【名画座】官房長官に質問を発し続ける「新聞記者」を異端視する同調圧力社会

 

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ギンレイホールの画像

 

 

作品名:『新聞記者』
監督:藤井道人
キャスト:吉岡エリカ(シム・ウンギョン)東都新聞社会部記者
陣野和正(北村有起哉)東都新聞社会部・吉岡の直属の上司
杉原拓海(松坂桃李)内閣情報調査室
多田智也(田中哲司)内閣参事官・杉原の直属の上司
2020年1月22日@飯田橋ギンレイホール

 

映画の作り方はいろいろあって、監督自身が脚本を執筆(一部も)しそのまま監督するのもあれば(パヴェウ・パヴリコウスキ監督の撮った『COLD WAR あの歌、2つの心』)、原案は別にあって面白いと感じた監督がそれを映画化したものもある(ニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載された記事を監督したクリント・イーストウッドの『運び屋』)。

この作品の原案は現役の東京新聞社会部記者、望月衣塑子氏の書いた『新聞記者』(角川新書)。それを読んだ本作品のエグゼクティブプロデューサーを務める河村光庸(かわむら・みつのぶ)氏が望月氏の了解を得て企画・製作した。

河村氏は原案にも参加し、面白さを追求し、吉岡記者の父親が新聞記者で自ら誤報の責任をとって自殺したと内容を変えている。吉岡は日本人の父と韓国人の母とアメリカで育った。記者クラブ内の寸度や同調圧力にも屈しない。1人の『個』として発信する姿勢は、社内でも異端視されている。こう設定されている。

ある夜、杉原は外務省時代の上司で今は内閣府に移っている神崎俊尚に飲みに誘われ、旧交を温めた。しかし、その数日後、杉原の携帯に謎めいた言葉を残し、ビルの屋上から身を投げて死亡した。「杉原、俺たちは一体何を守ってきたんだろうな」

杉原は神埼の葬儀の場に焼香に現れ、同じく葬儀に現れた吉岡と遭遇し、言葉を交わす。吉岡は「私は、神埼さんが亡くなった本当に理由が知りたいのです」と言い、「私の父も自殺したのです」とその理由を述べた。

吉岡がなぜこんなに熱心に、執拗に神崎の死に呪縛されているか不思議だったが、この一言で理解できた。それは流石だなと思った。

しかし、これはもちろん事実ではなく、映画上の効果を狙ったものなのだが、私は知らなかった。しかし、これはこの作品を信用するかどうかの重大な要素でもあり、そのことがずっと気になっていた。しかし、これは映画上のフィクションで、事実とは違った。

河村光庸氏はパンフレットで、今のメディア状況について「この数年で起きている民主主義を踏みにじるような官邸の横暴、寸度に走る官僚たち、それを平然と見過ごす一部を除くテレビの報道メディア。最後の砦である新聞メディアでさえ、現政権の分断政策が功を奏し『権力の監視役』たる役目が薄まってきているという驚くべき異常事態が起きている」と説明する。

「それとともに、そしていつの間にか暗雲のように社会全体に立ちこめる『同調圧力』は、人々を萎縮させ『個』と『個』を分断し孤立化を煽っています」とも分析している。

河村氏がそう思い、この状況を映画化したいと思っているところに現れたのが官邸で「不都合な質問」を発し続ける東京新聞の望月衣塑子記者だった。彼は望月記者にアプローチし、企画構想し、『新聞記者』を作った。いくら面白いからと言って、よくここまで換骨奪胎できるものか。趣旨は同じでもディテールがまるで違う。

しかし、そう思わない人もいる。昨年の第32回東京国際映画祭ではインディーズ(独立)系作品を紹介する「日本映画スプラッシュ」部門に『iー新聞記者ドキュメントー』(森達也監督)が上映された。

『新聞記者』の原案者の望月氏を追った社会派ドキュメンタリーだ。望月記者の姿を通して、日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体を暴いたもので、菅義偉官房長官などさまざまな人物に体当たりで取材する望月記者を追った作品に仕上がっている。

作品賞を受賞したものだが、私は見ていない。どうも望月記者と吉岡記者が私の中で一緒になっている。望月記者の父親は記者らしいが、誤報で自殺したという事実はない。恐らく「きちんとした回答をいただけていると思わないので、繰り返し聞いています」と質問しているのだろう。

この『i』も河村氏の企画。「もともと、2本セットで企画を作ったんです。決して『新聞記者』のヒットに気をよくして、製作したわけではありませんよ」

実はここまで書いて、この原稿はずっと「非公開」にしていた。既に2年近くたとうとしている。内閣も変わった。いろんなものが次ぐから次へと変わっていく。しかし、読者の関心を呼ぶために物語の核心を変えてもいいのだろうか。

この点は疑問として残っており、この作品の評価に戸惑っている自分がいる(2021年12月25日朝)。

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