中に路網作成システムを作り込んでいく。どういったところに作業道を作ったら一番効率的にとれるか。あるいは地盤の情報を赤色立体図からとって危ないところを避けながら路線の計画を作っていく。これに基づいて実際の作業道を作っていく。

・こういった情報をスマホに入れる。タブレットで現場にもっていく。事務所で見たGISの情報を同じ物を見ながら現地で確認をする。新規情報があればタブレットに入れる。写真を撮影するとGISにインプットすることによって新たな情報として加えていく。より合理的な情報として更新できる。

・道を作ったらどれほどの効果があるか試算をした(林野庁業務資料)。森林基幹道を入れることによる集材距離も100m未満に収まる。素材生産費も1割ほど落ちる。道を作ることによって伐採の団地化が進むので素材生産費が約6%下落する。さらに道がきちんと入る結果、作業システムも従来のチェーンソー+グラップルの組み合わせからハーベスタを入れてフォワーダを活用するシステムになり、14%ほど落ちる。単純な効果として、74%の素材生産費を低減することが可能だ。

・ICT林業化による効果。切る前にどのくらい丸太ができるかが分かっている。素材の半数を製材工場に直送した場合の平均流通経費縮減額は1100円/立方メートル。きちっと道が入ってそこでICT化の技術を使って作業システムを構築すると立木価格が倍になることが期待できる。

・道が整備されるとICT化も進む。「みちびき」がどんどん上がっており、林内のGPS即位精度が高くなっている。林業にもハーベスタに精度の高いGPSを付けて間伐現場に回す。オペレーションルームにどこの杉を間伐するか、樹頂点を表示し自分のハーベスタをどこの木に持っていくかが分かる。そこに1本1本の情報もすべて入っているので今の市場価格にすればどのくらいの長さで採材すれば経済的かコンピューターがオペレーションルームに表示してその通り玉切り(造材)をしていく。

・そういった情報が全部データとして集積されるのでフォワーダを派遣するときにいつ、何時何分にどこにフォワーダを持っていけば満車になるという状況を作れる。山土場でもどこの製材工場向けの丸太が全部管理が可能である。

・具体的な事例として山形県金山町で平成27年(2015年)に農林中金の支援事業で航空レーザ計測を使って道づくり、間伐にどれだけ寄与するかを実証した。1年目に計測をし、2年目に実際に道を作った。樹頂点を作って地盤情報を駆使し間伐を行った。評価が高く、モチベーションも上がって効果が上がった。

・びっくりしたのは森林組合独自に想定した以外の活用法まで考えてくれた。ハーベスタに付けたGPSの軌跡をとって工程管理に活用した。金山町も独自の予算を組んで翌年残面積を計測。森林ビッグデータの運用が可能となっている。

・熊本県人吉市。作業道を作ったり、間伐したりするために航空レーザを活用した。作業道の線形を確定する前にかかった必要人員数を比較したところ、従来なら12人かかったが、データを活用したら7人で済んだ。こういう数字は初めて。効率的な間伐作業が行われている。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.