感染爆発を防ぎながら、辛抱強く「ウイルスとの共生」を目指すしかない=山本太郎・長崎大学教授

 

ビデオインタビューに答える山本太郎教授(NHK)

■目指すべきは社会との共生

これまでハイチやアフリカ大陸で感染症対策に現場で従事してきた長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授は4月17日、NHKニュースウオッチ9のインタビューで、新型コロナウイルスの脅威について、「これくらいのことが起きる可能性はあるということはみんな知っていたと思うが、それが現実の問題として起こるかどうかに関して危機感というか認識は少なかったかもしれない」とし、「実際に起きてみると危機感を超えたさまざまな問題が出てきたというのが今の状況ではないか」と述べ、「目指すべきは社会との共生である」との認識を示した。

感染症と国際保健学を専門とする山本太郎氏。これまでアジアやアフリカ、中南米などで25年以上にわたってエイズの問題に取り組んできた。その傍ら歴史的な視点から感染症と人類の関わりについて研究してきた第一人者だ。

人類は数々の感染症に直面してそのたびにワクチンを開発してきた。人類はウイルスに打ち勝ったと思っていたが、山本氏は「そうではなかった。この20年間を見てみると、新しいコロナウイルスが3つも出てきている。少し度を超えた出現頻度だと思う」と語った。

 

■感染を招いたのは「人間の営み」とグローバル化

 

人に感染するコロナウイルスは7種類が報告されている。4つは通常の風邪を引き起こすウイルスで、残る3つが2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群),12年に出現したMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルスだ。

山本教授はそれを招いたのは「人間の営みだ」と指摘する。「無秩序な開発や地球温暖化による生態系の変化で、人と野生動物の距離が縮まっている」と述べた。ウイルスは自然界からもたらされるのかとの問いに対し、「人と野生動物との距離が縮まってきた。それによって野生動物が本来持っていたウイルスが人に感染するようになってきた」と答えた。

山本氏がもう1つと指摘するのはグローバル化だ。人口増加、都市の出現、人の移動が加わって世界同時多発的なパンデミック(大流行)に至ったのだ。

感染症は歴史的に見ると、「社会変革の先駆けになっている」とし、14世紀の黒死病(ペスト)を挙げた。ペストが猛威を振るい、ヨーロッパでは約3分の1が死亡したといわれる。当時強い影響力を持っていた教会は住民を守れなかったとして権威を失い、「国民国家」の誕生につながった。ヨーロッパの中世は終焉を迎え、近代が始まった。

 

■「感染症は撲滅できない」

 

今回の新型コロナの終焉も恐らく世界を変えるというか、今とは違う世界が現れてくるのではないか。巨大都市化をさらに進めるのか、それとも人口を含めた地方分権をするのか。今後の変化はわれわれの意識次第だろうという。

これまでは経済力とか発展を拠り所にしてきたが、「発展を中心として価値観は変わる時期にきていたのではないか。人間には変化することが必要だ。人的被害を最小化しつつ、ウイルスと共生していくことが必要だ」と述べた。

「われわれが自然の中の一員である限り、感染症は必ず存在する。感染症は撲滅できない。撲滅できないところで感染症と付き合うにはどうすればいいか。それは全面的な戦争をすることではなくて、感染症があったとして、人を死亡させない、社会機能を果たさせなければ、うまく付き合っていける可能性がある。そのために知識、技術を使っていくことが大切である」と語った。

感染爆発を防ぎながら、治療薬やワクチンの開発を待ち、辛抱強く付き合っていく。これが山本氏の考える「ウイルスとの共生」だという。

混沌とした状況の中に未来を見いだせるのか。「1人1人が希望を持っていることが将来に対する希望になる。社会が明るい未来であるためには1人1人が明るい未来を思い描くことによってしかできない。次の社会をどういう社会にすればいいのかを考えることが未来への希望につながる」と山本教授は語った。

 

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