魚のトレーサビリティを追求し「100年後もサステナブルな海」を目指す=大野・海光物産社長

 

海光物産の大野和彦社長

 

■拘るのは「江戸前鮮魚」のみ

 

海光物産(千葉県船橋市)の大野和彦社長は第22回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーのセミナーで、「100年後もサステナブルな江戸前の海を目指して」と題して話をした。千葉県船橋港に支店を持つ巻き網漁船「大傳丸」の船長で、昨年から社長を務めている。船に乗り出して39年のベテラン漁師だ。

海光物産は以下の点を目指している。

①江戸前鮮魚のみに執着し、水揚げから出荷まで徹底した鮮度管理を行う

②魚に付加価値を付けるのではなく、魚が本来持っている価値を最大限に引き出す努力をすることで、魚食の普及を目指し日本の食料自給に強く貢献する

③持続可能な江戸前漁業の伝統、文化を次世代に繋げる橋渡し役を担う

④資源管理に立脚し、低迷する一次産業に二次、三次と掛け合わせた「産業の六次化」を追求する。

 

100年後もサステナブルな海を目指して

 

■魚の履歴書を価値にしていく

 

・タブレット端末に何月何日に船橋漁港を出港してどこのポイント(北緯南緯・・)で網を下ろした。そこで獲れた魚はスズキ400キロ、太刀魚20キロとか事細かに記録している。IBMのフードトラストの仕組みを使わしていただいて私ども漁業現場から最終的なお客様のお手元に至るまで魚の生い立ちをつまびらかにしようとしている。

・コロナで会社を首になり就職活動をするにも手ぶらじゃいけない。履歴書を持参する。東京湾のスズキについて科学的根拠に基づく資源評価がまもなく出る。

・トレーサビリティを価値にしていく。

・このトレーサビリティを伝承していく。これをシェフや直接消費者と接する方々に伝えていく。

・次世代の子どもたちに今の海の状況を伝える。

・地球の最後の局面で現れた人間の罪滅ぼし=海の現場から何か対策を発信したい。

・サステナブルな漁業とは「環境生態系、経済性、社会性などこれらすべてにおいて持続可能性を追求する漁業」。コロナ感染対策と同じような仕組みが必要と考えている。社会貢献ができるような仕組みを作っていく。

 

 

消費者の「知ることの権利」

 

■魚がいれば誰でも獲れる時代に

 

・日本の水産業は1984年がピークでそれ以降ずっと右肩下がりだということはみなさん承知ですが、実は船橋港は善戦している。スズキは日本一だ。これは裏を返せば危機的な状況。全体の水揚げが減少しているにもかかわらずスズキだけの水揚げは上がっている。つまり漁獲圧が高まっている。

・自分の親父たちの時代は経験とか勘で漁をやっていたが、技術革新によって漁業が飛躍的に効率的に獲れるようになった。操舵室では11のモニターを見ている。どんなヘタッピーでも魚さえいれば魚獲れる。

・しかし供給過剰、魚価の低迷と負のスパイラルに陥ってしまった。漁業の中ではルールがあんまり決まっていなくて、何時に出港しても何時に帰港してもOK。早い者がち、獲った者がちの構図ができた。漁師の合い言葉は「魚が少なくなったね、魚種も少なくなったね」。そりゃそうだ。獲っちゃうから。

・世界的に見ても資源枯渇の前兆と言わざるを得ない。資源管理が出てきたが、自分の収入を規制することには抵抗があるのが現実。

・魚の価値を最大限引き出す上で着目したのが次世代型ブロックチェーンを応用したトレーサビリティシステムの構築だ。情報共有することで消費者に「知ることの権利」を分かってもらう。

・水産物は日本の重要な共有財産。消費者も自分たちの財産について知る権利を行使してもらいたい。どういう生い立ちを経てきたのか、IUU漁業で獲った魚じゃないのか、由緒正しい魚なのか。そういうことを知ることによって消費者は安心安全を得られる。社会的にステータスも向上する。

・あるアンケートによると、絶滅危惧種を避ける日本の消費者は全体の38%と28カ国中最下位。ワースト2のロシアでさえも70%も意識している。持続可能な水産物を選ぶ意識も40%と最下位。いかに水産資源の持続可能性に日本の消費者が関心がないかだ。看過できない。

 

海光物産からのプロセス

 

■水揚げから消費者のテーブルまでを可視化する

 

・今は水揚げまでが電子化されているが、今後は「Ocean to Table Council」を通じて、さらに消費者にわたるまでのプロセスを明らかにしたい。

・レストランのメニューの中にQRコードを埋め込み、獲った漁師の顔が分かるようにする。料理にレシピも栄養価まで分かるようなシステムにしたい。すべての魚の流れがスマホから読み取れる。

・漁業者は魚の価値をもっともっと引き出していく必要がある。新たな価値も創造していく。伝えていくことも重要になる。なかなか動かない行政も現場から声を上げたい。消費者の皆さん、もっと目覚めて下さいよ、世界はもっともっとサステナブルを意識していますよ。

 

魚の価値を消費者と共有したい

 

■魚は自分の価値を知らない

 

・海に泳いでいる魚は、自分の価値を知らない、高級魚であることを知らない。魚に成り代わってレストランや料理人にこのブロックチェーンのシステムを材料として伝えていきたい。

・料理人がリードして、漁師、消費者、それぞれの意識を高めていく。絶滅危惧種をメニューから外して、シェフがお客のそばに行って「この魚は置いていない」と言うのが一番効果的だ。

・料理人は食と向き合う者として、消費者からリスペクトされているからだ。より一層料理が引き立つのではないか。

・魚は勝手に生まれて勝手に育つ。さらにこんなに栄養価が高い。次世代の子どもたちには伝えていきたい。

・忘れてならないのはマイクロプラスチックの海洋汚染も重要だ。2050年には魚の量を上回る推定数字も出ている。1分間にトラック1台満載のプラスチックゴミが海洋投棄されているとの報告もある。

・ゴミの40%は漁具。漁網や発砲スチロールの箱も自然に返るものを開発したいと取り組んでいる。

 

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