【会見】ロシア依存度高くLNG受け入れ基地建設急ぐ欧州と契約形態変更で輸入コスト急騰も起こり得る日本=橘川武郎国際大学副学長

登壇した橘川武郎・国際大学副学長

 

テーマ:求められる日本のエネルギー戦略
ゲスト:橘川武郎(きっかわ・たけお)国際大学副学長・大学院国際経営学研究所教授
東京大学・一橋大学名誉教授/総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員
2022年6月29日@日本記者クラブ

橘川武郎・国際大学副学長が電力需給ひっ迫の背景や今後の供給の見通し、世界の資源・エネルギー情勢について日本記者クラブで話した。司会は企画委員の竹田忠(NHK)

 

■石炭は脱ロシア化が先行

 

・日本のロシア依存度は石炭11%、天然ガス9%、原油4%。この水準はG7で言うと真ん中の位置だ。米国とカナダは対ロ禁輸などと言っているが、もともとロシアからエネルギーを輸入していない。エネルギー需給率は100%を超えている。輸出国だ。

・一方、ヨーロッパ4カ国はロシアへの依存度が高くて日本が10%程度なら数10%のレベルでより非常に深刻な状況にある。日本は中程度の影響に見えるが、日本のエネルギー需給率は11%にとどまる。ヨーロッパ諸国は国によって違うが、需給率は数10%ある。日本は率で言うとヨーロッパより楽だが、量でいうとより深刻な問題だ。

・石炭、石油、天然ガスで違いがある。石炭のウエートが一番高いが、石炭の脱ロシア化が先行している。ロシアに代わる輸入先を見つけやすい。大手の電力会社ではなく、規模自体はそれほどでもないが依存度が大きいセメント業界が一番大変だ。石炭の脱ロシア化のポイントはセメント業界にある。

・原油は石炭ほど簡単にはいかない。石炭ほど早くはないペースで進んでいる。代替輸入先が中東に限られている。米国のシェール原油は国内で消費され輸出余力がない。中東が増産に応じてくれれば問題ないが、違う地政学が働いている。

・サウジとアメリカの関係が歴史上一番悪いということもあるが、それ以上に中東が原油市場の価格支配力を確保するためにはシェアが足りないのでOPECプラスの枠組みが必要になる。プラスの中心勢力がロシアだ。むしろロシアとOPECが手を組むことによって原油市場の支配力を維持するのがOPEC諸国の戦略になっている。

・西側から圧力がかかっても中東がなかなか増産に応じてくれないのはこのためだ。ロシアのルーブルの価値もいったん落ちたが、復活しているのは基本的にはこのオイルマネーの流れだ。

 

■深刻なLNG問題

 

・しかし何と言ってもウクライナ危機の最大の問題は天然ガス。ヨーロッパと日本では事情が異なる。ヨーロッパの場合、チャネルが変わる。これまでは陸路でパイプライン・気体で持ってきたが、海路で液化天然ガス(LNG)の形にしなければならない。新たにLNGの受け入れ施設を作らなければならない。相当な投資が必要で時間もかかる。ドイツが必死にやろうとしているが、早くて2年かかる。

・日本の場合はLNG先進国でパイプライン入れようにも無理。LNGというコンセプト自体が日本が作りだして世界に広げたもので、たくさん輸入基地がある。問題は契約形態。原油に連動した長期契約である。3.11以降問題になった。シェールが出てきてスポット価格のほうが安くなった。3.11以降は長期契約をいかに減らすかが課題だった。

・ところが2020年後半以降、情勢は急変。長期がスポットより安くなった。結果オーライ。電力料金、ガス料金が上がっているが、ヨーロッパに比べるとはるかにマイルドな上がりぐあい。ヨーロッパ主要国ではここ2年でガス代が数倍になったところもある。長期契約のウェイトが8~9割と高いことが日本の消費者および経済を支えている面がある。ヨーロッパも6割が長期契約に変えているが、数年前に長期契約分を含めてスポット決済すると契約を変えたのが痛手だ。

・日本は長期契約をスポット契約に変更すれば、LNG調達コストが跳ね上がる。これが日本特有の問題だ。ヨーロッパはLNGの受け入れ基地を作らなければならない。日本は契約形態の変更による天然ガス調達コストの急騰がウクライナ問題のコアになっている。

・依存率9%は押しなべての数字だが、広島ガスは約5割、東邦ガスは約2割がロシア産の天然ガスに依存している。両エリアでとんでもないガス代の急騰が起こりかねない。まだそんなに動いてはいないが、西部ガスも北極海に権益を持っている。

・日本の権益であるサハリン2(三井物産、三菱商事)は死守しなければならない。サハリン1にはLNG輸出基地がない。出てきた天然ガスはパイプラインでしか売れない。日本向けにはパイプラインがないのでロシアに向かって売っているのが実態だ。

・日本にやってくるのはサハリン1からは原油だけ。日本政府が権益を持っている。撤退すれば、必然的にサハリン2につながってくる。サハリン2保護のためにもサハリン1を守るのが政府の立場である。これは「正しいのではないか」と思っている。

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