「デジタル敗戦」を招いた「プラットフォーム」を作れない国民性と投資施策の欠如=越塚登東大教授

 

 

登壇した越塚東大教授

 

ゲスト:越塚登(東京大学大学院情報学環長・教授)
テーマ:デジタル庁とマイナンバー
日本記者クラブ@2020年12月7日

 

■コンピューターの速度上昇は終わっている

 

データ戦略やデータ連係に詳しい東京大学大学院の越塚登情報学環長・教授に、年内にも政府の設立基本方針がまとまるデジタル庁の役割、制度、システムの設計について留意点などについて聞いた。

・電子計算機が発明されたのは1937年。大体20年に1回くらい大きなことが起こる。1960年代には大型計算機の時代、80年代はマイクロコンピューターの時代、2000年代はインターネットの時代だ。20年代はIot+AI=Dataの時代。コンピューターはすたれたのではなく、被さる形でどんどん新しいものが出てきている。見直すにもタイミング的にいい時期だ。

・コンピューターの技術は停滞している。速くならない。コンピューターの速度上昇はもう終わっている。単独のコンピューターは速くならない。単に複数並べているだけ。個数を稼いで速くなっているのにすぎない。単体では速くない。

・量子コンピューターは限定的で、通信の方がまだ高性能化する。新技術も減少している。ひと通り研究し尽くした感がある。テクノロジーの進展はスローダウンしている。

・急速な進展はインフラの整備とそれによる応用の質と量の拡大が重要になっている。有線通信、無線通信、クラウド、教育、データ、制度・・・。

・デジタル庁は初めて出てきた話ではない。戦後の情報通信政策は経済産業省(旧通商産業省)と総務省(旧郵政省)で所管してきたが、1997年の橋本龍太郎内閣で中央省庁再編に伴う議論があり、「情報通信省」構想が浮上。デジタル庁創設議論が始まった。

・2000年には情報通信技術戦略本部(IT戦略本部)を内閣に設置し、国際的に競争力のある「IT立国」の形成を目指した施策を総合的に推進するための司令塔づくりとなった。e-Japan戦略Ⅰ、e-Japan戦略Ⅱ。13年には世界最先端IT国家創造宣言、15年マイナンバーの指定始まる、16年 Society5.0(第5期 科学技術基本計画)、16年官民データ活用推進基本法が成立、20年デジタル庁構想。

・2011年東日本大震災で課題が露呈した。東北で被災者名簿を作ろうと思ったら、市町村ごとにシステムが全部バラバラ。例えば漢字や文字など文字コードの問題があった。違うデータ形式でやっていたので、AとBの名簿を一体化することすらできなかった。問題はあったが、データ元年とも言われた。

・2020年には新型コロナウイルスという国家的困難がやってきた。デジタル庁構想。

・国内的にはデジタル技術の利活用の課題がある。「日本は技術水準は高いが、利用が進まない」と言い続けられてきたほか、デジタル人材がベンダーに偏っているとも指摘されている。

・一方、国際的問題としては半導体産業の凋落がある半面、京、富岳などスーパーコンピューターの成果は上がっている。ゲームソフトやサブカルチャー系のデジタルコンテンツも悪くない。

 

■日本の課題はプラットフォームが作れないこと

 

・日本は「デジタル敗戦」と言われるが、それだけではない。世界的競争力のあるものがまだまだたくさんある。「緊急地震速報」などが出来ているのは日本ぐらい。

・なぜ日本が「デジタル敗戦」と言われるのか。インタ-ネット以前の段階でデジタルが綿密に作り込まれていたからだ。苦しいところ。作り込んだところからどう移行するか。単純に遅れているわけではない。少し前の技術に合わせて綿密に作り込んでしまった。

・びっくりするような利活用の例も存在する。請求書などを徹底的に作り込んで使っている。日本以外にはない。エクセルやパワーポイントの利活用。年賀状作成。ただ時代はそういうところではなくなっている。悩ましいところだ。

・日本の一番の課題は何か。プラットフォームだと思う。アプリがたくさんある中で1個1個を個別に作っていたらコストがかかる。そこでプラットフォームを作って共通部分についてはみんなでシェアできる基盤システムを作る。非常にクオリティーの高いものを安いコストで作ることができる。

・プラットフォームがなければ、結局安くはならない。みんなのサービスの基盤が乗っかるシステム。システムだけではなくそれを動かすために規則、ルールとかビジネスモデルとかが必要になってくる。それらを一体化したものをプラットフォームと呼んでいる。日本の利活用政策が成功しない理由は、プラットフォームをやらないから。

 

■不得意な上、政府の投資施策もなかった

 

・今まで1回も世界を制覇したことがない、世界に出て行ったことのないのがプラットフォーム。日本初のプラットフォームはない。重要なことはITの分野だとプラットフォームがあってからサービスが出てくるというのが基本。

・大体プラットフォームが世界を制覇して、それによってサービスが安く提供できる。その分野が花開く。こういう歴史をたどっている。技術があってもプラットフォームを作れない。

・プラットフォームが日本で作れないのはなぜか。不得意なのは日本だけではない。東アジア共通の課題だ。国民性がある。急がば回れ。日本人、韓国人、中国人は目的があって短時間で取りに行くのは得意だが、ヨーロッパ人は逆だ。

・アジア人は目的があればはしごを使うのに対し、ヨーロッパ人は土を盛っていって取る。国がてこ入れしてきた分は強くなってきた。テクノロジーに関しては投資もあって強い、利活用も強い。プラットフォームは投資する手法やメカニズムが確立していなかった。プラットフォームを育成する施策はなかったんじゃないか。

 

 

 

 

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