中国の対米関係は「長期戦、持久戦」=「頭を下げない。あくまで対等で交渉する」=朱建栄東洋学園大学教授

 

登壇した朱教授

 

ゲスト:朱建栄(東洋学園大学教授)
テーマ:米中対立の本質と行方ー台湾・香港・新疆問題への新しい視覚ー
2021年5月25日@日本記者クラブ

 

朱建栄東洋学園大学教授が日本記者クラブで会見し、「米中対立の本質と行方」と題して話した。さらに台湾、香港、新疆問題への新しい視覚を提供した。朱氏は1986年に来日し、学習院大学で博士号を取得し、96年から東洋学園大学で教鞭を執っている。

・2年前にも話をしたが、その時と2つ大きな違いがある。当時日中関係はかなり明るく輝いていた。日中新時代だった。習近平氏の訪日を約束したが、情勢が混沌とし問題が生じている。もう1つはコロナの影響でオンライン会見になったことだ。

・情報・資料についてはジャーナリストにかなわないが、「中国をどう見ればいいのか」については中国の発想、考え方や研究者・学者として10年、20年、30年の大きな流れの中で趨勢を見極めることで、貢献したい。

 

■バイデン大統領と中国

 

・バイデン政権は「中国が最大の競争相手である」との認識はトランプ政権から継承されている。中国はかなり強いところまでまできていると米国は認識している。ただ米国は「中国を本気で脅威」と考える一面と、中国を理由に米国内をまとめ、政策を通しやすくするための計算も働いている。米国という大国を1つにまとめるにはシンプルなスローガン、1つの最大公約数が必要だ。

・「今のアメリカは中国に追いつかれようとしている。汚い手を使って追い抜こうとしている点を無視できない。逆にこれを活用しようとしている面もあるのではないか。米国にはEV(電気)自動車などで対中敵愾心を利用する一面もあるのではないか。

・トランプ政権のポンペオ前国務長官は中国政府とは言わない。中国共産党政権、共産党グループと呼んでいたが、バイデン政権は中国政府、習近平国家主席と呼び、個々の問題で注文を付けている。競争もあれば協力もあると既に修正している。

・外国人留学生や観光客の受け入れ、孔子学院などに対する一部の厳しい規制も微妙に修正している。

・バイデン大統領は中国と縁が深い。これまでに4回も訪中している。1979年にカーター政権下に米議員団の一員として初訪中。2001年に2回目。副大統領だった11年の訪問では、国家副主席の習近平氏が1週間近く同行。幅広く意見交換した。NYタイムズによると、習氏の12年訪米などと合わせ、2年で両氏の会談・会食は計25時間に及んだ。

・13年にバイデン氏が訪中した際、国家主席となった習氏は「老朋友」(古い友人)と呼んで歓待したという。バイデン氏が大統領に就任後、何度も中国、習近平氏に言及している。自分は中国を一番知っている、習氏を一番知っていると口にしている。

・バイデン氏はホワイトハウスで地方の幹部と会った際、「米国のインフラは中国に比べいかに遅れているか知っていますか」と述べた。「北京と上海まで1300キロ。今は高速鉄道で4時間半でつながっているが、ニューヨークからシカゴまでもほぼ同距離だが、われわれは21時間かかっている。これで中国のインフラに勝てますか?」。バイデン氏は中国のことを割と分かっている指導者でもある。

 

■アンカレッジ会談の対米批判は国内向け

 

・バイデン政権は2022年11月の中間選挙までは国内問題に優先的に取り組まなければいけないというのが中国ウオッチャーの見方だ。コロナ対策、社会の亀裂対策、トランプとの対立などの問題もある。経済の復興も課題だ。中間選挙で負けたらレームダックが早く到来するので国内対策最重視を推測できる。

・そういう中での外交は、トランプ政権の失地立て直しが中心だ。体制作り、体制立て直し中だ。中国を受け身に回らせる外交をやっている。対中で全面的に包囲網を作り、対抗作戦に出ているかは別だ。また温暖化対策や北朝鮮問題などで対中政策が復活する可能性もある。

・米中は21年3月、米アラスカ州アンカレッジでバイデン政権発足後初の米中外交トップ会談を行った。米側はブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官、中国からは楊潔篪党中央政治局委員と王毅外相が参加した。

・ブリンケン長官は冒頭から「中国の新疆ウイグル自治区、香港、台湾での行動や対米サイバー攻撃、米国と同盟関係にある国々への威圧的行動」に強い懸念を示した上で、「中国の振る舞いは世界の安定維持に関する法規秩序を脅かすものだ」と批判した。これに対し楊政治局委員は内政干渉だと猛反論し、米国でいま深刻な問題となりつつある黒人差別や虐待に関する”BlackLivesMatter”の問題まで持ち出して米国を強く非難した。

・冒頭の応酬は両国とも国内的に見せる必要があったのではないかと考えられる。中国としては「過去米国にいじめられたが、もはやそういう存在ではない。上から目線で中国を見る時代は終わった」と発言したら、国内で喝采を受けた。国内のストレスに向けた発言の一面があったのではないか。

・米国内でも「中国は最大のライバル」との認識が形成される中で、中国には厳しいところを見せてから新しい関係を考えなければならないという意味もあった。

 

■中国は米国と「対等」で交渉する

 

・台湾政策についても米国は「1つの中国」というあいまいさを保つことで決着している。1つの中国に正面から挑戦することをひとまず避けたとみることができる。米中関係は互いに探り合いをし、どうやっていくのか戦略を制定し陣取り合戦をやっている段階ではないか。

・中国としては「米中対立は短期間で解決・解消できるものではない。長期戦、持久戦で望む」という方針は決まっている。米国はここ2,3年、貿易問題、台湾問題などでルールを無視してきた。米国の過ちを是正するかどうか見守りたい。

・中国の楽玉成外務次官は4月16日、AP通信とのインタビューで「これからは中国は米国に頭を下げて改善はしない。あくまで対等でやるんだ」というメッセージを発した。

 

 

 

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