「アニマルウェルフェア」に寄り添った平飼い

 

アニマルラブフェスタin TEIKA2019

 

動物の福祉向上を目指した公開シンポジウム「アニマルラブフェスタ2019」が22日、帝京科学大学千住キャンパス(東京都足立区千住桜木)で開かれた。主催は同大学アニマルサイエンス学科。同大学は帝京大、帝京平成大など帝京大学グループの一員。

シンポは動物福祉の向上を目指し、様々な分野の現場で活躍している関係者を呼び、人と動物の関係を考えた。

犬にベストやウォーマーを着せたり、自転車の荷台に乗せたり、赤ちゃんならぬワンちゃんをスリング(だっこひも)で抱えたりとやたら過剰保護が目に付く中で、動物福祉にむしろ批判的な人間が考えを改めるいい機会だった。

正直言って普段考えたこともないテーマだったので戸惑うことも多かったが、欧米の「アニマルウェルフェア」(動物福祉)の最前線を知るには格好の場だった。

シンポでは野生動物、展示動物、畜産動物、伴侶動物、実験動物の5分野の関係者が呼ばれていたが、個人的には畜産動物に関心があった。畜産業界の1人として話したのはワタナベファームの渡邉茂代表。

平飼い鶏卵農場を栃木県矢板市で経営するほか、大学に近い足立区千住中居町で直営店「Daisy」(デイジー)を昨年11月オープンさせている。

 

シンポ会場の隣の1310教室ではパネル展示が行われていた

 

ワタナベファームの創業は1932年。戦時中のまだ屋号がない頃に、養鶏のノウハウを構築したところからスタートした。初代は鶏ができるだけ衛生的に生きて死なせないように「渡辺式バタリー育雛器」を開発し、実用新案特許を取得した。

2代目はひよこが生まれるための卵(有精卵)を産む種鶏(しゅけい=ひよこを作るための卵を産む鶏)を育て、育成率の評価で3度の日本一を受賞。3代目の自分は2014年7月から採卵鶏(さいらんけい=食用の卵を産むための鶏)農場をスタートさせた。

渡邉氏によると、養鶏事業をやっていると、どうしても採卵期間を過ぎた雌鶏(廃鶏=はいけい)の存在はなくせないという。渡邉氏は現在、少なくても病気にならないようにするために鶏を強くし、「殺さない養鶏」を目指していると述べた。

ワタナベファームの実践している養鶏法は鶏を地面に放して飼う平飼い。自然に近づけた環境で育てているため鶏本来の習性に沿った生活をできるのが最大の特徴だ。

鶏は餌があっても無くても、暇があれば地面をつつきながら歩き回るので、1日に地面をつつく回数は1万回以上といわれる。平飼いでは起きている間はとにかく自由に動き回っているため、1日20km歩く。

これに対しゲージでは1日に100mも動かない。運動量に圧倒的な差がある。足もゲージ鶏に比べ3~4㎝長いという。

しかし半面、「動かせば動かすほど餌を食べるのでコスト的には問題がある。生産効率も上がらない」ともいう。スーパーなどでは1個15円で売っているのに対し、ワタナベファームは1個60円の価格が付いている。これで果たして売れるのか。

 

卵の消費量は年間530億個分

 

同大学のパネル展示によると、養鶏業界の採卵鶏は13万4504羽(平成26年=2014年)、1年間の卵の消費量は約265万トン、約530億個分(平成28年=16年)。平飼い率は20%以下。

養鶏業界に押し寄せているのは「アニマルウェルフェア」の考え方だ。そのまま訳せば動物福祉か家畜福祉だが、農水省は国際的なガイドラインを策定・勧告している国際獣疫事務局(OIE=仏パリ)の考え方も取り入れ、「快適性に配慮した家畜の飼養管理」としている。

渡邉氏は「牛と豚は公益社団法人中央畜産会が守られている。それに対し鶏は自己責任だ。法律的にもグレイである」と指摘する。

EUを中心にゲージが問題視され始めている。アニマルウェルフェアが重視され、現実にゲージがなくなったら、「日本から卵が消える」事態だって起こる可能性もある。そうなったら大変だどころではない。

その機運の1つが卵のEU向け輸出の解禁だ。日本貿易振興機構(JETRO)によると、EUは今年2月、実施規則の改正で日本もEU向けに卵と卵製品の輸出が可能な国として第三国リストに加えられた。

当面はマヨネーズなど例外的な措置が適用される卵を原材料に含む混合食品(植物性食品と動物性加工食品を原材料に含む食品)のEU向け輸出が可能になり、卵の輸出には「輸出許可施設」リストへの記載が必要だ。

しかし遠からず卵そのものも輸出できるようになり、その条件として平飼いしか取り扱わない方針が採用されるとしたら、ゲージという日本の養鶏業のインフラ設備を取り巻く環境もガラッと変わりかねない状況だ。

 

純国産鶏平飼い有精卵「ひより」を使ったニラ玉

 

店を探して北千住駅周辺をうろついたが、スマホがうまく操れない。うまくルート検索できない。地元の人に聞いたほうが簡単だ。しかし、これが最近は結構辛い。スマホで探すのが一般的だからだ。8月に長野市に取材で行ったときもそうだった。あのときはつい地図を買ってしまった。

見つからなくて帰ろうとしたが、自宅に電話すると結局、今夜の夕食は「デイジーで買った卵でニラ玉を作る」ことになった。探すしかなかった。

苦労して探した。見つけた。渡邉代表も店にいた。また養鶏の話を少しした。

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