後発薬が市場から消え欠品相次ぐジェネリック業界=背景に大手メーカーの不祥事やコロナ禍

 

ロペミン

 

■大腸がないのは辛い

 

潰瘍性大腸炎を発症して大腸全摘手術をしたのは6年前。大腸がないので排便機能が失われた。失われたけれども、物を食べる以上排便は必要だ。大腸の持っていた排便機能を代替するのが小腸だ。無くなった機能を果たす。

問題は食事物が口で咀嚼され、胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに小腸で分解し、栄養素を吸収する働きをする。小腸は身体の中で最も長い臓器ともいわれ、約6mほどもあるという。

吸収された栄養素は血液によって肝臓に運ばれ、残りのドロドロの粥(かゆ)状の物質は大腸に運ばれる。大腸の長さは1.5mほどで、食事をして便が排出されるまでは通常24~72時間かかる。

大腸は、水分やミネラルを吸収し便を作る働きをする。大腸がないと、極端に言うと、この肝心の便が作られない。小腸が大腸の代わりを務めるとしても、便に含まれる水分を吸収しにくい。下痢状態が続くことになる。

どうしても排便が難しく、ヘタをすると排便障害を起こしてしまう。食べ過ぎや飲み過ぎ、ストレスなどは最悪で、常に「下痢対策」が必要だ。排便に失敗すると、排尿障害以上にひどい状態に直面することになる。これは辛い。

大腸の代わりに便を作る機能を持つのが小腸だ。しかし、小腸は大腸のように便に含まれる水分を吸収しにくい。そこでロペラミドが処方され、排便できるのだ。もちろん通常の便よりも軟らかく、水分も多い。下痢ではないが、”下痢的”な便だ。

大腸(上行結腸→横行結腸→S字結腸→直腸)の最後の部分である直腸の便は約75%が水分で、残り約25%が固形成分。水分が80%を超えると下痢になる。止瀉剤(下剤)は下痢にならないように直接直腸に働きかけて水分を吸収しているという。

この調節が難しい。普通の人は大腸があって問題なく排便しているが、大腸のない人間にとっては排便は意外と難しい。しかしこの排便をうまくやらないとならない。薬を頼りに排便している。

「快食・快眠・快便」といわれるように、便通は健康のバロメーターである。「君はもう二度ととぐろを巻いたようなバナナ状の便は出ないよ」と言われて久しい。

 

ロペラミド塩酸塩

 

■カプセルから粉薬に逆戻り

 

この下痢対策として術後ずっと飲み続けているのがロペラミド塩酸塩カプセル1mg「タイヨー」。製造メーカーは武田薬品工業49%出資の武田テバファーマで薬価は1錠当たり当たり6.7円(2019年3月26日現在)。白色不透明のカプセル剤である。

これを飲み始めて4年ほどたったある日、診察を終え処方箋をもらって行きつけの薬局に行ったら『ロペラミド錠1mg「EMEC」』(サンノーバ製、ジェネリック)という錠剤に切り替えると言われた。切り替えるとしても、効能も下痢症対策で薬価も6.7円と前者と同じだった。サンノーバはアルフレッサホールディングスのグループ企業で、エーザイ傘下のサンノーバを2016年4月完全子会社化した。

ちなみにEMECはエーザイの後発薬製造会社エルメッドエーザイの略称。しかしEMECはジェネリック最大手の日医工株式会社(富山市)に買収され、社名もエルメッドに変更された。医療品業界もM&A(企業の合併・買収)が実に激しい世界だ。

ロペラミド塩酸塩カプセル1mg「サワイ」(1カプセル当たり6.7円)は沢井製薬(大阪市)も製造していたが、8月、規格に適合した原薬の確保ができないことを理由に、特約店・販売会社への出荷調整の後、在庫がなくなり次第、供給を一時停止を発表した。

沢井製薬は代替品として正規品の「ロペミンカプセル1mg」(1カプセル当たり36円、ヤンセンファーマ製造)への切り替えを提案しているが、アイン薬局ではカプセルも確保できず、散剤(粉薬)より粒子が小さい細粒剤を提供した。

場合によっては今は手に入るコロネル錠500mgやビオスリー配合OD錠など他の薬剤にまで影響が出てくるのではないかとの懸念も出てきそうだ。

若い時は薬などあまり重要視してこなかったが、歳を取ってくると、薬の大切さ、怖さが分かってくるものだ。薬を適当にしていたら、体調に直接響いてくるからだ。薬はぞんざいな扱いをしてはいけないことをこの歳になって知った。

 

正規品のロペミン細粒剤

 

■何とももはや「錠剤」から「粉薬」に

 

大腸肛門科には3カ月ごとにかかっている。そこで処方されるのはコロネル錠500mgとビオスリー配合OD錠と下痢止め剤ロペラミドだが、12月16日に薬局に行ったら「ジェネリックのロペラミド錠1mg『EMEC』」の在庫がなくなった。正規品で対応してほしい」と言われた。

そう言えば、最近薬が減っていて、必要なものがなかなか入手できないというニュースが流れている。これまでは薬が無くなるなんて考えてもいなかった。しかし、それが現実に起こっている。それも自分の身にも振り返ってきた。

正規品とはいうものの、実際に処方された品を目にすると、細粒。粉薬だ。昔に逆戻りである。昔服薬するときはすべて粉薬だったことを思いだした。袋に粉が入っていて、一気に飲む。薬とはそういうものだと思って飲んでいたが、いつの間に錠剤になり、いまはほとんどがカプセルだ。

それが正規品とはいいながら昔ながらの粉薬である。飲みづらいこと甚だしい。高血圧予防薬や不整脈改善薬などほかにも飲んでいて1日3回飲む。1週間分を箱の中に詰め込む。その作業が結構忙しい。しかし、細さく折りたたんで小さな薬箱に収まりきれないのだ。

困った。飲み方からして他の錠剤やカプセルとは違う。時間もかかって仕方がない。

薬価も上がった。これまでのロペラミド錠1mg「EMEC」は1350円だったが、正規品のロペミン細粒0.1%に切り替わったことで2160円へと1.6倍に跳ね上がった。

 

■後発薬の使用割合、一部は80%台も

 

「後発医薬品」とは、先に開発・販売されてきた「先発医薬品」に対し、先発医薬品の特許が切れたあとで製造される医薬品のことを指す。海外では医師が処方箋にブランド名(商品名)ではなく、ジェネリック名(成分名)を書くことから、後発医薬品はジェネリック医薬品と呼ばれている。

新薬は開発に時間がかかり、膨大な費用も必要。一方で、後発薬は先発薬と同じであることを科学的に証明する試験をすることで開発できるため安価で販売できる。患者も安価は嬉しいし、医療費膨張に悩む政府も喜ぶ。ウィンウィンの関係だ。ただ製薬会社は苦しいだろう。

厚労省は2013年(平成25)4月、「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を策定。2015年6月には17年央にはジェネリックを70%以上に、17年6月には「ジェネリックの使用割合を80%とする」よう閣議決定されるなど使用促進を打ち出している。

主に中小企業のサラリーマンとその家族が加入する「協会けんぽ」(運営者・全国健康保険協会)が7月14日に公表した医薬品使用状況によると、協会けんぽにおけるジェネリック医薬品(後発品)の使用割合は21年3月末には80.4%となり、28道県と多数を占めた。

 

■「ジェネリックが足りない」との声も

 

しかし最近、「ジェネリック医薬品が足りない」状態が起こっている。国が音頭を取る形で、ジェネリックの旗を振っていただけに話が違うのではないかとの声も聞こえている。ジェネリック使用は政府主導だったためだ。

高齢者にとってもの医療費の負担は重くなっている。費用が安いほうが嬉しいけど、治療をやめるわけにはいかない。薬は身体に直接影響があり、変えることで変な症状が出て体調を崩した例もあるようだ。

ジェネリック医薬品の供給に支障が起きている背景には医薬品メーカーで相次いだ不祥事があるようだ。日医工は昨年4月から今年1月にかけて品質の不備などを理由に75品目を自主回収。小林化工も昨年12月、抗真菌薬に睡眠薬が混入していることが明らかになり、服用していた245人が健康被害を訴え1人が死亡した。

AnswersNewsによると、両社は承諾書から逸脱した不正な製造を行ったとして、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく業務停止命令を受けた。その後も長生堂製薬や共和薬品工業などで製造上の不備が発覚し、供給制限を行う事態となっている。

国内には約200社の後発薬メーカーが存在する、このうち日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)に加盟する38社だけでも、供給を絞っている品目は21年10月12日現在で1869品目に上っている。

GE薬協は小林化工を除名、日医工と長生堂製薬を5年間の会員資格停止処分を実施する一方、会員企業に製造手順やコンプライアンス(法令順守)体制の点検を要請し、経営層に対する研究を強化するなど、信頼回復に向けた取り組みを強化しているが、そう簡単ではなさそうだ。

「ジェネリック医薬品の需要増に伴い、生産数量・生産品目数も急増したが、これに対応できる人員、設備が整っておらず、ひっ迫したスケジュールの中で業務に追われ、出荷試験不適合の件数も増加していった」と日医工の外部調査委員会は指摘している。

欠品や出荷調整は新型コロナウイルスも影響している。薬の製造には有効成分となる「原薬」が必要で、ジェネリック医薬品の約半分はインドや中国など海外から輸入している。しかし感染拡大で海外の工場の操業が止まったり、航空便が減少したりして原薬の輸入が滞る事態になったからだ。

 

■「供給不安の解消には2~3年かかる」

 

薬局側の供給は綱渡り状態で、年度末の改善は難しいそうな情勢だ。欲しい薬が手に入らない患者の負担は大きい。NHKによると、骨そしょう症の治療薬「エルデカルシトール」はカルシウムの吸収を助け、骨を丈夫にする効果がある薬だが、慢性的に不足しているという。

ジェネリックだけでなく、先発薬も不足し患者に薬を処方できない期間があった例や、血圧を下げる薬が不足し、別の後発薬に切り替えたところ、血圧が下がらず、めまいなどの症状が出るなどして体調を崩した例もあるという。

ジェネリック医薬品に詳しい医師の武藤正樹・日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役はNHKの取材に対し、「大手メーカーが出荷調整を続けている穴が大きく、大手の供給が通常通りにならないと、供給不安は解消できない。完全な正常化は2~3年かかるともいわれている。これ以上供給不安が起きないようにするため、他のジェネリック医薬品企業も品質管理を徹底すべき」と語っている。

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