農業は生産性が低いと言われ統計的にはそうだが、大規模農家と小規模農家との間では100倍以上の格差も生じている=坂上隆さかうえ社長

 

株式会社さかうえの坂上隆社長

 

スマート・テロワール協会主催の第5回オンライン講演会が5月5日開かれ、鹿児島県志布志市で大規模農場を展開する株式会社さかうえの坂上隆社長が登壇し、「『さかうえ』の王道経営と人材育成」と題して講演した。

・農業の現状について大泉一貫宮城大学教授『フードバリューチェーンが変える日本農業』などを中心に話してみたい。農業は他の産業からすると「生産性が低い」と言われ、GDPでみても労働生産性でみても3分の1以下だ。私も農業界に入ったとき、朝から晩まで働いてこの先どうなるのか。ビッグになりたいが、一体どうなるのか途方に暮れた。

・農業産出額の推移をみると、バブル当時は11兆円以上あったが、現在は約9兆円。農業の成長も衰退も生産性次第だと思っている。

・農業経営体数は100万。今後もっともっと減っていくのが危惧されている。しかし新規就農者も微増しており、農業界の雰囲気も変わってきているのも確かだ。

・地域や経営体によって生産性は大きく異なる。鹿児島や宮崎は畜産、千葉、群馬は都市近郊型の野菜中心。豊かな農家も結構多い。鹿児島も結構大規模な土地利用型で畜産や野菜に取り組んでいる。鹿児島では去年、農業産出額が5000億円を突破したが、6割は畜産だった。牛、豚、鶏などの畜産がけん引している。

・農業は生産性が低いと言われながらも地域、地方、市町村での格差が大きいのが統計上分かる。小規模農家を1とした場合、中規模は15倍、大規模は124倍。これだけの生産性格差が出ている。県別でも地域でも差がある。形態別でも100倍以上の差がある。

・農業全体ではもうからないとか生産性が他産業より低いと一般的な指標に表れているが、個別形態でみると既に他産業以上のところもあることがこれらデータからみて取れる。

・1戸生産農業所得の伸びは1990~2010年の20年間で1.05倍とほとんど変わらなかったが、2010年以降は1.4倍、1.8倍と急伸し、2030年には40から50倍の可能性も考えられる。

・42歳で大学院に行ったときに一番衝撃的だったのがこのデータ。今は100万軒くらいの農家で9兆円の売上高を上げているが、1割の農家が半分以上の売り上げを占めている。1千万以下の農家、1千万~5千万の農家、それ以上の農家で分類すると約1割の農家が半分以上の売り上げを占める。

・1千万以下の農家は9割いるが、農業産出額は2割しかない。1千万以上は1割だが、産出額は3割強だった。5千万以上の農家は全体の2%くらいしかいないが、約半分の農業産出額を出している。こういうことが加速する。こういう大規模化が進展する。小規模農家はなくならないが、ある程度の規模にならないと経営は難しいと想像できる。

・野菜はほぼ100円。これは30年くらい変わっていない。これは農家所得にも関係しているのではないか。売値は決まっている中でいかに機械化を進めたり、効率化を図ることで1本の原価を下げていくか。これがわれわれに課せられた課題だったが、生産性を上げるために機械を大型化したりしてきた。これが如実に数字に表れている。

・わが家も2000万くらいの農家だった。今年で7~8億円くらいまでいく。プロセスは簡単ではなく、いろんなステージを乗り越えてきたとの意識もある。

・5000万円以上に行こうとするとただ人を雇用するだけではなくて事業を拡大したり、組織をうまく作ったり、多角化をしたり、経営者能力の改革を続けていかないと難しい。事業拡大する農業経営のイメージだ。

・日本の労働人口は6000万人弱。1人親方は1割ほど。50~99人1.8%、100人を超えると。規模拡大は農作物を作るより人数が増えたときのほうが難しい。

・政治が変わるといろんなものが変わる。保護農政→成長農政。市場を見て農業がどうあるべきか。プロダクトアウト→マーケットイン。いろんな人が動き始めた。

 

■チャンスをつかむ努力が必要

 

・会社設立は1995年4月。今年53歳になる。24歳で実家に帰り、3年後に法人化した。さかうえの管理する畑の総面積は160ヘクタール。実際にはいろんな作付けをやって200ヘクタールを超える畑で作付けを行っている。

・事業としては契約栽培、畜産、牧草飼料。お客さんと契約を結んで納品する。公共事業みたいなもので、先に値段や数量を決めて納品する。馬鈴薯をカルビーやキールをファンケル、キャベツ・ピーマンをスーパーに納める。畜産は2年前から始めて牛を肉にして販売する。デントコーンや牧草を作付けして畜産農家に販売する。こういったものが中心になっている。

・実家に帰った頃は芝を作っていたが、バブルが終わってなかなか芝が売れないときだった。芝は冬は休眠するので労働力調整で漬物用の大根を作っていた。1本26円。経験のある父親と経験のない息子が分かったような顔をして親父と意見が対立する。技術も身に付けたかった。結果的に100円で売ろうとしたものが、10分の1以下に。豊作貧乏に陥った。経営の転換期になった。

・ここから契約栽培に切り替えた。どうやって契約を取り付けるか。「新しい何かを作ってくれないか」というタイミングで作った方が一番良い。積極的、攻めの待ち

・何年かに1回は何か作ってくれないかというタイミングがくる。災害や天候などで需給バランスが崩れる時が必ずある。声がかかるときが必ずある。土地を確保できるタイミングも重要だ。空いてる畑にデントコーンを作ってストックして販売した。

・農産物の価格が変わるのは足が早いから。腐るから。デントコーンをサイレージ化することによって数カ月、1年は保存が効く。缶詰だ。缶詰を作ることによってタイミングを調整できる。

・野菜をうまく作ろうとすると物理性(トラクター稼働)、化学性(施肥)、生物性(微生物のバランス)の3要素が必要だが、生物性だけは目に見えない。指標化しにくい。感覚を取り付けるまで10年かかった。畜粉堆肥を投入して微生物を豊かにし畑を富ませる。有機物循環農法に取り組んだ。

・土作りで畜産農家との連係ができ、ビジネスチャンスをつかむために土地を確保し、環境対策から排出権取引の活用も考えた。デントコーンを作ることで解決を図った。カーボンサイクルも検討した。

・粗飼料(牛に食べさせるために作った牧草)と濃厚飼料(主に海外から輸入される植物の実)。飼料全体に占める日本の自給率は20%と食料全体の自給率(40%)の約半分だ。

・自分でやれることはやってきたが、今後は経営を支援していく必要がある。ピーマンを作る仕組みを考えた。理系の人材が施設をやるとうまくいく確率が高い。つまりロジックがしっかりしていればできるはず。作ってくれないかとの声もあった。3ヘクタール。来年はグループ全体で10ヘクタール超を計画している。日本の1%超。

・自分たちで作れる仕組みが必要だ。チャンスをつかむ努力。ジャガイモは科学的に計算された慣行農法、ケールは無農薬栽培、大根は定植と収穫の生産サイクル。毎日出荷する。定植から収穫までに春から夏は45日、秋から冬は120日かかる。複雑なスケジュールを組む必要が出てくる。単なる農作業だけではなく、システム、仕組み、スケジューリング、工程管理が必要になる。

・多彩な農法=技術。1つの農法にこだわらず、必要な農業技術(鎧)を提供する。確実な経営発展、戦える経営を目指す。強い経営体になっていく。

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