『ファクトフルネス』で知るドラマチックでない世界

 

 

書名:『FACTFULNESS』(ファクトフルネス)
著者:ハンス・ロスリング(医師、グローバルヘルスの教授、教育者)
2017年2月7日死去(スウェーデンで国境なき医師団を設立)
(ギャップマインダー財団を設立)
共著者:オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド(息子と妻)
訳者:上杉周作、関美和
出版社:日経BP社(2019年1月15日第1版第1刷発行)

 

最近、何でも物事を横文字で言い表すことがはやっている。分かったような、というか、余計分からなくなるような気分にもなる。横文字で表現した方がより理解が進むように思われがちだ。何か自分に表現力が付いたような気にもなる。

しかし、なじみの薄い言葉だとそう簡単に理解できない。最近気になっているのが「ファクトフルネス」だ。グーグルが瞑想を導入して話題になった「マインドフルネス」も同じことだ。「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」だそうだが、正直なかなか理解できないのだ。実感をもって心に突き刺さらない。自分の言葉にならない。

1944円で全文350ページ。3月に買って電車の車内で読み継いで最近ようやく読了した。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツも「これまで読んだ本の中で最も重要な1冊だ」と絶賛している。

天才がそんなことを言っているのだからそれは正しいのだろうが、それにしてもリアリティーが湧かない。なぜだろう。最初から読み返した。少し分かってきた。

ロスリング氏は冒頭、読者がどれほど世界について知っているかチェックするために13問のクイズを出す。質問は以下のような内容だ。

質問1 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するのでしょう?

A20% B40% C60%

質問2. 世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?

A低所得国 B中所得国 C高所得国

質問3. 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったのでしょう?

A約2倍になった Bあまり変わっていない C半分になった

質問4. 世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?

A50歳 B60歳 C70歳

質問5. 15歳未満の子供は、現在世界に約20億人います。国連の予測によると、2100年に子供数は約何人になるでしょう?

A40億人 B30億人 C20億人

・・・・

質問13.グローバルな気候の専門家は、これからの100年で地球の平均気温がどうなると考えているでしょう?

A暖かくなる B変わらない C寒くなる

私は13問中2問間違った。「このクイズには多くの人が間違える。どんな優秀な人でもだ」と著者が書いている。安心できる。

正解率が高かったのは地球温暖化の質問だけ。あとの12問はすべて、人々の圧倒的な知識不足を裏付けた。測ったのは「頭の良し悪し」ではなく、あくまで「知識量」だと、ロスリング氏は指摘する。

「このクイズは、さまざまな国の、さまざまな分野で活躍する人々に実施してきた。医学生、教師、大学教授、著名な科学者、投資銀行のエリート、多国籍企業の役員、ジャーナリスト、活動家、そして政界のトップまで。間違いなく、高学歴で国際問題に興味がある人たちだ」という。

「しかし、このグループでさえも、大多数がほとんどの質問に間違っていた」という。優秀な人たちでさえ、世界のことを何も知らないようだと指摘する。

「人々の圧倒的な知識不足に、わたしが初めて気づいたのは1990年代半ばだった。しかし、より多くの人にクイズを出すにつれ、教室の中だけでなく、社会全体に知識不足が広がっていることに気づいた。みんな、世界のことについて知らなすぎる」

ロスリング氏は答えの糸口を掴んだ。「わたしのクイズを受けた人たちが持っている知識は、数十年前からアップデートされていない」と思った。しかし、アップデートするために世界を飛び回っているうちに知識のアップデートだけが問題ではないことに気づく。

それは人間の脳の機能に原因があるのではないかということを思いついたからだ。人間の脳は何百万年にもわたる進化の産物で、差し迫った危険から逃れるために、一瞬で判断を下し、うわさ話やドラマチックな物語に耳をすまし、食料不足のときに砂糖や脂質を欲する本能が必要だった。

しかし、今も砂糖や脂質が重要だが、だからと言って脳のその部位を切除することもできない。ドラマチックな物語を求める本能は必要だとしても、ドラマチックなものを求めすぎるあまり、ありのままの世界を見ないのはおかしい。

世界はあなたが思うほどドラマチックではないからだ。この本にはそれを示すデータが散りばめられている。それはあなたを癒やしてくれる。

「健康で食生活や定期的な運動を生活に取り入れるように、『ファクトフルネス』という習慣を毎日の生活に取り入れて欲しい。訓練を積めば、ドラマチックすぎる世界の見方をしなくなり、事実に基づく世界の見方ができるようになるはずだ」とロスリング氏は語る。

本書は10章で、それぞれが思い込みが書かれている。「世界は分断されている」(分断本能)「世界はどんどん悪くなっている」(ネガティブ本能)「世界の人口はひたすら増え続ける」(直線本能)「危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう(恐怖本能)「目の前の数字がいちばん重要だ」(過大視本能)「ひとつの例がすべてに当てはまる」(パターン化本能)「すべてはあらかじめ決まっている」(宿命本能)「世界はひとつの切り口で理解できる」(単純化本能)「誰かを責めれば物事は解決する」(犯人捜し本能)「いますぐ手を打たないと大変なことになる」(焦り本能)という思い込みだ。

 

 

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